第5話 君一人で倒せる相手じゃない!

「あの怪物を倒しに来たんだ」

ミノリと名乗ったその少女は確かにそう言った。

 今、真一の目の前にいる彼女の腕はとても細く、その背中はあまりにも小さい。身長だって真一よりも低く、今真一が握っている手だって力を入れたら砕けてしまいそうだった。こんな少女があの巨大な怪物と戦って、なおかつ倒すなど、真一には到底考えられなかった。


 二人はそのまましばらく走り続け、校門のそばまで来た。

「よし。ここまでくれば大丈夫かな」

ミノリは握っていた真一の手を離し、彼の目を見て話し始める。

「あの怪物、目はあんまり良くないの。出会った時にすぐ追って来なかったってことは、まだ見つかっていないはず。真一はここで待ってて、すぐにあいつを倒して戻ってくるから」

「本気なのか」

さも当たり前のように説明を始める彼女に、真一は疑問をぶつけずにはいられなかった。

「あいつを倒すって? あんな巨大な怪物を? そもそもあいつ何なんだよ? 君はどうしてあいつについて知っているんだ? 待ってと言うならせめて説明してくれよ!」

ミノリは一瞬驚いたような顔をし、少し考えた後、困ったような表情で答えた。

「ごめんね、いきなり色々言われたってびっくりしちゃうよね。あの怪物は、心の強い者を狙って襲うモンスター『悪鬼あっき』。十年前から突然現れた悪鬼は、必ず夜に現れて、人を襲う。ここ十年で起こった謎の行方不明事件や殺人事件の真相は、悪鬼のせいも多いの」

正直、突飛すぎる話で、真一には信じられなかった。しかし、実際に怪物、悪鬼を見てしまったからには、きっとミノリの話は本当なのだろう。

「私はその悪鬼を退治するために来たの。だから、悪鬼については色々知ってるよ。きっと、あいつは真一を狙ってる。だけど安心して、絶対に真一には傷ひとつ付けさせないから!」

「いや、分からないよ!」

真一は必死の表情で声を荒らげる。

「君があいつと戦う? 何言ってるんだ? 勝てるわけないよ。君はこんなに腕も足も細くて、身長は僕より小さいじゃないか。そのフルートにどんな力があるか知らないけど、絶対に倒せる相手じゃない!」

真一は吐き出すように思いをぶつけた。しかし、ミノリはそれでも動じず、ただ静かに頬笑ほほえんでいた。


「そうだね、私一人じゃ倒せない……」

その時、冷たい風が通り抜け、風にあおられた落ち葉が空高く舞い上がる。

「でもね真一。なら、倒せるんだ!」

夜空にきらめく無数の星たち。その内のいくつかが光を増し、またたいた。

 次の瞬間、ミノリの後ろには二人の男女が立っていた。

 不思議な形の大きな剣を持った屈強な男性と、むちを構えた細身の女性。

ミノリはその二人の方を振り返り、力強く言い放つ。

「よし、行こうよ。みんな!」

後ろの二人はそれを受け、さらに力強く答える。

「「おう!」」

その様子はまるで、戦いに臨む戦士たちの会話。真一が憧れたゲームの中のワンシーンと重なる光景だった。

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