同類と出会いましたが、何か?
運命的な出会いから、一晩が経ちました。
わたしの目の前には今、
天使ちゃんを見た里長が、あぁ、と声を漏らしながら天を仰ぎました。
「フウラよ。おぬしのことじゃ、いつかやらかすのではないかと思っておったが……やはりやらかしよったか。いやはや、非常に残念じゃ」
「何もやらかしておりませんが!?」
まったく、いきなり失礼しちゃいますね、このロリババア。そんな酷いことを言っちゃう子は、後でいっぱい
「ふひゃあ! な、何か悪寒がしたのじゃが……まさかおぬし、この儂に対して邪なことなど考えておらぬよな!?」
「とんでもございませんよ、里長」
「ほ、本当じゃろうな!?」
「……」
「お、おいっ」
うふふ、申し訳ございません、里長。見た目だけはわたしのストライクゾーンにドンピシャなので、ついつい弄ってしまいました。
「おぬしは変わらんな……はぁ。ナナシよ、本当にこんな危ない奴と義姉妹の契りを結んで良かったのかの?」
「……」
「ナナシちゃん、その沈黙は何!?」
「……いや、半分は冗談だ。後悔はまあ、していないさ。そんなことより、早く本題に入ろうぜ」
おっと、そうでしたね。今日は里長に、天使ちゃんのことを紹介しに来たのでした。
天使ちゃんはこれから里の住民になるのですから、まずは里長に挨拶しておく必要があります。
それに、エルフの里の生き字引と呼ばれる里長なら、言葉を理解できないエルフとのコミュニケーション方法を知っているかもしれませんし。
何せ里長は、御年420歳。比較的長命なエルフ族とはいえ、それでも平均寿命は300歳程度ですから……とんでもないご長寿老人です。
もっとも、容姿的にはどう見たって幼女、天使ちゃんとさほど差がないロリ体型なのですが。
「今、儂とその娘っ子を見比べよったな!? なんじゃ、言いたいことがあるならはっきり申せっ」
「いえ、天使ちゃんと里長が仲良く戯れていたら、何だか癒されそうだなと思っただけですよ?」
「それは孫との戯れ的な意味じゃよな……? おいこら、何故目を逸らす」
「いえいえ、幼女もどきが何かほざいているなと思いまして」
「もはや言葉を選ぶことさえやめよったぞ……年長者への敬意はどこに忘れてきたんじゃ!?」
「……ちっとも話が進まねぇ」
ほらもう、里長がくだらないことで突っかかるから、ナナシちゃんに呆れられてしまったじゃありませんか。困ったお方です。
「えっ、まさかの儂の所為!?」
「里長がそうやっていちいち反応するから、フー姐が調子乗っちゃうんだってば……」
「えぇ……これ、本当に儂が悪いという空気なのかの?」
はいはい。そんなことよりも、早く話を進めますよ。ほら、天使ちゃんも戸惑っているじゃないですか。
あっ、もしかしてわたしが
でも大丈夫ですよ、天使ちゃん。たしかに里長は見た目だけなら愛らしいですし、実際とっても弄り甲斐がありますが……所詮は平均寿命越えの、幼女もどきですから。わたしの中のベストオブ幼女は、もちろん天使ちゃんに決まっています。
「儂、さすがに泣くぞ……?」
あ、それは結構です。そういうのは天使ちゃんで間に合ってますから。さて、何から順に話しましょうかね。
◇
おはようございます。
幼女になってから、二日目の朝を迎えました。はい、不本意ながらも迎えてしまったんです。夢ならいい加減に覚めてよ……
ボクが目を覚ますと、すぐ横に腰かけて微笑みを浮かべていたお姉さんに、抱き上げられた。
そして、まだぼんやりと寝ぼけている間に子ども服を着させられ、ついでに髪まで梳かされてしまった。完全にされるがままだ。
直後、幼女として扱われることに対し抵抗感が薄れているんじゃないかと自覚したことで、朝から猛烈な危機感に駆られて……そのままうっかり涙をこぼしてしまった。
あぁあああ。こんな風に黒歴史を積み上げ続けるくらいなら、いっそのこと貝にでも生まれ変わった方がマシだったかもしれない。うぅ、しくしく。
その後、しばらくお姉さんたちがバタバタしていたので、ボクは隅で大人しくしていたのだが……昼を過ぎたあたりになって、突然外に連れ出された。
えっ、ちょっと待って、どこ行くの? なんて、混乱で軽くパニックに陥ってしまったものの、お姉さんに頭を撫でられると気持ちが落ち着いていく。恥ずかしいけれど、落ち着くものは落ち着くんだから仕方がない。
「はふぅ、ありがと……」
どうせ言葉が通じないと理解しつつも、心配してくれたお姉さんに感謝を述べる。それを聞いたお姉さんが、何かを感じ取ったのかニコリと微笑んだ。
喋り方まで子どもっぽくなっているのは、そう、気のせいだ。これは断じて順調に幼女化が進んでいるとかではない。本当だよ?
