「終焉と絶望」
「ほーらオハヨー!」
朝から悪魔はだいぶテンションが高かった。ここ最近ずっと何かを待ち望んでいる感じがしている。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ・・・・
洗面台で顔を洗っていると、急に空襲警報用のサイレンが鳴る。
それと同時に通信デバイスが通知音を鳴らす。
いつもの空襲とは少し違う感じがした。通信デバイスの画面を見ると、政府から重要通達が入っていた。
「イベレット共和国政府完全崩壊宣言」
一番最初にそう書いてあった。
「今日は吉日だな!滅亡が見えてきたぞ!」
僕ははしゃぐ悪魔を横に、本文を読み始めた。
内容は絶望的だった。僕は最後まで読まず、そのままデバイスの電源を切った。
僕の心は真っ白なままだった。
僕はふらふらと宿舎の出入り口までなんとか行ってドアを開けると、基地からぞろぞろと幽霊のように死んだ顔をして出ていく人がたくさんいた。
遠くで銃声も聞こえた。
静かに混沌とする基地で、僕は立ち尽くしてしまった。
「明日から何するかな。」
気付いたらサエダさんが横に立っていた。目線は空に向いていた。
「・・・とりあえず家に戻るか。リオ。」
僕は無言でうなずいた。荷物をまとめて、基地の門に行くと、サエダさんの横にサナがいた。
僕を見つけると、また下を向いて、恥ずかしそうにする。
「準備は出来たか。」
「うん。・・・サナはどうするの?」
「・・・ついてく」
「お前にも恋人が出来たか。おめでとさん」
「あ、そういうわけじゃ・・・」
サエダさんは疲弊したようにひきつった顔からどうにか笑顔を作って、手のひらをひらひらとさせた。
僕はサエダさんの精神の強さが信じられなかった。
家に着くと、サナがやっと喋った。
「・・・ねえ」
「何?」
「この世界、最後まで生きようよ。」
「あ、あー。アツアツなところ失礼させてもらうが・・・君たちに提案がある。」
「だから・・・」
悪魔が急に出てきて僕の事はほとんど無視して、さっきとは違って冷静な口調で話しかけてきた。真面目な話をすることは直感的にわかった。
「俺さぁ、気が変わっちゃったんだよね」
「まさか・・・」
サナの目が警戒の色に変わる。
「あの、違う。契約内容を変えてお前ら二人を人類最後の契約人ってことにして、もっとすごくしちゃおうって考えを言いたいだけなんだが」
「どういうこと?」
「まんまの意味だよ!起きてるかお前」
悪魔は信じられない提案をしてきた。
悪魔側の利益を無しにして、僕たちの魂を奪わないと言った。
「嘘・・・」
「は、つかない!何度言ったか分かんねえなこの台詞。」
「いいの?」
僕たちが疑問の目を向けていると、悪魔は渋い顔をして、上を指さした。
「ルール違反だがな。」
サナは少し考えて、急に僕に抱きついた。
「やったね」
嬉しそうに、静かに言ったので本気で喜んでいることがよく分かった。
「2人とも、ちょっと降りてきてくれないか?」
一階からサエダさんの声が聞こえた。階段を降りると、サエダさんはソファーの横にライフルとパンパンの軍用バックを置いて座っていた。
ここから離れることは確定してるようだった。
「お前たちはどうするつもりだ?」
サエダさんは僕たちに水の入ったコップを出すと、そう切り出した。
「・・・旅をして、どうにか生き延びるよ。」
隣でサナもうなずいていた。
「そうか。・・・じゃあ俺はもう出ることにする。」
サエダさんの目にはあまり光がなかった。
少し怖かった。
「・・・元気でやれよ。それと、今までありがとな。」
サエダさんは僕たちを硬く、長く抱きしめると、家から荷物を持って、出ていった。
そのサエダさんのまとった暗い雰囲気が僕を圧倒して、ドアが閉まる音がするまで僕は動けなかった。
・・・サエダさんは、凄腕だ。必ず生き残る。
サエダさんを窓から見送ると、僕たちも着々といるものをかき集めた。
銃、弾薬、食料、水。
「そうだサナ、いったん基地に戻るよ」
「え?」
「これ全部は持って歩けないし、長く生き残るには少なすぎると思う」
「ご賢明な判断だな。少年」
荷物を玄関にまとめて、基地へと歩いて向かった。
基地につくと、誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます