「静寂と空洞音」

今日で着々と旅への準備が進み、必要な物資を倉庫内にかき集めた。

ヘルメット、ナイフ、着火装置、ランタンコンロ、燃料、着火装置、毛布、ロープ。

食料は積めるだけ積んでいくことにした

「ねえこれ持って行っていい?」

サナは僕の貸した本二冊を持ってきていた。

「いいよ。僕も持って行こうとしてた」

「読み切ったら燃料だな。本なんて」

悪魔が冷笑気味に言う。

「読み返せばいいよ。消耗品じゃないんだから」

「リオ君がせっかく選んだもの・・・」

「ああわかった。もうやめとくれ。モテねえ独身が悲しくなってくる」

戦闘食缶と固形食料を内側の収納に入れ、サナの搭乗スペースを確保しつつ、荷物を全部入れた。

特別な日であることは分かるけど、その実感があまりわかなかった。

「じゃあ準備完了だね。」

サナがシャッターボタンを押して駆け足で車両に乗り込む。

エンジンをかけて、アクセルを踏む。

「雪がまぶしいね」

「特に反射もしてないのになんでだろう?」

「そうだな、白って色自体が光を放っているように見えているからだな。」

「そうなの?」

「人間の構造に関しては詳しくないが多分そうだ」

悪魔の豆知識などを幾度も聞かされている僕には、そのあいまいな説明すら変に説得力を感じていた。

基地のゲートバーは最初から折れていた。

「・・・前と比べて静かだね」

「そうだね・・・」

家やビルは木のように静かに佇み、沈黙を貫き通していた。

ビル街に行くと、反物質エンジンの高いうなり声のみが響く。

灰色のビルは寂しさを体現したかのように感じた。

「ここら辺の人も前は結構いたらしいよ」

「へぇ・・・」

サナは座ったまま空を眺めている。

「もう人いないのかな」

「いやまだあと9000人ぐらいはいるぞ。人間は案外しぶといからな」

サエダさんの家が見えてくる。

サエダさんは元気にしているだろうかとふと思った。

「着いたよ」

「はこぼっか」

鍵を開けて、玄関に置いておいた僕のライフルと、家から水を汲んできた。

置いておいた食料は積めないため、そのまま食べていくことにした。

コォォォォォン・・・・

「何の音?」

「空洞音だな。中に空洞があるものに風が通った時に鳴るやつだ。最近鳴ってたが気付かなかったのか」

「忙しかったからね・・・」

持参の水筒に水を入れて、思い出深い家を後にした。

そのあとは特に何もしゃべらずに、街を抜けることを目標として車両を走らせた。

ォォォンン・・・・・

「まただね」

「なんか怖いような寂しいような音だね」

今日は街を出たちょうどで、日が落ちたので適当なビルで夜を明かすことにした。

「もう人には会えないのかなあ・・・」

サナはちょっと寂しそうにつぶやいた。

車両を走らせる間街の風景や道順について考えていたのでそんなこともすっかり忘れていた。

こうやって忘れていくことで「当たり前」や「常識」が変わっていくのだろうか。

慣れるという事は何かが変わるという事なのかもしれない。

「そういえば諸君、今日は一つ国が滅んだんだぜ」

悪魔が相変わらずちょっとうれしそうに、そして誇らしげな口調で話しかけてきた

「どこが?」

「ドイ・・・ちがう旧名だそれは。ヘレニエル民主主義国だ。昔も大国だったのにな」

「なんだか皮肉だね。自分達でした争いで自分たちを滅ぼしてしまうって。」

「ところがどっこい少女よ。その自滅こそが人間に与えられた使命ってこと知ってたか?」

「どういうこと?」

「まあ喩えだ。俺の知る限り今までこの星に生まれた知的生命体は、全部自分の起こした争いで滅んでるんだよ」

水筒の水を一口飲んで、呆れた顔で何がしたいんだろうね、と天井を見ながら言った。

その日の夜は雨が降った。雨音が心地よくて深い眠りにつけた。

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