第4話

004

生まれつき視力が悪く、紀眞家とは支え支えられの生活を余儀なくされているのだ。……なんて言っても、自分には支えてくれる年の近い子なんていないのだけれど。少子高齢化の影響は、由緒正しい伝統の家でも例外ではなかったらしい。


「タカラー、ご飯よー!」その声に、読んでいた文庫本を伏せて机に置く。家庭教師のない日は自由にできるから楽だ。タカラは階段を下がり、ダイニングへと向かう。開いた扉の先には既に姉のキヨラが座っており、行儀悪く携帯を弄っていた。「珍しいじゃん。キヨラ姉がいるなんて」「んー、そう?」「モデルの仕事、忙しいんでしょ」「うん、まあ。でも今日はお休みだから」「へぇ」休みなんてあるんだ。母さんからご飯を注いだ茶碗を受け取りつつ、そう思う。人気モデルらしい事は、同級生の噂話で嫌というほど知っている。「それはそうと、アンタは勉強頑張ってるの?

トオルちゃんが教えてくれてるんでしょ?」「知らねーよ、あんなババア」「こら」「あたたたっ!」突然キヨラに耳を引っ張られ、痛みに声が上がる。何すんだよ!「本当に口が減らないんだから!

トオルちゃんを傷つけたら怒るからね!」「それ、もう何回も聞いた!」「あれ?

そうだっけ?」首を傾げるキヨラに必死に頷けば、やっと解放される。あたた、と耳を摩っていれば、「ごめんごめん。でも、次あんな口利いたら……わかってるわよね?」と脅された。顔が整っているのが余計恐ろしい。……なんで俺がアイツなんかを気に掛けなきゃいけないんだか。タカラは不貞腐れながら揃った食事に手を合わせた。どいつもこいつも、大人っていうのはわからず屋だ。


翌日。タカラは学校を終え、目の前に広がる光景に思わずため息を吐いた。「貴様らさえいなければ!」「数年前の恨み、晴らしてやる!」……はて。どうしてこうなったのか。目を血走らせて活気づく彼等に、タカラは肩を落とした。数年間もずっと恨みを持ち続けているなんて、つまらなくないのだろうか。「何か言ったらどうだ!

ガキの癖に澄ました顔しやがって!」「年上の人間にはちゃんと敬意を払えって習わなかったのかぁ!?」……うるさいなぁ。片眉を上げて煽って来る男の顔を見て、タカラは視線を逸らした。一瞬耳を塞ぎたくなったが、流石に失礼かと思って我慢することにした自分は褒められてもいいだろう。……それもついさっき不要な事だとわかったが。

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