第5話

 「リュウ、どうしたの?風邪引いちゃう…」

 俺の冷えている身体を拭こうとしたのか、確かめようとしたのか、アオが小さな手を伸ばす。


 力を入れたら折れてしまいそうな。


 助けを求めるかのように、その手を取り、縋った。

 リュウの様子がおかしいのが気になるのか、アオはされるがままになっていた。

 

 欲しい。

 何が?

 分からない。

 何も分からないまま、リュウはアオを引き寄せ口付けた。

 アオは驚いているのか、ぱっちりと目を見開いたままだ。

 もしかして、初めてだったんだろうか。

 さぞ、レオが怒るだろうとぼんやり思う。

 

 「はあっ…」

 でも、気持ち良い。

 角度を変えて、更に深く口付ける。

 アオの身体が打ち上げられた魚のように、ビクビクと跳ねる。

 それを強く抱き締め、押さえ付ける。

 レオはどう思うだろうか。 

 俺を殺したい程憎むだろうか。

 昏い愉悦が身体を満たす。

 それは、随分楽しいことのように思えた。

 快楽に身を任せていると、自分が何を求めているのか分からなくなってくる。

 何もかも俺と同じように壊れてしまえばいい。

 そうすれば、俺を照らすものなど無いならば、何も不安にならずに済むものを。

 生温かい暗闇の中で、変わらずに居られる。

 これでいいのだと、安心していられる。

 どうせ何も変えられないのに。

 こんなにも無力なのに。

 もう、傷付くのは沢山だ。


 「リュウ…」

 

 泣き出して俺を詰るのかと、思った。

 そうして欲しいとも思っていた。

 だが、アオはリュウの頬に手を伸ばし、眉尻を下げた。


 「どうして、泣いているの?」


 「え…?」


 泣いてる?

 俺が?


 自分の顔に手をあてると、確かに泣いている様だ。

 どうして、俺が…


 アオが心配そうな目で俺を見ている。


 嫌だ。

 そんな目で俺を見ないでくれ。


 「んっ…」

 リュウは、アオを引き寄せ再び口付ける。

 憐れまれたいわけじゃない。

 そんなのはゴメンだ。

 何よりプライドが許さない。

 そんなことに耐えられる自尊心など持ち合わせてはいない。


 だから、これでいい。

 傷付けて、壊して、何もかも俺と同じになればいい。

 どうか、恨んでくれ。

 憎しみで、俺を縛っていてくれ…


 「レオ…」




 




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