「完成と別れ」

謎の機械の製作を手伝っていると、急にアカリさんが口を開いた。

「リオ君、人間の生み出した言葉の中で一番くだらない言葉は何か知ってるか?」

やっぱりアカリさんは悪魔みたいだった。難しい事や皮肉ばかり言う。

「・・・戦争、とかですか?」

「ちがうな。正しくは「正義」だ。」

「哲学だね・・・」

晴れ晴れとした朝の静かなビル街を眺めるサナがため息をつくように言った。

「人間は代々、様々な生物を殺してきた。人間も。しかしそれを人間たちは「正義」という言葉を創り出して罪悪感を消し、それと同時にその行為を異常視しないものにした。・・・わかりやすく言うと、例え戦争で人を殺しても「正義」の一言で全てが帳消しされると言う感じだ。な、くだらないだろ?」

やっぱり皮肉にまみれていた。でも、こんな風に世の中を冷たい目で見る人は多い。

戦争が始まってから多分物凄く増えたんじゃないだろうか。

「でも、正義を信じていなければ人間は理性を持ってなかったとか、ないですかね」

「まあ・・・あり得るかもしれんな。」

「どういうこと?」

「えっとね、昨日話したみたいに、正義も一種の神様みたいなもので、それを信じていなければずっと罪悪感に浸って精神的に病んでたんじゃないかな?っていうこと」

「難しいね。そうなってくると何が正しいのか分からなくなるよ」

「そうだな・・・」

一つ話題が終わると、そのあともまた、機械を弄る音のみになる。

ネジを全部締めて、渡されたちょっと雑な設計図を基にまたほかの部品をくっつける。

たまに溶接したり、たまに切ったり。

『こいつ・・・ひょっとしたら創造主を超越してる「クリミナル」かもな・・・』

「クリミナル?」

『創造主や他の神々の技術や、制御範囲を超えた技術を持った人間の事だ。』

「もしかして罰とかあるの?」

『技術はなかったことにされてそいつの魂は10億年は幽閉される。だがな・・・それは俺たち悪魔じゃなくて創造主直属の天使の仕事だからなあ』

「へえ・・・」

ますますアカリさんが自分とは遠い存在に見えてきた。

太陽が大体真上になったころ、その装置は完成した。

「・・・助かったよ。君たちが手伝ってくれたおかげで完成がかなり早くなった。」

「これが・・・?」

「そうだ。76次元生成装置と移動装置だ。」

「すごいですね・・・」

サナはよほど暇だったのか窓際の机で寝ていた。

「この世界も、案外綺麗だったのかもな・・・。さあ、君たちも君たちの目標と旅があるだろ?準備をしたらどうだ?」

「あ、はい。」

目標と言われて思い出した。僕はどこに向かおうとしているのだろう。

「サナ、起きて」

「ん・・・」

「行くよ。」

「機械できたの・・・?」

「あ、うん。」

「おはようサナ君。早く荷物をまとめて出た方が良いぞ。この装置が絶対安全とは限らないからな。」

サナは開ききらない寝ぼけ眼でリュックを背負って、ドアの方へ向かう。

僕も工具類を片付けてポケットからエンジンキーを取り出す。

「それじゃ、元気でな。諸君。」

「アカリさんも、短いながらありがとうございました」

アカリさんがレバーを倒すと、装置が低い唸り声をあげて稼働を始める。

『良い旅を。皆様。』

「ICEさんも元気で。」

「お世話になりました・・・!」

サナも小さく礼をして車両に急ぐ。

僕はドアを閉めると、急いでキーを刺し、エンジンをかける。

車両をガレージから出して、空っぽの車道をある程度走って離れた後、双眼鏡でアカリさんの住むビルを見守る。

しばらくすると、突然ビルの壁が壊れて、そこに光を吸い込んでいるかのような謎の黒い球体が現れる。

その球体は少し膨らんだ後、突風を出して消失した。

「きゃ」

あまりの風の強さにかぶっていたヘルメットが吹き飛びそうになる。しかしそれも一瞬で、ビル街にはまた、静寂が戻ってきていた。

それと同時に、日常も戻ってきていた。

「意外とさ、3人も良かったよね」

「いいけど私はリオ君とずっと一緒が良いなー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る