第2話 ゲームの中では……

『よし、いこうよ、みんな』

『なんだよ、こんなときに。いくぜ! くらい言えないのか?』

『ははっ……行くぜ!』

『『おう!』』

 自室に入った真一しんいちは、一人椅子に座り、ゲームをしていた。

 場面は最終決戦。ラスボスの待つ最深部へ向かう主人公たちの掛け合いのシーンだ。今まで様々な困難を乗り越えた仲間が一丸となり、一つの目標に向かって突き進む場面。もう何度も繰り返し見たそのシーンが、真一の胸に突き刺さる。


「強くなれば……仲間ができると思ったんだけどな」

 真一は、強くなって自分の有用性を示せば、自分を頼ってくれる人が増えると思っていた。そして、同時に仲間ができると思っていたのだ。

 真一は元々、人付き合いが苦手だった。相手の考えていることなんて分からないし、求めていることなんてもっと分からない。そんな真一が誰かと関わる方法があるとしたら、誰かから頼られることくらいだった。何かを頼まれ、それをうまく実行できれば、相手はまた自分を頼ってくれる。昔、何かの手伝いをしてそのことを知って以降、それが真一のコミュニケーションの方法となった。

 その後、真一は誰かに頼られたい一心で何事にも取り組んだ。勉強が分からない子がいたら必死に学んで教えられるようになり、スポーツで苦戦している人がいたらその子のチームに入って一緒に戦った。そうしてあらゆる分野で努力を重ねた結果、真一は現在のような能力を手に入れた。これで、みんなが自分を頼り、仲良くなれると思っていた。


 しかし、現実はうまくいかなかった。

「もう真一誘うのやめようぜ」

「あの子がいるとつまんないもんね」

「あいつこの前図書館で本をたくさん借りてたぜ」

「うわっ! 勉強してますアピールかよキモっ」

誰かがこんなことを言っているのを、真一は聞いた。

 確かに、スポーツの試合になれば真一のいるチームが必ず勝ち、勉強のために図書館で本を借りることは多かった。しかし、それは全て誰かの役に立ちたいからであり、決して試合を退屈にさせるためでもアピールをするためでもなかった。それでも、周りは真一の思いとは関係なく、次第に彼から離れていった。


 ゲーム画面では、主人公たちが最後の敵を倒した場面が流れていた。みなが手を取り合い、勝利を喜び、笑い合っている。真一がスタッフロールを見終えた頃にはもう、外は暗くなっていた。

 ふと携帯端末を見ると、真理奈まりなからメッセージが届いていた。

『真一、ご飯だから降りて来て』

いつの間にか帰ってきていた真理奈からの夕食の連絡だった。

「……」

真一は沈黙したままゲームのセーブ画面を開いた。しかし、クリアデータを保存することはなく、そのままゲームの電源を落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る