第7話

 ーピチャン

 

 白濁した湯が揺蕩う。

 白く長い手足が、湯の中で揺らめき、掲げた腕から、雫が伝い落ちるのを目の端で捉え、ザバリと湯船から上がる。


 長めの髪を耳にかけ、物憂げな横顔が顕になったー



 「って、今度はお前かーい!」

 ーバアアンッ


 「うわあああ!」

 ざばああー!

 「ぶっ!」

 

 バスルームの扉を開けた途端、これでもかとレオにお湯を掛けられた。

 そりゃもう、しずかちゃんの風呂を覗いた、のび太くんの如く。

 そりゃそうなるわな。

 学習能力無いな、私。


 「ご、ごめん!アオ!」

 「いえいえ。私が悪う御座いました。」

 ごめんなすって、と帰ろうとしたのだけれど。


 ポタリポタリポタリ

 制服から、髪から水が滴り落ちる。

 こういうの、何て言うんだっけ?

 そう、濡れネズミ…

 何で私になると、こう、みすぼらしい感じなの?

 水も滴るって感じにならないのかしら?


 「ごめん、アオ。部屋行けないよな…」

 「うーん。どうしようかな。床が水浸しになったら、リュウに怒られそう…」

 「俺の着替えで良ければ、着替えていいよ。俺は風呂の中に居るし。」

 「レオの着替えはどうするの?」

 「悪いけど、俺の部屋に行って持って来てくれる?」

 「う、うん。分かった!」


 よし!彼シャツだ!

 何か違う気もするけど。

 なんだっけ。

 あれは、シャツを1枚で着るやつだっけ?

 しかも、これトレーナーだから、彼トレーナー?

 いや、そもそも彼でもないから、なんだろう、どうして映画みたいにならないのかな?


 鏡に映った自分を見る。

 みすぼらしい…

 袖と、裾がすごく余ってるのに、ウエストがぴったり…

 いや、もう何も考えまい!

 

 バスルームを飛び出して、さあ、堂々とレオの部屋を物色してやろうと思って息巻いたら、何かにぶつかった。


 「ぶっ!」

 何かさっきもあったな、ぶっ!って。

 そう思って見上げると。

 「お前、何その服。レオのじゃねえの?」

 リュウだった。

 かくかくしかじかと、説明する。

 

 「はあ~。」

 深い溜息を吐かれた。

 「お前は本当に…まあ、いい。レオの着替えなんか何処にあるか分かんねえだろ?俺が着替え持ってくから、お前は自分の着替え用意しとけ。直ぐに、レオ上がらせるから。」

 「う、うん。分かった。」

 重ね重ね、うんこ騒動では飽き足らず、人の入浴中に乱入して、申し訳ないと思っていたら。


 

 「あっ、アオ上がった?」

 何でペアルックで料理してんすか!?

 私は彼トレーナー?を脱いで、自分のしょぼいトレーナーに着替えたのに!

 

 「何か機嫌悪い?アオ。」

 「ああ。今日、うんこ踏んだから。」

 「ええ?!また?!」

 「そ。今日はカラスじゃなくて、犬のうんこだけどな。」

 「カラスのうんこの次は犬のうんこかあ。アオ、持ってんなあ。」


 そんなんいらんわ!

 相変わらず、私と言えばうんこしかないのか!


 BLにしてやる。

 ちょっと何だか分からんが、BL臭くしてやるぞ!

 腐女子舐めんな!


 そうと決まれば!

 ガタッと立ち上がる。


 「あれ?アオご飯は?」

 ご飯…

 「今日のご飯、何?」

 「シチューとオムライスだよ。」


 ご飯食べてからにしよう。


 

 「ふう、食った食った。」

 よし、始めるとするか。

 取り出したる、スケッチブックと鉛筆。

 「えっと…なんだっけ…屋上で殴り合いするんだよね。何で殴り合いするんだったかな…」


 ーカリカリカリカリ

 「こんなんだったかな…」




 

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