「雨と考え事」
僕は旅の目標として生きれるところまで生きることと、向かうべき場所は基本的に基地にすることにした。
今日の天気はあまり優れない感じだった。
「そういえばリオ君、私が銃持ってるの知ってた?」
「え?」
僕は一旦車両を止めてサナの方を向く。
「拳銃なんだけどさ、M19Aっていう」
「使ったことがあるの?」
「1年生の銃科で拳銃だけ適性があったから。でもそれ以外は全然すぎて、2年生から医療学科に移ったけどね」
「意外だね・・・」
サナが構えるふりをしたりしているその自動拳銃には照準器と消音器、フラッシュライトが追加でつけられていた。
近接戦闘に使用するであろう拳銃に倍率付きの照準器を付けるところが、妙な追加装備だなと僕に思わせた。
僕はまた車両のアクセルを踏む。
「おいそれ45口径じゃねえのか?」
「え、あうん。11.4mm実包を使うよ」
「お前ら2人そろって物騒だな」
テン、トテン・・・
車体に何か小さいものが落ちた音がする。
もしやと思った瞬間、やっぱり降り出した。大雨だ。
「きゃ!雨!」
「どこかのマンションに入るよ!」
マンションの一室から聞こえるザーという雨音は、僕の心を包み込むように落ち着かせてくれる。
「濡れたね・・・」
「人間ってのは濡れるだけで体調をすぐに崩す弱っちい生物だからな」
悪魔は軽く笑うように蔑んだが、もう気にすることなく無視した。
「そういえばここお風呂ちゃんと動くみたいだし、入らない?」
「私先入っていい?」
「うん」
「やった」
サナは軽い足取りで変えの服を持って脱衣所に向かった。
「おい少年、この世には音楽と言うものがあるのを知っているか?」
「え、うん。リズムと音の高さが合わさってできる芸術の事だよね?聞いたことないけど・・・」
「実はな、この日ほ・・・イベレットに旧人類の遺した新人類文化継承極秘施設ってのがあるんだ。確か『ミューズの手紙』だったな。この近くあるらしいぜ!」
「行ってみようかな・・・」
「俺も行ってみたいさ。旧人類ってのは芸術に優れていたからな。奴らの楽曲はかなりいいモノだったな」
悪魔はいつもよりちょっと上機嫌だった。
僕にとっては、雨音も一種の音楽のようなものだった。
目をつぶるとシャワーの音が雨音と混じってシャワー室にいるような気もしてきた。
視覚的な情報はかなり大きいと今更気づかされた。
気付いたら椅子の上で寝ていた。
ぽんぽん、と頭をやさしく叩かれて起きた。さほど時間は経ってないようだった。
「おはよ」
サナがちょっといたずらっぽい顔で僕の顔を覗き込んでいた。雨音は変わらず鳴り続けていた。
不意にサナが額に唇を当ててきたので僕は驚いた。
「旧人類がしていた、恋人に対する愛情表現の仕方だよ。アカリさんに教えてもらったの」
僕が返事に困っていると、やっぱり恥ずかしいや。と小声でつぶやいた。
そういえば、なぜアカリさんが旧人類について詳しかったのだろう。
僕はシャワーを浴びながら呆然と考えていた。時間がゆっくり流れる感じがした。
僕の先祖は新人類の生まれ、「ノアの箱舟」から出た最初の人類だったらしい。だから僕の家系にはノアの箱舟にあった歴史の石板の内容を全て写した歴史書が代々受け継がれている。
しかし、その旧人類の歴史を知っているのはごくわずかなはずなのに、アカリさんは僕以上に知っている感じだった。
つくづくアカリさんが僕とはかけ離れた存在に思えた。
(世界は広すぎるし、この世界のすべては知れない・・・)
体を洗う手をまた動かし始める。昔の人は石鹸と言うものを使っていたらしい。
しかし、戦火に喰われた後の空っぽな世界にそんなぜいたく品はない。お湯洗いだけだ。
僕は風呂から上がると、日が落ちるまでサナと話をしながら本を読んだ。
今まで知らなかったような、不思議な暖かさを感じていた。
しばらくすると、話題も尽きて、部屋には静かな時間が流れた。
気付かないまま、寝てしまった。
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