姉妹揃って手遅れですが、何か?

「ふわぁあ……ふぅ、また素敵な日になりそうね」

「すぅ……すぅ……」


 ナーニャちゃんと出会ってから、早くも三日目の朝を迎えました。

 わたしが欠伸しながら目を覚ますと、隣で愛しい妹が気持ち良さそうに寝息を立てています。あぁ、なんて可愛らしいんでしょう。もしかすると、ここはまだ夢の中なのかもしれません。だって、この状況はあまりにも幸せすぎますから。


「馬鹿なこと言ってないで、さっさと起きろよ」

「ナナシちゃん、おはよう。あっ……ごめんなさい。今夜は仲良く3人で寝ましょうね」

「いや、フー姐寝ないからな!?」


 ナナシちゃんがすっかり反抗期です。昔は、一緒じゃないと眠れないなんて可愛いことを言って、毎晩のように布団へ潜り込んでいたのに……お姉ちゃん、ちょっぴり寂しいです。

 ですが、わたしは諦めませんよ。右にナーニャちゃん、左にナナシちゃんを寝かせ、妹たちの温もりに挟まれながら眠るのが夢なのですから。


「いや、それだとオレはナーニャの体温感じられないじゃんか!」

「……ツッコミどころ、本当にそこで良いの? ナナシちゃん」


 てっきり、そんな夢捨てちまえ! みたいなツッコミが返ってくるものだとばかり思ったのですが、おかしいですね? 予想が外れました。

 おっと。ナナシちゃんの大きな声で、ナーニャちゃんが目を覚ましたようです。


「んんん……んぇ?」


 まだ寝ぼけているのでしょうか。ぽやーっとした表情で、首を傾げています。

 寝起きの頭なので、ここがどこだか思い出せないのかもしれませんね。ここはお姉ちゃんたちが声を掛けて、安心させてあげるのが良さそうです。ではさっそく。


「ふふ。おはよう、ナーニャちゃん」

「起きたか、ナーニャ。おはよう」


 狙い通り、安心することができたのでしょう。大きくあくびしたナーニャちゃんが、隣で上半身だけ起こしているわたしにすり寄ってきます。そして、そのまま腰に腕を回し、二度寝を始めてしまいました。あぁん、仕方がないですね。わたしももう少しだけ付き合ってあげることにしましょう。んふふ。


 ナナシちゃんの冷たい視線を背中に感じますが、これは不可抗力というやつなのですよ。

 




 あれから小一時間ほど、ナーニャちゃんと一緒に二度寝を楽しんでしまいました。

 さて、今度こそしっかり目を覚ましたナーニャちゃんを連れて寝室から出ると……不機嫌そうな表情で、ナナシちゃんが仁王立ちしていました。


「遅いよ、フー姐。オレ、もう見回りに行かないといけないんだぞ」


 そういえばそうでしたね。今日から日替わりで見回りを担当するという約束でした。

 それなのに、うっかり可愛い妹の見送りをすっぽかしてしまうところだったわけで……これは怒られても当然です。


「いや、べつにフー姐に見送ってほしいわけじゃないけどさ」


 またまた、正直じゃないですね。本当は寂しかったくせに。そんなわたしの視線は無視して、ナナシちゃんがナーニャちゃんに声を掛けました。


「ナーニャ。オレ、お仕事に行ってくるよ」

「んん~……?」


 当然ナーニャちゃんには伝わりませんから、また先ほどのように首を傾げています。それにしても、細い首をこてんと傾ける姿は、破壊力抜群ですね。


「なぁフー姐、やっぱりナーニャを連れて行っちゃダメか?」

「ダメに決まってるでしょ」


 ナナシちゃん、一体どうしてしまったのでしょうか。朝からちょくちょく言動がおかしいです。もしかすると、道端に生えている変なキノコでも食べたのかもしれません。


「そんなもん食べてないし、フー姐にだけは心配されたくないぞ……」

「あらま」


 わたしにだけはって、どういう意味なのでしょうね? ちょっとよく分かりません。やれやれといった表情を浮かべながら、ナナシちゃんが出発の準備を再開しました。


「さっさと終わらせて帰ってくるから。それまでナーニャのこと頼んだぞ、フー姐」

「ええ、もちろんよ。いっぱい可愛がってあげるから、何も心配しなくて大丈夫。うふふふっ」

「心配が膨らみ続ける一方なんだが!?」


 そろそろ出発しないと、一日で見回り切れなくなってしまいますよ。なにせ、これまで分担していた範囲を全て見て回る必要があるのですから。そう急かすと、ナナシちゃんは渋々玄関へ向かいました。


「それじゃ、気を付けてね。いってらっしゃい」

「あぁ、行ってくるよ」


「……いっーーーー!」

「ナ、ナーニャも見送ってくれるのか?! 可愛い奴だな……ははは、行ってくる!」


 突然テンションを上げたナナシちゃんに、わたしは度肝を抜かれました。こんなに機嫌の良い姿を見るのは久しぶりです。


 それと、たしかにナーニャちゃんはこの状況をなんとなく理解しているように感じます。

 というか、今さっき少しだけ「いってらっしゃい」と言いかけていませんでしたか?!

 雰囲気に合わせて適当に声真似してみただけなのか、偶然それっぽい音が漏れただけなのかは分かりませんが……これは、ナーニャちゃんの口から見送りの言葉が聞ける日も近いかもしれません。わたしもナーニャちゃんに可愛くお見送りしてもらいたいです。ふふ、夢が膨らみますね!




 るんるんと軽いスキップをしながら、ナナシちゃんが見回りに出発しました。

 ……しかし、スキップしているナナシちゃんなんて初めて見ましたよ。わたしの可愛い妹は、もういろいろと手遅れなのかもしれません。まあ、わたしだってナナシちゃんと同じ目にあったら、スキップくらいしていたと思いますけどね。


 さてさて、この後ナーニャちゃんと二人でどう過ごすかですが、それについては実はもう既に決めているのです。


「ナーニャちゃん、今日は可愛い服をいっぱい買ってあげるからね!」

「……ーーーー?」


 ナーニャちゃんはよく分かっていない様子ですが、服飾屋に到着すれば、きっと目をキラキラさせて喜んでくれることでしょう。女の子は大抵オシャレが大好きですからね。


 あそこの服飾屋を営んでいる娘がちょっとなので、ナーニャちゃんを連れて行くことに不安もありますが……服飾屋の一人娘なだけあってファッションのセンスについては間違いないので、きっとナーニャちゃんの魅力を引き出してくれることでしょう。というわけで、背に腹は変えられません。


「ナーニャちゃん、わたしたちもパパッと準備して出かけましょ」

「……んっ!」


 可愛いお返事、いただきました!

 さあ、楽しいデートの始まりです。

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