第3話 狩人
03 狩人
次の日も次の日も、山でイノシシやシカを一頭づつ狩って帰るのを繰り返す。
レベルは見えないようになっているのだが上がっているのか、動きもよくなっている、単に慣れてきたのかも知れないがな。
それと、すぐに獲物を察知できるようになってきた、気配察知スキルのおかげで方向が分かる。私にも見える!
そうなると、もっと狩りやすくなる、家には一頭しか出さないが、スキル無限収納には何匹も獲物が入っている、収納内では、時間の経過がほぼないので、腐ることはない、細菌が存在していないからかもしれないが、酸素が存在しないのか、不活性ガスの所為なのか、不明である。
何かが、近づいてくる。
人間だな、気配で察する。
茂みから、クマが出てきた。
うわああ!とおもったが、やはり人間だった!毛皮を着こみ、薄汚れた格好だったから思わず間違えた。
まあ、俺も似たような恰好ではあるのだがな。
「驚かせたか?」明治には珍しくかなり大きな男だった。
「ええ、少し」
「お前が、高野の凄腕小僧か?」
どうも、周辺の猟師連中のなかで噂になっているらしい。
「俺は、山口
「どうも、高野
山口は今でいうところのイケメンだった、年のころは、20前か髪はぼさぼさの蓬髪である。
「そうか、お前なかなか賢いんだな」
「食べますか」
俺は、焼きあがっているシカの足を指す。
「いいのか?お前の食い扶持じゃないのか」
「大丈夫ですよ、また焼けばいいんですから」
「すまんな」
山口は火の近くに座り、遠慮することなくシカ足を食い始める
クマが肉を食いちぎっているようにしか見えないのが凄い。
こうしていると、山賊のキャンプのようだった。
俺は新しいシカ足を焼き始める。
「うまかった、ありがとな、ところでこの鹿は、槍で取ったみたいだが、どうやるんだ」
「えっ!」
「ふつう一人で鹿はとれんぞ、こいつを使わないとな」山口は自分の銃を示す。
「後ろから素早く接近して、延髄を刺すだけです」
「そうか、まあいい、ありがとな、うまかった」
「いえいえ」
「飯の礼に、お前に普通の狩りを教えてやるよ」
立ち上がりざまに山口がのそりという。
「え?」
「お前のやり方は普通じゃない、というかありえんよ、ほかの人間にそんなこと言うなよ」
鹿が人間の接近を許すはずなどないということをいまさら教えられる俺。
俺は常識が少し足りないのかもしれない。(いえ全然足りません)
普通にできていたので、いままで気づかなかったのである。
・・・・・・
山口の視点
山口が、その山に入ると、妙な気配を感じた。
村のじじいどもから聞いていたが、山の中には、人知を超えた何かが存在しているし、実際、山で何日も過ごすうちにそういうものに出会うこともあるということだ、まあ、幽霊とかそんなものもあるのだろうか?じじい曰く、黒い塊のようなものをみたことがあるらしい、とてもやばい感じのものらしいというのだが、其れか?
そんな話がおもいだされた、しかし、この気配からはやばさは感じない、何か強いプレッシャーのようだが、そう、怒ったクマと相対してしまったような感じといえばいいのだろうか?強敵を前にするような感じだ。
こいつは人間の中では、相当の猛者なのかもしれない。
草木をかき分け、気配の感じるほうに進んでいく、プレッシャーは一瞬で消えてしまった。
何かが起こっている、直感的におもった、なおも気配がおこった方角のほうに、山を登っていく、しばらくすると、いい匂いが漂いだした。
茂みをかき分けると、沢で、火を作り肉を焼く子供がいた。
子供の後ろからは後光がさしているように見えた、こいつは何者なんだ!
