第8話 自分も一緒に戦いたい……

 僕は、夢でも見ているのか?

 華奢きゃしゃな女性が巨大な化け物をむちで縛って投げ飛ばし、屈強な男性が光り輝く異様な剣でその化け物をたたき潰した。そのあまりに現実離れした光景を、真一は信じられなかった。


 思考が現実に追いつかない。しかし、真一は心の奥が突き動かされるような気がしていた。

 目の前の出来事に、理屈ではない感情が込み上げてくる。

「すごい……」

一筋の汗が頬を伝う。真一は、鋼太こうた彩華あやかの戦いに魅せられていた。彼らが実際に命のやりとりをしていることは分かっていた。それが一歩間違えれば死に直結する危険なものであることは知っていた。そして、今その場にいる自分も決して安全ではないことも。しかしそれでも、もっと彼らの戦いを見ていたい、自分も一緒に戦ってみたいと、思わずにはいられなかった。


「すごいね! もう倒しちゃったの?」

校舎の方から女性の声がした。見ると、ミノリと名乗った少女が鋼太たち二人の元へ走り寄って来た。今までの彼女の言動や行動から、彼女がリーダーであると真一は予想していたが、彼女はまだ戦っていない。やったことといえば、自分をこの場に縛りつけたくらいだ。彼女も鋼太たちと同じく、特殊な能力を持っていることは間違いないが、あの二人よりも強い力を持っているとはどうしても思えない。

 真一は、彼らの会話に耳を澄ました。


「ヤッホー! ミノリン! 見てた見てた? 私たちのコンビネーション」

「うん、抜群の連携だったね!」

「ミノリさんの手をわずらわせるまでもありません。俺たち二人で楽勝でした」

「本当にぃ? 鋼太ったら、最初に悪鬼の攻撃受けたとき少しキツそうじゃなかった? 素直に実はギリギリでしたって言ったらどう?」

「いや、楽勝だった。そっちこそ、いつもより飛距離が短かったぞ。疲れていたのか?」

「いーや、鋼太の位置に合わせただけだもん!」

「俺はお前の投げた悪鬼の着地点に合わせて立っていたんだ」

ミノリは黙って鋼太たちの会話をしばらく聞いていた。しかし、しばらくたって少し声のトーンを落として、語りかける。

「話に水を刺して悪いけど、二人とも、自分の仕事は忘れてない?」

二人は一瞬ビクリとした後、わずかな沈黙が流れる。

「えーっと……何だっけ?」

少し焦ったような笑顔で、彩華は鋼太を見つめる。

「悪鬼から使えそうな素材をぎ取るんだよな。覚えている」

「そうそう! さぁ! もう一息頑張ろう!」

「油断しないで。そのもう一息が、一番危険だから」


 三人は悪鬼がたたきつけられてできた穴に集まり、その中を見下ろす。地中にめり込む悪鬼の甲殻こうかくはひび割れ、所々がれていおり、無数にあった足の半分は折れて使い物にならなくなっている。しかし、残った足はわずか

だがまだ動いている。

「……こいつ、まだ生きてるぞ!」

「しつこいなぁ!」

二人の声を聞くと、ミノリは瞬時に笛を構えた。

「鋼太さん、彩華さん! 一発で仕留めよう、今度は私も力を貸すよ!」

二人はうなずくと共に武器を構える。

「鋼太さん、とどめは一番攻撃力が高いあなたに任せる。全力でたたきつけてやって!」

「あぁ!」

「彩華さんは鋼太さんのサポートをお願い。悪鬼の動きを牽制けんせいして!」

「了解!」

「行くよ……!」

ミノリが笛に口を当てると同時に、鋼太の剣は再び輝きを放った。鋼太がその剣を振りかぶり、叩きつけようとしたその瞬間。


ドガァァァァァァァァァァァァァ!


 土煙と共に、悪鬼が穴から飛び出してきた。

 三人は急な出来事に驚いていたが、その目はしっかりと悪鬼を見据えていた。

「鋼太ぁ! 一気に仕留めちゃって! 外さないでよね」

「あぁ!」

鋼太の剣を握る手に力がこもる。こちらに襲いかかって来たなら、瞬時に反撃できる体勢だった。


 しかし、悪鬼は鋼太たち三人には目もくれず、全く別の方向へと向かっていった。

「何⁉︎」

「どうして私たちを無視するのさ⁉︎」

悪鬼は折れた足は使わず、長い胴体を使ってまるで蛇のようにっていく。

「……まずい、あっちには⁉︎」

ミノリたちが目を向けた先は校門があり、そこには真一がいるのだ。

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