「エリートとニシダ」
「なに?」
軍用の通信デバイスを見ると、政府からエレーメン基地に来るように集合の緊急通達が入っていた。
サエダさんが僕の部屋の扉を蹴破る勢いで開けてきた。副管理官の制服に着替えていた。
「確実に一大事だ。急いで着替えろ。」
僕は大急ぎで制服に着替え、サエダさんのバイクに乗せてもらった。
サエダさんが凄く嫌な予感する、と言っていた。
エレーメン基地に到着すると、第三整備班以外の全員が整列をしていた。第三整備班はエガワとヨシダしか来ていなかった。
数分待つと、サナとマエカワ、ニシダが来て全員揃った。
すると管理官が台に上り、淡々とマイクを使ってしゃべり始めた。
「午前一時五十二分、政府より電文が入った!本日をもって、エレーメン空軍基地を解体し、いずれ起こりうる首都大空襲に備え、人員の全てを首都にある空軍基地に配属する!」
その場の空気が少し変わった。不安な空気になった。
「よって、各班を解体し、今から呼ぶ者だけを輸送とする!」
明日輸送の人の名前がが次々と読み上げられる。
整備班は基地解体作業や航空機輸送のための整備をする為だろうが、大部分が呼ばれなかった。
「以上!合計689名の輸送が決まった!のちに輸送日程を書いた紙を配布する!解散!」
「私も首都輸送になるのかな・・・」
サナが不安そうな声でぽつりと言った。
僕は宿舎のベットに横になるが、なかなか眠れなかった。同じ部屋の全員も同じように何かを考えていた。
悪魔が肩をたたいて、外へ出るように手で指示してきた。
僕が外に出ると悪魔は嬉しそうに言った
「キタキタキタ!首都の人がぐんぐん減ってるぞ!チャレンジ達成できそうだ!」
「何があったの?」
「『砂時計の最後』だよ!人間が少なくなって死ぬスピードが上がってるってわけ!人間は仲間が少なくなると鬱になるやつとかヤケになるやつとかが出てくるんだよ!」
悪魔は両手を握って見たこともないぐらい嬉しがった。
終焉に着実に近づいているらしかった。
「・・・うれしそうだね」
「そりゃもう!俺まだ達成したことなかったんだこのチャレンジ!前の人類でやったんだけど人間がクローン施設遺しちゃって出来なかったんだよ!」
悪魔は飛び跳ねながら奇声を上げている。面白かったけど、笑えなかった。
もうすぐで人類は滅びる、という重大な事を基地の中で一人だけ知ってしまったのだから。
「ねえ悪魔」
「お?なんだ」
「寝ていいかな」
「あ、すまん。」
部屋に戻ると、ニシダだけが起きていた。荷造りをしていた。
「どこ行ってた」
「寝れないからちょっと外に行ってた」
「ふーん。・・・はあ、お前はいいよなぁ。」
「どうしたの?」
「お前ってさ、軍事中学で軍令退学受けたんだろ?」
「え、ああうん。」
「いいよな、そういう特別な才能があって。俺なんかなぁ・・・あ、ごめん。もう寝るわ」
ニシダはふざけるところもある人だが、ちゃんと気遣いができるいい人だ。
「いいよ。聞かせて。」
「え?いいのかよ。ありがとな。」
「最後だし、そのまま悩みを抱えたまま行ってほしくないからね」
ニシダは「ほんっとお前ってやつは・・・」と照れくさそうに言った。
そして深呼吸を一回した後、静かに話し始めた。
「・・・俺さ、何やってもダメでさ。皆はそういって何もやってないだけじゃない?って言ってくるんだ。」
僕は口を開きかけたが、ニシダが僕を「軍令退学したエリート」だと表現したことを考えて、言うのをやめた。
「一年生の銃科はどの銃を試しても適性がないって言われるし、整備科に入っても部品のつけ忘れがあるだなんだで・・・」
「・・・でも今は僕の班にいるよね」
「ああ、でも滑り込みセーフってところだ。最近でも戦闘機の降着装置のボルトを付け忘れて、危うく一人死なせるところだったんだぜ」
「それ結構危ないね・・・」
「あ~~・・・首都でやらかさないか怖すぎる・・・」
「・・・それが良くないんじゃないかな・・・」
「え?どこがだ?」
「そうやって過度に心配するところ」
「すまんどんなふうに良くないか詳しく教えてくれ」
「心配しすぎて神経質になって、結果焦って何かを見落としたり、忘れたりするんじゃないかな。」
「確かにな・・・ありがと。なんだかすっきりしたよ。」
「・・・僕の話も聞いてくれるかな」
「お?いいぜ。どんな話でも聞いてやる。的確に返事できるかはわからんが」
「・・・もしさ、」
――明日世界が終わったら、人がいなくなったら、君ならどうする?
ニシダは僕の言葉で黙り込んだ。そこから少し時間が止まったような気がした。
多分、人がかなり減ってきていることを知っているのだろう。
「・・・世界が終わったら・・・ね」
「ごめん難しすぎた」
「いやいいよ。そうだな・・・」
ニシダはまた黙り込んで、ちょっとしてぽつりと言った
「多分、したい事して疲れたら死ぬんじゃないかな。」
想像以上に重い答えだった。
「君らしくないね」
「すまん重すぎたかな」
「いいよ。聞いたのは僕だから。答えてくれてありがとう」
「ああ。・・・またどこかで会えるといいな」
「そうだね・・・おやすみ。」
起床アナウンスのスピーカーの通電音で目が覚めると、ニシダは空のベットだけ残して消えていた。
元整備班は班がなくなったとはいえ、戦闘機にシートをかけたり予備兵装以外を装甲列車に運んだりと仕事はあった。
エレーメン基地は閉鎖されるとはいえまた使われるかもしれない時に備えるらしいが、僕はその日が来るとは到底思えなかった。
基地から次々と人が消えていく中、元班長はなかなか出発が来なかった。おそらくある程度の統率経験があるため集団を動かすのに使うからだろう。
元班員がサナとエガワになり、エガワも明日出発が決まっていた。
11月になり冬へと変わる中、基地も完全に機能を停止していた。
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