いろいろ失いましたが、何か?
えっとですね……再び目を覚ましたら、裸のお姉さんに抱き上げられてました。
「……いや、何この状況!?」
幼女になった所為か、異性に対するようなドキドキ感はほとんどないけど、そういう問題じゃない。いろんな意味でダメージが大きいので、お願いだから放してほしい。
抜け出そうと必死に暴れてみたものの、ボクの力が弱いからか、お姉さんが強いからか、ちっとも抜け出せそうにない。
そんなボクの苦戦っぷりには目もくれず、何の脈略もなしにお姉さんがスキップし始める。
ちょっ……目の前で女性の象徴が揺れに揺れてるんだけど!?
以前のボクなら喜んだのかもしれないこの状況。けれど、躍動感たっぷりに揺れるそいつは凄まじい迫力で、今は恐怖する気持ちの方が大きい。
ジタバタと全身でアピールするも放してもらえず……ようやく解放されたのは、建物の裏側、池らしき場所に到着したタイミングだった。
うん、これはさすがに察しがついた。ボクの身体、ぶっちゃけ臭いからね。ここで身を清めなさいということだろう。それはボクとしてもありがたい話なんだけど、なんでお姉さんまでついてくるかなぁ。あれかな、一番風呂は譲らない的な?
それならボクは待機しておくので、お姉さんからお先にどうz……あっ、やめっ、一緒に池に入れようとしないで!
さっきからこんなことばっかりだ。なんとなく、大事なものをどんどん失っているような気がする。このままだと、もう一生幼女から戻れないかもしれない。精神的に。
全てをあきらめたボクは、お姉さんにされるがまま身体を清められていく。あぁ、でもすっきりして気持ちいいや……はふぅ。
そして、今度は目の前でお姉さん自身が身体を清め始める。これはあれだね、いかにもエルフの水浴びって感じのやつだ。木々の隙間からうっかり覗いたら魅了されちゃう系の。ただ、それはこんな至近距離で見るべきものじゃない。
にへら……現実離れした光景に、ボクは苦笑いするしかなかった。
◇
……っ! 今の天使ちゃんの顔、見ました? 遂に笑ってくれましたよ!?
身も心もすっきりしたことで、ようやく緊張が解けたのかもしれません。やはり幼い子どもは笑顔でいるのが一番です。これからは、ナナシちゃんと三人で笑顔が溢れる家庭を築いていきましょう。
さて、天使ちゃんも疲れているでしょうから、水浴びは早めに切り上げちゃいます。少し名残惜しいですが、これからは何度でも一緒に水浴びできますからね。
またさっきみたいに家の中まで抱いていこうとしたら、全力で首を振って、嫌だ嫌だと言わんばかりに抵抗されてしまいました。照れ屋さんですね。
これから一緒に暮らすのですから、そんな遠慮なんてしなくていいのに。
そういえば、天使ちゃんの衣服はどうしましょうか。下着はわたしが昔履いていたもので良いとして……あっ、思い出しました!
わたしは奥の部屋まで天使ちゃんを連れていき、仕舞っておいた白いワンピースを取り出します。
これは、昔ナナシちゃんに着せようとして、けっきょく拒絶されて着てもらえなかった服です。天使ちゃんには多少サイズが大きいでしょうが、ワンピースなら一旦問題ないでしょう。彼女なら絶対に似合うはずです。ええ、間違いありません。
まずは下着を履かせてあげましょう。右足を上げるようジェスチャーで指示すると、不思議そうに首を傾げながらも恐る恐る従ってくれました。
そのまま下着を近づけて、可愛い右足に通そうとします。
「……うにゃあぁぁぁぁああ!!」
天使ちゃんが、またまた突然叫び出しました。顔と耳を真っ赤に染め、上げていた右足も下ろしてしまいます。
どうして急に取り乱したのかは分かりませんが、少し強引になってもこのまま履かせてあげるしかありません。天使ちゃんは顔をプルプルさせて目元に涙を溜めていますが、なんとか耐えてくれました。
「なぁ……よく分かんないけど、他人に履かされるのが嫌なんじゃないの?」
声のした方に顔を向けると、部屋の入口にナナシちゃんが立っています。いつのまにか帰ってきていたようです。
「あら。お帰りなさい、ナナシちゃん」
「それでだな……これ、どういう状況なんだ?」
「どういうって?」
ナナシちゃんは何をそんなに引いているんでしょうか? あっ、天使ちゃんのことですね。
「あーー、これは村のやつら呼んできて、フー姐を取り押さえた方がいいのかな。いや、でもこんな状況を見せるわけにもいかないか……」
……今、一瞬外に出ていこうとしたよね? まさか本当にお姉ちゃんを取り押さえるつもりだったのですか!?
そんなことより、天使ちゃんにワンピースを着せてあげねばなりません。早くワンピース姿の天使ちゃんを見たいです。
「今大事なところだから、ちょっと待っててね。後でちゃんと紹介するから」
相変わらず何か怪しんでいる様子のナナシちゃんですが、大人しく待っていた方が早いとでも判断したのでしょうか、呆れたように部屋から出ていきました。
さて、ナナシちゃんも待っていてくれることですし、ここはパパっと着替えてしまいましょうね。
天使ちゃんの方を向くと、先ほどまで取り乱していたのが嘘のように大人しくなっていて、さながら借りてきた猫のようです。
正確には、大人しく……というより放心しているようにも見えますが。やっぱり疲れてるんでしょうね。
今度は、何ら抵抗することなくワンピースを着てくれました。
うんうん、わたしの見立てに間違いはありませんでした。ただでさえ可愛い天使ちゃんが白いワンピースを着ることで、もう本物の天使みたいです。
いや、みたいというか本物の天使なのかもしれません。ほら、またわたしの魂が天に召されそうになっています。でも、天使に出会えたのですから、このまま召されたって後悔はありません。
あ、でも、わたしにはこの天使ちゃんを育てるという使命がありました。それに、ナナシちゃんもあれでいて寂しがりやさんですから、置いていくのは心配です。というわけで、再び魂をカムバックさせます。ふぅ、危ないところでした。ギリギリセーフです。
「フー姐、待ってたよ。それじゃ、さっさと説明してくれよ。事と次第によっては……」
天使ちゃんを連れてナナシちゃんの待っている部屋に戻ると、鋭い眼光が飛んできました。今日はご機嫌斜めなのかもしれません。
さてさて、それでは天使ちゃんについて話すとしましょうか。
「わたし、天使を拾いました!」
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