「悲しみと殺戮」
エレーメン区を出てからミトレン区に入ってから、静かさがより一層増した。
山が多いせいなのか、人がいないのかは分からないが、ビルが少しすくない町はなぜか僕の身を引き締めさせた。
「・・・何だか怖いね。」
サナが拳銃を弄りながら不安そうに言った。
「何もないとは言い切れないからね」
「そこまで不安なら俺が面白い話をしてやらあ」
悪魔が若干呆れたように姿を現した。
「ここ・・・ミトレン区だっけか。ここは旧人類では新潟県長岡市っていうところだったんだぜ」
「ニ、ニイガタケン?」
「後お前らがいたエレーメン基地も新潟県長岡市だ。まあその中でも、千歳町っていう列車駅も近くにある割と栄えた町でな・・・」
悪魔の口からポンポンと知らない単語が出てくるので僕はちょっと運転に集中できなかった。
でもそれと同時に、さっきまで胸辺りに毒ガスのようにあった不安はいつの間にかなくなっていた。
「悪魔っていいよね~。いろんな時代の色んな事を知れて、覚えれて。・・・私もお母さんの顔が見てみたかったよ」
「お前は『覚えれなくてよかった』だろうがよ」
「なんで?私・・・」
サナの言葉をさえぎって、悪魔は淡々と言って見せた
「元の親の顔なんざ覚えてたら人間はそこにへばりついて悲しみを増大させていくし、過去にこだわってストレスも増していく。そしてそのストレスは狂気にもなるし、人格を崩壊させるっていう事すら引き起こすのさ。知らない方が幸せっていうのもあるんだぜ」
「・・・そうなの?」
「悪魔は嘘を・・・」
悪魔はここからは分かるだろという顔をして言うのをやめた。
僕はまた、集中を運転に戻した。すると、のらり、くらりと動く何かがフロントガラスから見えた。
それが人だと気づいた瞬間、僕の胸に先ほどまでの不安が戻ってきた。
「サナ!降りて!」
サナは弄っていた拳銃の弾倉を収め、車両を盾に飛び降りた。
僕もフロントガラスの装甲板を下げてから出来るだけ車両に体を隠すように降りて、後ろに積んであるAMW-13対物ライフルと予備弾薬を持って、警戒した。
「おい!居るのは分かってるんだぞ!顔出せやぁぁぁ!」
ビルに響いたのは男の声だが、恐ろしく語気が強く、この世のものとはない程気迫が異常なまでにあった。
「てめえらも・・・!てめえらも・・・!俺の・・・俺の宝物を奪う気だろうがあぁぁあぁ!!!」
その声は震えていた。泣いているようにも感じた。
男の方から短機関銃が乱射された。狙いを付けていない、威嚇射撃のようなものだった。
僕はゆっくりと車両の側面からライフルの銃身を出し、スコープを覗いた。
すると男はすぐに僕のライフルに狙いを定めてきた。しかし男は乱れている分、100mでも弾は当たらなそうだった。
「元軍事関係者の俺に・・・!勝てると思うんじゃねえよ!!!」
キュンッ、キュンッと弾丸の風切り音がする中、僕は心を抑え込んで男の持っている小銃に照準を付けた。
ドガーン、という重い発砲音と共に男の小銃がはじけ飛んだ。
僕はすぐさまAMW-13の連発性(セミオート)を活かして男の両腕の関節に弾を撃ち込んだ。男の腕がすっぱりと血を噴き上げながら飛ぶのがスコープを通して見えた。
男は痛みのせいか、気を失って倒れこんでしまった。
「・・・生きてるの?」
「うん」
サナは少し動きを止めた後、男のもとに駆け寄って、頭に一発、発砲した。口が動いているのが遠くから分かったが、何と言ったのかはわからなかった。
サナは少し泣きそうな目で走って帰ってきた。
「・・・ごめん、いこっか。」
「いいよ。」
僕はまた、フロントガラスの装甲板を上げ、エンジンをかけた。
「・・・泣いてた」
サナが少し走り出したあと、ぽつりとつぶやいた。
「あの男の人、泣いてた。あんなに怒ってたのに。」
「記憶と感情が暴走したんだよ。記憶はたまにろくなことをしねえ」
「どういうこと?」
「お前は知らんでもいいだろ」
ジャーニー・オブ・エンド・ワールド つきみなも @nekodaruma0218
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