第4話 あの怪物を倒しに来たんだ

 真一は全速力で学校へと走る。

 不思議な音、消えた少女、謎の爆発音。それら全てが真一を興奮させた。


 恐怖はあった。しかし、それ以上にワクワクしていた。もしかしたら、この先に、自分の求めているものがあるかも知れない。心躍る冒険が、特大の秘密が、素晴らしい仲間が手に入るかも知れない。そう思うと、胸が高鳴った。

 真一は無我夢中で走り続け、校門までたどり着く。そして、閉ざされた門を迷いなく飛び越え、学校の敷地内に入ると、周りを見渡した。爆発音はどこから聞こえたのだろうか、あの少女はどこにいるのだろうか。さまざまなことを考えながら、真一は夜の学校を探索する。見たところ特に変わった様子はないが、やはり夜の学校は薄気味悪い。誰もいない校庭に暗い教室。昼間は多くの人でにぎわっていた学校が今は物音ひとつ聞こえない。


 カランッ


 背後からの突然の物音に、真一はびくりと身を震わせる。振り返ると、一匹の黒猫が走り去り、その近くには空き缶が転がっていた。

「何だ……おどかすなよ……」

真一はそのまま去っていく黒猫を目で追った。猫はまっすぐ体育館の方へと走っていき、そのまま建物の影に消えていった。


 ガリッ


「……ん?」

真一が見つめた先、体育館の裏の影が少し動いた気がした。それに、妙な音まで聞こえてきた、気のせいだろうか。


 ガリッ ガリガリッ バキッ


 いや、気のせいではない。何かをひっかく音、それに何かが割れるような音まで聞こえてきた。木の影が揺れ、地面は震え、窓ガラスは割れ、建物の屋根が砕かれる。

 そして、影から現れたモノの姿を見て、真一は戦慄した。


 それは、全長二○メートルはあるであろう巨大な虫の怪物。そのムカデともカマキリともつかない全身は黒い殻で覆われ、無数の足と、二つの巨大な鎌のような鋭い爪を持っている。頭部に付いた八つの目をギョロギョロとうごめかせ、獲物を探すように首を回転させる。


「何だ……あれは!?」

真一は、驚きのあまり腰を抜かしてしまった。その時。

「こっち!」

「⁉︎」

真一の背後から声が聞こえる。振り向くと、校舎の影からあの時の少女が必死の表情でこちらに手を伸ばし、真一に呼びかける。

「早くして! 気づかれちゃう!」

真一はわけも分からず少女の方へと走っていき、そのまま手を取った。

「一旦離れるよ!」

少女は真一の手を握ったまま怪物とは反対の方へと走り出す。真一の握ったその手は細く、柔らかく、そして暖かかった。真一は今まで誰かと手をつないだことなどほとんどない。まして、異性の手を握ったことなど初めてだった。

 真一の胸の鼓動はかつてない程に高鳴っていた。しかし、それがこの少女のせいなのか、それともあの怪物のせいなのかは分からない。

「ねぇ、あなたの名前は?」

「えっ?」

走っている最中に突然話しかけられて、真一はとぼけた声が出てしまう。

真一しんいち……星野ほしの真一しんいち

「真一ね、うん、分かった。私は天川あまかわ御祈みのり。あの怪物を倒しに来たんだ」

少女は真一の方を向いて、笑顔でそう言った。

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