第4話 狩人2
04 狩人2
時間は少しさかのぼる。
「よし、普通の猟師がどのように、獲物をとるのか、ということは肝に銘じておけよ」
「はい、先生」
「今度は猟銃の撃ち方だ」
発射までの手筋を説明し終わると、さも当然のように銃を渡してくれと手が出てくる。
この子供が銃を撃って大丈夫なのか?いやだめだろう!
「先生」手が要求してくる。
「持つだけだぞ」
「はい」
「こんな感じかな」膝を落として、構えるそして撃つ。
ズバーン!幹に弾が食い込む。
「おい!」
いつの間にか、九十九は次弾を装填し始めている、弾を渡してはいなかったはず!
その時、兎が茂みから飛び出してくる、そんな馬鹿なことがあってたまるか!
一瞬で銃口が兎の進路に向けられる、ズバーン!
兎が持ち上げられるように浮き上がり、地面にたたきつけられた。
「やりました、先生」
いや、そうじゃないだろう。
「やっぱり、弾が食い込む感覚ってわかりますね」
子供が言う言葉ではないと思いながら「誰が、撃っていいといった」
「先生、俺も銃が欲しいです」この男は人のいうことを聞くことはない。
「小学校前の子供が、猟銃もってどうすんだよ」
「先生、俺毎日、狩りしてますよ、猟師なんですよ」
「お前は槍で刺すんだろが」
「まあ、でも銃のほうがかっこいいじゃないですか」
「やれやれだぜ」俺はまた、頭が痛くなってきた。
・・・・・・
九十九の視点
その後数発、ウサギやトリを撃たしてもらった、やはりトリは、銃のほうが打ちやすい、初めのほうは弓矢だったからな!しかし、銃の反動はやはりこの体では、きついかもしれない、鎖骨が痛い、弱いながらも治癒魔法を発動する。
治癒魔法自体は難しくないのだが、魔力が極端に少ない世界であるようで、効きが悪い
ちなみに、なぜかそのようなことがわかる。
まあ、便利な体ではある。
「じゃあ、明日も、猟するのか?」と山口
「先生、明日もよろしくお願いします」
「そうか、じゃあ明日は、罠猟をやろう、槍もってこいよ」
と山口が俺にいう。
「うん?お前あの槍は?」
「え!」しまった、邪魔なので、収納ボックスに入れてしまっていた。
「あ、先生、おいてきてしまった様です」
「なんだと、じゃあ、今から探しに行こう、あの槍は相当なもんだろ」
朱塗りの槍がどの程度ものかは、知らないがいいものなのか?
「ええ」よくわからんが、きっとそれなりのもののはずだが、正直わからん。
「僕が探してきますので、先生は先に帰ってください」
「馬鹿野郎、子供一人おいて帰れるわけないだろ」
「先生、すぐに探してきますので少しお待ちください」
俺は焦って走り始める、適当な藪に入って、槍を取り出す。
「ありました先生」俺は槍を突き上げながら走る。
「おい」
山口の近くまで、走ってきた俺に
「まあ、何かお前には秘密があるのはわかるが、嘘はいかん、あの藪には一切入っていないぞ」
山口の顔は真剣だった。
「言えないこともあるだろう、しかし、そんな見え透いていては、足元をすくわれるぞ」
「先生」言葉に窮する俺。
「まあ、明日は、罠猟だ、またここでな」
「はい先生、よろしくお願いします」
・・・・・
山口の視点
にしても、どれだけすごいのか?ひどい!という言葉がぴったりだ。
藪に入るときの速度が尋常でなかった、まさしく、槍で獲物を突き刺すのだろう、それに、銃の狙い、予測位置を射撃している、動くものを撃つなど相当な腕前でも難しい、鹿のような大物ならば当てることができるが、兎はねっらてもなかなか当たるまい、鳥も同じだ、今日は散弾を使っていない、一発弾を鳥に打ちかけているのだ。
とても尋常ではないのだ。
しかし、子供は子供なのか、どうしてもしっぽが見えてしまう。
しかも、かなり大きなしっぽであることは確かだ。
今日も、岩魚、兎、山鳩と取った分だけ持たされた、自分家(じぶんち)にはまだあるとのことだ。
正直、食料はいくらあってもうれしいものだ、特にうちのような兄弟が多い家では。
明日も、常識をあの大きなしっぽもつ少年に教えてやらなければならない。
山口は一人ごちるのだった。
・・・・・
九十九の視点
今日は、やばかった、ついに秘密について感づかれたか?
まあ、ばれても問題ないとは思うし、山口は基本的にやさしい人間ポイからな。
それに、女神も人間は現地調達と言っていた、何とかして、協力者になってもらえるように誠意をもってあたるしかない。
それにしても、今日の銃猟はすごかった。
明らかに、スキルが発動していたのではなかろうか。
ステータスオープン
頭の中でつぶやくと、視界に小さな窓が開く、スキルを確認。
〈NEW!偏差射撃〉
〈NEW!進路予測〉
がアクティブになって表示されている。
「よし、新スキルゲットだ」
だが、相変わらずレベルや基本数値などの欄は潰れたままである。
まあ、レベルの概念がないのかもしれない。
日常生活で、レベルアップしたことなんかないからな。
当然といえば当然である。
よし、明日も頑張ろう、今日は不漁で何もなかったことにしようかと考えたが、家族が、がっかりすると悪いから、シカを収納から取り出し、背負って帰ることにした。
「かあちゃん、シカとってきたよ」と俺。
兄の五十六が出てきた。
近ごろは、肉をたらふく食えるせいか、どんどん背が伸びているらしい。
イメージと違う山本五十六になったらどうしようか、少し不安に襲われる俺。
「九十九、今日もとれたのか?」
「うん、兄ちゃん、とれたよ」
「そうか、持ってやるよ」
五十六が背負子を背負おうとしたがズシリと重かった。
「こんな重いもん、お前どうやって」
五十六はぐらぐらと家の奥に入っていった。
やばいな!
力が9歳上の兄よりあるのがばれてしまった。
しかしである、気にしても仕方ないので、とにかく肉食を続けよう。
近頃は、腹いっぱい食えるようになって有難いことこの上ない。
米はさすが米どころ新潟だけあって十分にあったのである。
家族内では、この弟の尋常でないところは、一切無視するように暗黙の了解がなされていることに、俺だけが、気づいていないのであった。
九十九の両親は、とても心配になってはいたのだが、食料を完全に独立した状態で補給してくるこの息子の影響で、他の兄弟や自分たちも明らかに栄養状態が良好になったことについては、非常に満足していたのである。
余計な事をいえば、崩れてしまうのではないかと内心恐れを持っていた。
いわゆる、鶴の恩返しの状態である。
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