まだ、小学校に入る前の子供が鹿を取ったのだという、しかも、後ろから走って行って、延髄を刺すのだという。
馬鹿も休み休みいえ、鹿が人間の気配に気づかんわけがないだろ、しかもとても臆病で耳も鼻もいい、俺なら、できるだけ近づきはするが、射程内の百メートル程度が限界だ、運が良くて、こちらが隠れているところに、やってきてくれるところを、銃で仕留めることはあるだろうが、どちらにしても、槍で刺すとかないわ!
それに、肝心の得物の槍は見当たらない、どういうことだ。
俺は、この子供がとてつもない大物なんだと直感した、そうとしか考えられなかった。
子供は俺に、焼いている足を食えと渡してくれたのだ。自分の食料を分け与える子供を、俺は未だ見たことがなかった。
逆だろうと思いながらも、遠慮なく食わしてもらった、正直、腹が減っていた。
もう二日、山を歩いているが、まだ、獲物をとれていなかったからだ。
自分の腕が悪いとは思わないが、近ごろ獲物の数が減っているのか、遭遇率が減っているように感じる。
「ところで、高野か」
「九十九です」
「九十九、お前、まだ小学校前だよな」
「はい、そうです」
「そうか、俺が、普通の猟のやり方を教えてやるよ、槍で刺すとかありえないからな」
「本当に槍で刺すだけなんですよ」と九十九少年。
「本当だったら、なおさらだ、絶対に他人に言うなよ、お前自分が何をしているのか、理解してないだろ」
「そうなんですか」
「そうだよ」俺は、頭がいたくなった。
「じゃあ、お礼にこの鹿を差し上げます、明日からこの辺に来ればいいですか?銃を撃ってみたかったんですよ」と少年は悪びれることなく、あっけらかんと言い放った。
「ああ、わかった、でもこれもらっていいのか」
沢から引っ張りだされた鹿だった。
「どうぞ、どうぞ、授業料の代わりということで、お願いします先生」
調子のいいやつである。
「山口
「山口先生」子供は頭を下げた。
・・・・・
九十九視点
近づいて、槍で刺す戦法は最も簡単な方法だと思っていたが、違うらしい?本で読んだのだがな。棒の先に刀をくくりつけて槍のようにして、鹿を取るみたいなことを書いていたと思ったのだが?勘違いだったのだろうか?
まあ、銃がなかったので仕方なしにしていた戦法ではあるがな。
これからは先生ができたようだし、いろいろ教えてもらえそうだ、とても明日が楽しみだ。家には、収納ボックスのストックから出したやつを渡そう。
そういえば、毎日、イノシシやシカを渡しているが、これもおかしいのか?
それは、もちろん十分おかしいのだが、俺はきづけなかったのだ。
翌朝、沢に朝早くから到着していた、少し興奮していたようだ。
山口先生の村は山の反対側にあるらしいので、魚でもついて待つことにする。
収納ボックスから槍を取り出して初めて、自分がやらかしたことに気付いた、槍はすでにしまっていたのだ、あの時には。
「まあ、気づいていないほうにかけよう」
岩の上から、沢の流れを見ると魚影が素早く行きかっている。
2,3回槍を繰り出してみるも、かわされると突然魚の動きがスローモーションに見える瞬間が訪れる「いまだ!」雷光のごとき鋭い突きが川面に走る。
20cmのイワナがとれた、その後は、そのスローモーションのタイミングが次々と発生し、俺は、そのことに興奮し、無心で槍をふるい続けた。
明らかに何かのスキルを習得したのだろうと思う。
気づくと、太陽が頭の上に上っていた、そして、あきれたような顔をした大男がたっていた。
「あ、先生おはようございます」
「お前、岩魚の虐殺してんじゃねえよ」
あたり一面、岩魚が刺されて死んでいた。
一体何が起こったのか?(お前が虐殺したんじゃないか)
しかも、すでにハエがたかっているのもある。
「おい、九十九、魚は釣りか網で取るのが普通だからな、決して、槍で突き刺してとるもんじゃねえ」
「はい、先生」
昼は、岩魚の焼き物とおにぎり、シカ肉の塊を豪快に平らげた。おにぎりとシカ肉は家から母親が持たせてくれたものだ。
「すまんな、まだ何も教えてないのに、もらってばかりで」と山口。
「いえいえ、常識を教えてもらってますよ」と俺。
しかし、なぜ急に魚の動きが見えるようになったのか?
