第9話 隷属

09 隷属


ステータス画面のスキル欄に

NEW!隷属化

NEW!契約

が追加されている。

スキルはないのではなかったのか?少なくとも、最小限のみしか与えてもらえなかったはずだが。

まあ、しかし何気に使えそうだからまあいいか。

現場にあっては臨機応変ということだ。


九十九つくもは一生気づかないのだが、彼の魂には、決して消えないようにと、ある者が直接、呪文術式を大量に書き込んでいる、ゆえに、何度転生しても、魂が白紙に戻ることはないのであるが、それはまた別のはなしである。


ゆえに、彼はちょっとしたことで、魂に記録されているスキルなどを発現させることが可能なのである、というか、どうしようもないので、このような特殊任務に使われる駒となってしまったのが現実なのである。


神界でも扱いの難しい案件となっているのであった。

もちろん、九十九自身そんなことは全く知らないのだが。


「どうしたの、お前ら、俺に盾ついたらいいのに」

悄然しょうぜんとうなだれ、青い顔をしている少年たちをけしかけてみる。


「では、お前らは俺の子分ということでいいんだな」

誰も返事をしない。

「明日もおんなじ時間にここに集合するように、逆らえば、見えないけど面白いことになりそうな予感がいっぱいだけどな、明日は出席とるから、さぼらないようにね」


さぼるとは、サボタージュからきた言葉なので、この時代で通じるのか不明だった。

ただし、ニュアンスは伝わったであろう。


「では、山口先輩帰りましょう」


俺は、同じく青い顔の山口弟をつれて、空き地を後にする。



次の日俺は授業中にいろいろと調べていた。

ステータスウィンドウの中に、奴隷のリストが存在したのだ、それにより、名前、年齢、スキルなどが判明する。

隷属化のスキルでは、奴隷に痛みを与えることが可能なようだった。


契約スキルは、相手の血を触媒に契約文面を魔術的に強制することができるようだ。

つまり、血判を押させれば、契約可能ということらしい。

まじか!

こえーよ!

どんな悪徳商人だよ!いや、もうこれは奴隷商人決定?奴隷商人無双が今始まる!

などとは考えていない、昨日ような奴らなら何の問題もない、問われているのは自分のモラルだけである、しかも、誰にもわかることなどないのだ、かわいい女の子も奴隷に・・・

やはり自らのモラルが問われているのである。


サイタ サイタ サクラガ サイタ。

それより、授業がつまらん、早く進級したい、飛び級はできないのか?

などと考えていると、放課後になった。


・・・・・・

例の空き地、彼らは全員そろっていた。

「よく来た、郷田武蔵ごうだむさし」狂犬の名前だ。

狂犬のギョットした顔、もちろん巻紙に名前は書かせているが、読めるかどうかは別の話である。

岩倉総士いわくらそうじ!」次々と名前を読み上げいく。

恐怖と絶望の表情がいい感じ!だ。

「貴様らは今日から、長岡部隊の隊員である!山口先輩はなぜいるのですか」

少し離れた場所に、山口が突っ立ている。


「まあ、なんとなく、危なそうだったから」

山口が恐れたのは九十九の暴走である、危険な笑顔を向ける一年生そのものだった。


「そうですか、まあ、見学していってくれたらいいですよ」


「長岡部隊(仮称)は今後未曾有みぞう(みぞうゆうではない。)の危機を迎える大日本帝国の一助となるために結成された、君らは、栄誉ある長岡部隊の初代士官候補ということになる各員奮励努力するように!」

全員がきょとんとしている。

「返事はどうした!」

「はい」

仕方なく全員が唱和する。


「隊長殿、長岡部隊とは何でありますか?」恐る恐る、この愚行に付き合ってくれる人間がいるらしい、内心突っ込みに感謝しながら。

「ふむ、長岡部隊とは私的軍隊であり、私個人の軍事組織である、であるからして今日から早速軍事教練に入ることにする、貴様らはたるみすぎていて、弱すぎるからな!」


「では、郷田、岩倉貴様らは、副隊長に任命する、有難く拝命せよ!」


「はい!」岩倉は軍人の敬礼をする。きっと、ごっこ遊びが好きなのだろう。

郷田は、返事をしない。


「郷田、その反応は、例の天罰を味わいたいのだな、ショー便ちびるなよ」


「はい隊長!失礼しました」電気に感電したように狂犬が反応した。

郷田は例の狂犬であり、岩倉はその副官のような存在なのだろう。

もっとも年かさの二人を副隊長に任命したのである。


「では副長、全員をつれて、あの山の頂上までランニングだ!」

はるか彼方に見える小山を指さす俺、長岡の春の桜が舞い散る日の午後であった。


隊員たちは、しぶしぶ列を作り走っていく、ここらへんのことは学校でもやらされているから慣れたものだろう。


山口と二人残される。

「山口先輩はもうお帰りになっていいですよ」

「長岡部隊って」

「ええ、もっとこうかっこいい名前でもいいかなと思ったんですがね」


「いや、そうじゃなくて、私的軍隊て何」

「ああ、そうですね、民間軍事会社みたいなものです、これから、いろいろと働いてもらう人間が必要なもんで、ああいう喧嘩ばかりしている連中は、向いた事させるのが一番ですから、それでは、奴らの後を追いますので、私は失礼させてもらいますね」と敬礼する俺だった。