で、到着したのは神殿らしき建物。その奥に待っていたのは……なんと驚き、エルフの幼女だった。
なんなんだ、ここは。見た目的に神殿か何かだと思ったんだけど、実は託児所的な場所だったり?
ということは、あれかな。お姉さんたちには昼間のあいだ用事があるから、ボクを預けておこうという感じの流れでしょ。たぶん。
きっと今から、ここの責任者みたいな人、というかエルフが現れて、ボクの入所交渉でも始めるんだろうと想像していたんだけど、そんな責任者風のエルフは一向に現れない。
それどころか、お姉さんたちと目の前の幼女が、激しい言葉の応酬を繰り広げ始める始末だ。えぇええ……訳がわかんない。
それはそうと、幼女を見て「同類だ」と思ってしまった自分が信じられない。その感想が真っ先に浮かんじゃいかんでしょ、ボク。
実年齢を考えれば、ボクの方がずっと年上のお姉さん……じゃなくてお兄さんなんだから。
今後、ここに預けられることになったら、ちゃんと年上としての威厳を見せないとね。
ただでさえお姉さんやダークエルフさんに子ども扱いされているのに、そのうえ本物の幼女を同類と認識してしまったら……いよいよ幼女として完成してしまう。ひぇえっ。
そんなことを考えていたら、お姉さんたちの会話に区切りがついたらしい。気がつけば、皆してボクの方を見ている。
……な、なんですか? もしかしてボク、何かやらかしちゃいました?
「ーー、ーーーーーーー?」
「えっ……?」
お姉さんが何か話しかけてくるが、もちろん何を言っているか分からない。
お姉さんも、言葉が通じないことを思い出したようで、しばらく考え込んだ後……なにやらジェスチャーをし始めた。たしかに良い案だと思うんだけど、ごめんなさい。やっぱり分からないや。
「ーー、ーー?」
それでも、お姉さんは必死にジェスチャーと言葉を繰り返す。お姉さんの指は、何度もボクを指していた。首を傾げながら喋っているので、恐らく何かしらの質問をしているのだろう。
しかし、それ以上に読み取ることはできない。
もしかしたら、ボクの理解力が幼女に近づいて低下しているのかも? そうだとしたら、いよいよピンチかもしれない。どうしよう……別の意味で不安になってきた。
そんな不安を拭い去るように、ボクはお姉さんに質問を返した。
「な、なぁに……?」
また子供っぽい喋り方になってしまったが、それは一旦置いておこう。
とは言え、やっぱり通じるわけがないよね……
ボクは意思疎通を諦めて、口を閉ざす。
「ー、ーーーーー……ナァ、に……なーニャ」
「ーー、ーーー。ナーにゃ……!」
「なーニャ……ーーー、ーーーーー」
そんなボクとは対照的に、お姉さんとダークエルフさん、それに幼女まで、皆揃って嬉しそうに盛り上がり始めた。
状況が分からないボクは、置き去りにされた気分だ。よく聞けば、さっきボクが口にした言葉を真似し合っている様子。
ありゃりゃ? エルフにとっては、変な意味に解釈できてしまう言葉だったのだろうか。もしくは、ボクの言葉が可笑しくて、馬鹿にしているだけなんて可能性も……
うぅ、どっちにしても辛いや。泣きそう。
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