第8話 契約の魔術

08 契約の魔術



「まず、聞いてください、あなた方にも得な話ですよ」と俺。

詐欺師的な表現である、こういう場合はおそらく得なことなど何もあるはずがないのである。


「早くしろ、お前を殺す」

こいつ本当にいかれてるのか?狂犬か!


「では、ここに、50円が存在します」

周りの少年たちがざわつく、この当時の50円は大金である。

大人の月給相当である。

田舎の少年が持つような金額ではないことだけは確かである。


「金で釣る気か、お前をぶん殴れば、いただけるからな!」

少し安心した、少しは頭が動くようだ。

あまりに馬鹿だと使いようが限られるからな。


「このお金は賞金です、今から名前を書いてもらいます」

「なんでだ」と狂犬。

「名前を書いたものだけが、この賞金を得ることができるチャンスを獲得できます」


「?」

チャンスという言葉がわからなかったのであろうか?


「この賞金は、名前を書き、僕に勝った者たちが分配すればいいということです」

「わからん、俺が一番強い、俺のもの」と狂犬が首をひねる。

いわゆる、ファンタジーなどででてくる魔物並みの頭脳なのであろか?


俺は、周りを見回し「こう言ってますが、誰もいらないということでいいですか」


何人かが、「俺も混ぜてくれ」などと言っている。

狂犬が殺すぞという目でその相手をにらみつける。


「ちぇっ!仲間割れを誘ってのことか」


「根性がないですね、50円ですよ!」


「やるぞ!」2人が声を上げる。


「ところで、これは仲間割れを誘うものではありません、組でかかってきてよろしいですよ、まあ、できれば順番にかかってきてほしいですが、名前を書いていれば、誰かが俺を倒した時点で差し上げます、ただ、分配の後に取り合いをするのは、知りませんよ」と俺。


「お前何言ってるんだ!」今度は立ち合い人の山口が声を上げた、一見して仲間割れを誘う作戦がうまくいきそうだったのを、台無しにする発言が俺から発せられたからだ。


「なんだと、じゃあ、俺も」ほぼ全員が手を挙げたのである。


「ところで、勝ったらあなたたちは、この金を手に入れる、しかし、僕が勝てば何もないのは不公平ですよね」

一呼吸おいて俺は続ける。

「そこでこの紙です、ここには、勝てばあなたたちに50円が配られますが、負ければ僕の子分になると書かれています、その条件で良い方は、僕の次に名前を書いてください、これは一種の契約です。」


巻紙にさらさら、字を書いていく。

「よく読んでくださいね、これは契約書ですからね」書き終えて、その巻紙を狂犬に手渡す。

「なんて書いてる」やはり読めないようだ、小学校は行ってる?くせに読めないとはやはり残念な奴。

「わからなければ、やめておいたほうが良いですよ、契約内容を理解しないで署名するのは、賢い人間のすることではありません」と俺。


狂犬が名前を書く。

「あと血判をお願いします、私も最後におしますのでね」

「面どくせえな」

「いやなら、やめておけばいいですからね」


「いらいらさせる作戦ですよ」取り巻きの誰かが狂犬に言う。

狂犬はガウガウとうなずく。

大丈夫なのだろうか。


そうして、15分の間に名前が書かれた血判状が出来上がる。

「では、最後に私が」小刀で親指を少し切り血判を押す。

巻紙が薄く光るのをみた。

巻紙にはある種の魔法が込められておりの血判を押すことによって契約の魔法が発行したのである。魔法による強制力が発動するのである。


隣の山口は気づいたのか、少し驚いた様子である。

周りの、野獣たちはそのことに気が付いていない、もう50円の使い道を妄想しているのだろう。ガウガウ。


「では、契約はなされました、後戻りはできませんよ」と俺。

その黒い笑顔に、山口はドン引き状態になる。


「さあ、どうぞ」一年生の子供が、はるかに大きな子供に手招きをする。

「おりゃあ」狂犬がいち早く殴りかかる。

だが、空をきる

「ハエが止まるかと思いました」

「りゃあ」後ろから卑怯にも取り巻き1号が殴りかかる。

バシ、裏拳が1号を直撃する。


駒のようにくるくると回転して倒れる取り巻き1号。

周囲の全員がギョットした表情をつくる。


「負けたときは、子分ですよ」笑顔の小学1年生が悪魔のような笑顔で語りかけるのだった。


・・・・

山口弟(勇)の視点


全身がビクリとした。


周りに20人からの上級生がいるにもかかわらず、高野は笑っている。

こいつは、とんでもねえ奴に違いない!

兄が言っていたのは、まぎれもなく本当のことだったのだ。

「とにかく、人間離れしているぞ、走って槍で獲物突き刺すとか、あり得るわけないだろ」

人間にそんなことができるはずがない、少なくとも今の世の中の人間には、そう思った。

しかし、目の前の一年生にはそれが可能だったのだろうと確信したのである。


誰一人まともに、触れなかったというのが本当のところだろう。


軽く、顎をこするような拳が閃光のように閃き番長達の意識を次々と刈り取っていく。

それは、死神が鎌で草を狩るように人々に死をまき散らすように。


最後に番長の郷田ごうだ(狂犬の名)だけが残された。

「うりゃ」

またしても空を切る。

郷田は簡単に投げ飛ばされる。


九十九のつま先が顎を軽く蹴り上げる。

「くえ!」奇妙な声を上げて、郷田の意識が刈り取られる。


「立会人、判定をお願いします」


「高野の勝ち!」柔道の主審のように右手をあげて宣言する。

高野は汗一つ流しもせず、相手の数の回数だけ避けて、軽く殴るだけだった。

それだけで、全員が地に倒れ伏している。


・・・・・


パン!手を打ち鳴らす、俺。

意識を取り戻す野獣たち。


「立会人は僕の勝利を宣言しました、あなた方は負けました、今この時から、お前らは俺の子分だ!わかったな!」


全員が頭を振って立ち上がってくる。

「あほか!誰がお前の子分なんかになるか」誰かが喚いた。


その時恐ろしい光景が出現した。

「ぐぎゃあーああああああ」その男、取り巻き2号とでも呼ぼうは両目をむき出し、あらん限りの絶叫をはなち、胸をかきむしる。

「ぐえええー、ぐるじいよおおおおおお」

涙と鼻水とよだれを精一杯ながしながら両膝を大地について天に向けての絶叫だ。

体があらん限り弓なりになっているので背骨が折れそうなのが心配だがな。


周りの人間は何が起こったのかわからず、血の気が完全に引き青い顔をしておろおろするばかりである。


「だから、契約書はちゃんと読めっていったじゃないですか!」ははは!俺の高笑いがこだまする。


「お前何をした!」最後に復帰した狂犬が青ざめている。

「契約書にこう書かれています、『なお、約束を守らなければ死に勝る痛みを受けるもいとわず』とね、だから死に勝るくるしみだったんじゃないですか、すごく苦しそうだったですよね」行書で書かれているので多少読みずらいかもしれないが、ゆっくり読めば理解はできたかもしれない、ただし、漢字が多くて理解できなかったかもしれないけれど。


と笑顔の俺が返す。


「まあ、試してみてはどうですか?今の人だけじゃ、神罰かどうかわからないですし、遠慮はいりませんよ、僕は痛くないのでね」


全員の顔が引きつっている、立会人までも引きつっている。

何人かは、小便を漏らしている。


そんなに恐ろしいのかな?

ちょっとやりすぎたかな?


スキル「契約」NEW!ゲットだぜ!


こうして、小魔王九十九つくもは誕生したのだ。

世界の人々はまだその事実を知らないのであった。

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