「ええと」


「山口先輩もはいりますか?長岡部隊、戦隊のほうがかっこいいかな?」


山口は「あの天罰は遠慮したい」


「ああ、大丈夫です、あの血判状に名前を書いたものだけですよ」


「山口先輩は先生の弟ということで特別に参謀待遇で参加ということでいいですよ」


「では改めて、参謀、私は奴らを見てくるので、帰ってくれて構わない、また明日ここで」


そうして俺は走り始めたのだ。疾風のごとく。


・・・・・

郷田の視点


やっぱり、あそこまでいかないとまずいんだろうな、目指すはあの空き地から指示された、小山の頂上である、それほど高い山ではないが、頂上までは、かなりの時間がかかりそうだ。それどころか、小山までも相当の距離があるのだが。


隣を見ると、岩倉が黙々と走っている、心中は俺と似たようなもんだろうが、なんで小学一年の言うことを聞かなくてはならん!俺は二日前まで、この長岡で恐れるものは、ヤクザ以外なかったというのに!


あれさえなければ、ふと原因になった取り巻きの一人、佐藤を見る、必死にはしって岩倉の列についていっている、涙をながしながら、奴は、小学5年で岩倉より年下でついていくのがやっとだろう。


一時間以上経過し、ようようのことで頂上もみえてきたときだった。

奴の姿が見えた!


「なんだと!」できるだけ直線的に走ってきたし、それほど遅くもなかったはず、やはりあの恐怖の記憶が足を止めることを許さなかったのだ。

だが、あろうことか奴はすでに山頂に存在しており、何かをしているのだ。


「おお、貴様ら遅いぞ!隊長を待たせるとはいいご身分だな」小学1年生は笑った。

邪悪さ満点という感じだった、背後から黒いオーラが吹き付けてくるようだ。


俺の膝から力がぬけた、俺は膝まづいていた。


「失礼しました、隊長殿一生けん命に走ってきたのではありますが」岩倉はすでに、この立場を受け入れつつあるのだろうか。


「まあ、いいだろう、それより貴様ら、腹が減っただろう、とにかく鍋でも食え、用意しといてやったぞ」

そこには、三本の木をうえで結んだ小さな櫓を作り、大なべがつるされており、火にかけられていたのである。

火の周りは、石で囲われている。

一体どこにそんなことができる時間があったのか?

鍋の中には何かうまそうな汁がたかれていた。

とてつもない近道が存在するとでもいうのか。


「シカやイノシシの味噌鍋だが、お前たちは体が小さい、しっかりと食って大きくなれ」

自分より小さい小僧に言われたくないが、小1にしては非常に大きいことは間違いない少年だった。


「やや!なんとうまそうな匂いが」岩倉が芝居がかった言い方で声を上げる、すでに、奴になびいているのか?

岩倉の野郎!後で絞めてやろうか?


だが、確かにうまそうな匂いが漂って来るのである。


全員に鍋から具たっぷりの汁が配られる。

椀と箸まで用意されている。


「うまい!」肉のうまみがたっぷりと出ている、適当に入れている野菜もうまい。

「お代わりよろしいですか」

岩倉!貴様は殺す!


「俺も」「俺も」みんなが声を上げる。

「自分ですくって喰え、隊長に入れてもらうなど、貴様らどういうつもりだ」


「は!では、わたくしが代わりによそい役を行います」と岩倉。

「郷田副長椀を」岩倉お前を許す。


全員心の中で泣いていたのに、鍋一つでみんなが笑顔になっている。

こいつは案外すごいやつなのか?

ニコリともせず皆の食事を見ている少年の眼にはなにが映っているのか。


・・・・・・

九十九の視点

案外気がいいというか?馬鹿なのか?鍋一つで簡単に掌握できたようである。

やはり動物を調教するのには餌を与えるのが一番のようである。

鞭と飴を使い分けて、調教するつもりだったが案外簡単にいきそうだった。


俺がそんなことを考えているとも知らず彼らは鍋を必死になって食っているのである。


「隊長、こんなうまいものを食ったのは、初めてです、ありがとうございました」岩倉が頭を下げる、なかなか如才ないやつである。

「ほめてもなんも出んぞ」

「いえ、本当です、肉をあんなにたっぷりと食ったのは初めてです」


確かに、この新潟は食料事情(米の生産量が良い)が良いようであるが、肉を食うという習慣そのものが時代には定着していない。

肉食の習慣が明治になってやっと本格化するのであるが、未だ、みなにそのような習慣はないのである。


「まあ、何か貴様らがほめるに足りることができたら、いくらでも鍋くらいふるまってやる」


「おおおおお!」

全員が手を突き上げる。


なんかおかしくね?

そんなにうまかったの、俺も食っとけばよかった?と少し焦りを感じてしまった。


「よし!では、みな適当な木刀になるような枝を切ってこい、長めにな」

そういって、一本の山刀を渡す。


こうして、20人の長岡部隊(仮称)が結成されたのである。


スキル「料理」がこっそりと取得されていたのだが、九十九は気づいていなかった。

ちなみ、俺は、彼らに気付かれぬ速度で追い抜いたので、余裕で、料理を作ることができた。

食材、鍋や椀、箸などは収納ボックスにつねに入れているのだ。

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