いろいろ失いましたが、何か?

 えっとですね……再び目を覚ましたら、裸のお姉さんに抱き上げられてました。


「……いや、何この状況!?」


 幼女になった所為か、異性に対するようなドキドキ感はほとんどないけど、そういう問題じゃない。いろんな意味でダメージが大きいので、お願いだから放してほしい。


 抜け出そうと必死に暴れてみたものの、ボクの力が弱いからか、お姉さんが強いからか、ちっとも抜け出せそうにない。

 そんなボクの苦戦っぷりには目もくれず、何の脈略もなしにお姉さんがスキップし始める。

 ちょっ……目の前で女性の象徴が揺れに揺れてるんだけど!?

 以前のボクなら喜んだのかもしれないこの状況。けれど、躍動感たっぷりに揺れるそいつは凄まじい迫力で、今は恐怖する気持ちの方が大きい。

 

 ジタバタと全身でアピールするも放してもらえず……ようやく解放されたのは、建物の裏側、池らしき場所に到着したタイミングだった。


 うん、これはさすがに察しがついた。ボクの身体、ぶっちゃけ臭いからね。ここで身を清めなさいということだろう。それはボクとしてもありがたい話なんだけど、なんでお姉さんまでついてくるかなぁ。あれかな、一番風呂は譲らない的な?

 それならボクは待機しておくので、お姉さんからお先にどうz……あっ、やめっ、一緒に池に入れようとしないで!


 さっきからこんなことばっかりだ。なんとなく、大事なものをどんどん失っているような気がする。このままだと、もう一生幼女から戻れないかもしれない。精神的に。


 全てをあきらめたボクは、お姉さんにされるがまま身体を清められていく。あぁ、でもすっきりして気持ちいいや……はふぅ。

 そして、今度は目の前でお姉さん自身が身体を清め始める。これはあれだね、いかにもエルフの水浴びって感じのやつだ。木々の隙間からうっかり覗いたら魅了されちゃう系の。ただ、それはこんな至近距離で見るべきものじゃない。


 にへら……現実離れした光景に、ボクは苦笑いするしかなかった。

 




 ……っ! 今の天使ちゃんの顔、見ました? 遂に笑ってくれましたよ!?

 身も心もすっきりしたことで、ようやく緊張が解けたのかもしれません。やはり幼い子どもは笑顔でいるのが一番です。これからは、ナナシちゃんと三人で笑顔が溢れる家庭を築いていきましょう。


 さて、天使ちゃんも疲れているでしょうから、水浴びは早めに切り上げちゃいます。少し名残惜しいですが、これからは何度でも一緒に水浴びできますからね。


 またさっきみたいに家の中まで抱いていこうとしたら、全力で首を振って、嫌だ嫌だと言わんばかりに抵抗されてしまいました。照れ屋さんですね。

 これから一緒に暮らすのですから、そんな遠慮なんてしなくていいのに。


 そういえば、天使ちゃんの衣服はどうしましょうか。下着はわたしが昔履いていたもので良いとして……あっ、思い出しました!

 わたしは奥の部屋まで天使ちゃんを連れていき、仕舞っておいた白いワンピースを取り出します。

 これは、昔ナナシちゃんに着せようとして、けっきょく拒絶されて着てもらえなかった服です。天使ちゃんには多少サイズが大きいでしょうが、ワンピースなら一旦問題ないでしょう。彼女なら絶対に似合うはずです。ええ、間違いありません。


 まずは下着を履かせてあげましょう。右足を上げるようジェスチャーで指示すると、不思議そうに首を傾げながらも恐る恐る従ってくれました。

 そのまま下着を近づけて、可愛い右足に通そうとします。


「……うにゃあぁぁぁぁああ!!」


 天使ちゃんが、またまた突然叫び出しました。顔と耳を真っ赤に染め、上げていた右足も下ろしてしまいます。

 どうして急に取り乱したのかは分かりませんが、少し強引になってもこのまま履かせてあげるしかありません。天使ちゃんは顔をプルプルさせて目元に涙を溜めていますが、なんとか耐えてくれました。


「なぁ……よく分かんないけど、他人に履かされるのが嫌なんじゃないの?」


 声のした方に顔を向けると、部屋の入口にナナシちゃんが立っています。いつのまにか帰ってきていたようです。


「あら。お帰りなさい、ナナシちゃん」

「それでだな……これ、どういう状況なんだ?」

「どういうって?」


 ナナシちゃんは何をそんなに引いているんでしょうか? あっ、天使ちゃんのことですね。


「あーー、これは村のやつら呼んできて、フー姐を取り押さえた方がいいのかな。いや、でもこんな状況を見せるわけにもいかないか……」


 ……今、一瞬外に出ていこうとしたよね? まさか本当にお姉ちゃんを取り押さえるつもりだったのですか!?

 そんなことより、天使ちゃんにワンピースを着せてあげねばなりません。早くワンピース姿の天使ちゃんを見たいです。


「今大事なところだから、ちょっと待っててね。後でちゃんと紹介するから」


 相変わらず何か怪しんでいる様子のナナシちゃんですが、大人しく待っていた方が早いとでも判断したのでしょうか、呆れたように部屋から出ていきました。


 さて、ナナシちゃんも待っていてくれることですし、ここはパパっと着替えてしまいましょうね。

 天使ちゃんの方を向くと、先ほどまで取り乱していたのが嘘のように大人しくなっていて、さながら借りてきた猫のようです。

 正確には、大人しく……というより放心しているようにも見えますが。やっぱり疲れてるんでしょうね。


 今度は、何ら抵抗することなくワンピースを着てくれました。

 うんうん、わたしの見立てに間違いはありませんでした。ただでさえ可愛い天使ちゃんが白いワンピースを着ることで、もう本物の天使みたいです。

 いや、みたいというか本物の天使なのかもしれません。ほら、またわたしの魂が天に召されそうになっています。でも、天使に出会えたのですから、このまま召されたって後悔はありません。

 あ、でも、わたしにはこの天使ちゃんを育てるという使命がありました。それに、ナナシちゃんもあれでいて寂しがりやさんですから、置いていくのは心配です。というわけで、再び魂をカムバックさせます。ふぅ、危ないところでした。ギリギリセーフです。




「フー姐、待ってたよ。それじゃ、さっさと説明してくれよ。事と次第によっては……」


 天使ちゃんを連れてナナシちゃんの待っている部屋に戻ると、鋭い眼光が飛んできました。今日はご機嫌斜めなのかもしれません。

 さてさて、それでは天使ちゃんについて話すとしましょうか。


「わたし、天使を拾いました!」

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