スキル『偏差射撃』影響のようだ。
昼からは、山口が猟師の基本からいろいろ教えてくれた、足跡の見方、獣道の発見方法、追跡の仕方、夕方には、銃の打ち方、そして実際の射撃!これですよ!これ!
ズバーン!村田銃から大きな音が発し、火花が噴き出る、弾は目標の木の幹に命中する。キュンと食い込む弾の音がする。
素早く、薬きょうを排出し次弾を装填する。
その時である、音に驚いたのかウサギが茂みから飛び出してきた。
動きがスローモーションになる、一瞬で狙いをつけて、引き金を絞る。
ズバーン!
ウサギが横に吹っ飛ばされるように流れて地におちて転がる
「やりました、先生」そういいながらも、次弾を装填する、体が自動に動くことがよくあるといわれるが、こういうことなのかもしれない。
すると、山口は「やれやれだぜ」と両手をひろげた。
結局、それから半時間、常識について講義を受け解散となった。
俺は、何かおかしいことをしたのだろうか?
・・・・・
山口の視点
山のこちら側だから、朝の7時に出れば、昼前には、昨日の場所にたどりつけるだろうと、俺は家をでた、昨日の獲物は家族がみんな大喜びであった。
まあ、俺がとったわけではないが。
この時代は基本的に粗食であり、腹いっぱいまで食えるのは正月など祭りのようなときだけである、もちろんそれすらままならない時が大半であるので大喜びは当然であった。
目の前に開けた光景に俺は唖然とした。
沢中に、岩魚の死体が無残に散乱していた。
岩の上に、朱塗りの槍、自分の数倍の大きさを持つ子供?が水面をにらみつけている。
やはりこの子供からのこのプレッシャー尋常ではない。
水面が爆発する、槍が岩魚を串刺しにした瞬間だった、いつ槍を繰り出したのか?
魚を貫いた槍の先がこちらを向き、きらりと光を反射した、一切の刃こぼれがない、魚だけ貫いていたのか?それとも相当の業物なのか?不明だが、こいつに槍を繰り出されたら、気づかぬうちに死んでいることになりそうだぜ。
冷汗が流れる。
「あ、先生おはようございます」
「お前、岩魚の虐殺してんじゃねえよ」としか言えなかった、こいつには、山の幸に感謝する心を徹底的に教えなければならないと心に誓いをたてた。
せっかくの岩魚だ、俺はまだ、食べれそうなものを集め河の流れの中でさばいていく。
どんだけ、突き刺してるのか、まずは内臓を出さないと、魚は足が速いのだ。
昼飯は岩魚の塩焼きとおにぎり、シカ肉の塊でとった、腹いっぱいまで食った、久しぶりだ、これもいわば常識外である。
この時代、飯を腹いっぱい食うのは難しい時代なのである。
眠たくなってきたが、狩猟にかかる基礎を教えていく、こいつにそんなもんが必要かと言われれば、まったく必要ないように思う、異常に感が鋭く、すぐに痕跡や足跡を発見する、しかも移動するときにはほとんど音を立てない、俺のほうが音を立てているくらいだ。
しかし、普通の猟師がこうするというのを教えていなければ、何が普通か、この子供にはきっと、生涯わかるまい!と確信していた。
銃を構えた子供の姿はおかしな感じだが、こいつの場合は、妙にしっくりと来る。
銃声に驚いたのか兎が飛び出てきた。
ズバーン!
ウサギが横に吹っ飛ばされるように流れて地におちて転がる。
「やりました、先生」
やはり、こいつには、常識のほうが重要だろう、この人外感が半端ない。
はじめて銃を撃ったといっている子供が見事に流し撃ちで、兎を撃ち殺すとか、ないわ!
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