「遭遇と科学」
「ねえ、そのつけてる腕時計って誰かからもらったの?」
車両を走らせていると、ふと思い出したかのように急にサナが僕の腕時計について聞いてきた
「え?ああ、うん。お父さんが作ってくれた。」
「え?作ったの!?」
「うん、僕の家はもともと時計屋だったから」
「それもお偉いさんからお墨付きのえらく有名な高級時計店だ。お坊ちゃんだな。ハハハハ」
悪魔が勝手に余計なことを付け加えてくる。間違ってはないし事実だけど、あまり言ってほしくなかった。
お坊ちゃんという「甘やかされた子供」みたいなイメージが付くのが嫌だからだ。
「すごいね・・・ちょっと見せてくれない?」
「あ、うん」
僕は腕時計をサナに渡してまたアクセルを踏む。
あと16キロも進めば陸軍基地につく予定だが、結構日が傾いてるし、今日中には着けそうになかった。
しばらく走っていると、遠くで何かが光を反射したのが見えた。
「サナ!隠れて!」
「え!?」
サナは姿勢を低くして射線を遮った。僕は防弾フロントガラスから双眼鏡で敵ではないかを確認した。
スコープは太陽光を反射するため、狙われているのではないかと考えたからだ。
双眼鏡で見てみると、それは謎の浮くガラスだった。
「まさかまだ人がいるとはな・・・」
アカリ博士と名乗る白衣を着た大人の女性は謎の機械を弄りながら疲れた感じで言ってきた。
謎の浮くガラスは氷で、ICEさんと言う名前らしい。そして、アカリさんが創り出した「科学的に証明できる非科学的生命体」という、意味の分からない生物だった。
基本的にしゃべらないが、アカリさんの助手をしているらしく物を浮かせたり出来るらしい。
「・・・あ、そうだ君たち、コラ飲むか?」
「コラ?」
「旧人類の飲み物だ。私は結構うまいと思うがね」
そう言って奥の部屋に消えた後、手に茶色い気泡を含んだウイスキーのような液体を入れたコップを持ってきた。
「なにこれ・・・?」
「コラだ。」
サナがゆっくり口を付けて飲むのを見て、僕も思い切って飲んでみた。
液体が舌に触れると、気泡がちりちりとはじけて、痺れるのとはちょっと違う不思議な感覚が走った。
「ん・・・これ美味しいね」
「確かに・・・」
予想外なことにかなり甘かった。でも、酸味も混じった不思議な味だった。
『しかし意外だな・・・こいつマジで何なんだ。旧人類の飲み物すら再現してしまうとは・・・』
悪魔が不思議そうな顔をして言ってきた。
「・・・ん。リオ君。その腕時計はもしや父上作か?」
突然アカリさんが手を止めて、変なことを言ってきた。
「え・・・そうですけど」
僕は不思議に思った。
僕の腕時計に関しては僕とお父さんとお母さんぐらいしか知らないはずだからだ。
「いやなに、その腕時計の動力である永久機関を作ったのは私だからな。見覚えがあるなと。」
「永久機関?そんなもの作れないはず・・・?」
家の歴史書にも書いてあった。旧人類の暦の19世紀ぐらいで、ユリウスと言う学者が絶対に実現できないと証明したらしい。
でも確かに、9歳の頃に作ってもらって、5年経った今でも電池交換などせずに動き続けている。
「仕組みとしては反物質から得られる莫大なエネルギーを非化学機械であるエネルギー反復増大装置に送り込んで動かしている。そこに戦闘機の防御装置にも使われている
次元間隔壁生成装置を挟んで、衝突の衝撃を利用して発電機を動かし、その発電機の発電する電力の半分で・・・」
何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
ただ呆然と話を聞いていると、サナが
「多分物凄く頭が良いんだよ」
と言ってきた。
確かに常時白衣姿のアカリさんは頭がよさそうに見える。
「・・・まあ、常人に説明しても私の話は訳が分からんだろうがな」
『どういうことだ・・・?この世界のほぼ全てを知っている悪魔である俺ですら分からんぞ・・・?』
「え?」
世界の裏側の存在である悪魔ですら原理を理解できないというのは妙である。
アカリさんはいったい何者なんだろうか。
「そういえばさっきから気になってたんですけど、あそこの女の子の写真って誰なんですか」
サナの指さす方向を見ると、マンションの備え付けのタンスに7歳ぐらいの女の子が写った写真が飾られてあった。
無邪気な笑顔だった。
「ん?ああ、知り合いの子どもだ。撮ったときは多分9歳のころじゃないかな?今はどこに居るか知らないがな。」
「生きてるといいですね」
「このご時世で17の子どもが生きていけるか、だな。」
「・・・そういえば、アカリさんって今何歳なんですか」
「リオ君、あんまり大人の女性の歳は聞かない方が良いよ・・・?」
「そうだな。・・・と言いたいところだが、人がいないんじゃ若く見せても仕方あるまい。26だ。」
「長生きですね・・・」
医療が発達した今では、サエダさんのように40歳まで生きることができるのだが、戦争中では即死してしまう人が多いから、
基本的な30歳が世界の平均寿命になっている。
なので26歳は結構長生きな方なのだ。
「一応、軍に雇われたことはあったが、18のころから私が私自身の研究ばかりし始めていたからな。お役御免だ」
「ダメじゃないですか・・・」
『アカリ博士は現在、第76次元という新しい次元を作る研究をしています。』
ICEさんが解説をしてくれたが、アカリさんはやっぱり意味の分からない事を研究しているらしい。
『旧人類の聖書において、7という数字は「完全さ」を表しますが一方で6という・・・』
「止めてやれ。難しい話は私だけで十分だ。」
「聖書って何ですか?」
「旧人類が作ったいわゆる「神の教科書」だ。・・・まあ、偶像崇拝に過ぎないがね。」
「ふーん・・・」
「人は何かにすがっていないと、すぐにこけてしまうアンバランスな生物だ。だからありもしない神という存在を作り出し、信じた。
この通り、人間はそうした面で強い。なければ作る、不便なら自分で解決する。そうして生きてきた。
今は「生物の矛盾」から完全に独立している地球上最強の生物だ。」
この話は聞いたことがあった。
「生物の矛盾」に関して有名な哲学者、ツキカゼ・ショウセイの本で解説されていた。
生物はもともと、個々の種を守るために様々な進化を遂げてきた。その中で、天敵よりより強く、硬くなるために進化すると天敵側もより強く、その甲羅を噛み砕けるように進化する、という具合で循環する矛盾を繰り返している、そういう説だった。
「まあ、今日は遅いから寝ろ。リオ君、お前機械いじりできるよな?君の父上から聞いてる。明日は手伝ってもらいたい。」
「あ、わかりました。」
アカリさんは僕たちに寝室をくれた。いい人ではあるようだ。
「・・・いい人だったね。」
「うん。よかったよ」
「明日、がんばってね。おやすみ。」
サナの予想外の言葉に、胸が揺らぐ。
嬉しいのだが、苦しい感じもある不思議な感じだった。
僕はこの世界にはまだまだ分からない事がいっぱいあるなと思った。
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