4.寝返りを打つ三秒前
習慣の積み重ねは恐ろしい威力を発すると思っている。ポケットに入るモンスターで例えるならば、威力二百超えの、なんなら反動で一ターン消費するレベルの威力。一撃必殺とはならないけど、確実にじわじわと体を蝕んでくる存在。
って、何の話かっていうと、普段の姿勢の話。毎日ちょっとずつ、だけど確実に骨格を歪ませていく体勢という名の魔力が私はめっちゃ怖い。「岡山 桃科」っていう、「ももか」っていう可愛い名前に恐縮してペコペコしちゃうこと結構あるけど、その無意識レベルの猫背も、毎日少しずつ私の背中に贅肉を着きやすくさせてるんだって思う。
で、何が本題かっていうと、寝返りを打ったり、横向いて寝ることに抵抗を感じしまっている自分がいて何だかなあって話。胎児の時の名残なのか、人それぞれ寝やすい体位があるものだと思って生きて……いや寝ているのだが、私は横、特に左を向いて寝る体勢が一番楽なのだ。しかし下敷きになっている左肩や肩甲骨君のことを思うと、なんだか不安が襲ってくる。この自然だけど不自然な体勢を続けていたら、いいつか左肩だけが前に押し出されやしないだろうか、左肩だけが下がってナチュラルビートたけしにならないだろうか、肩が内側に入ってきて、猫背が悪化するのではないだろうか、などなどとにかく不安になる。そう思って仰向けに寝てみるが、すると今度は寝付きが非常に悪くなる。なんなら眠れない。大きな溜息と共に今度は右向きに横たわってみる。仰向けよりマシになった気がする。仰向けは、首をどう扱っていいかわからなくなる節がある。いや、本来真っ直ぐ上を向いていれば良いのだろうが、「小顔の弊害、二重顎になりやすい」を気にする私にとってその状態は点滴に通ずるものがあるから嫌なのだ。体が上向きでも、顔はアメリカ硬化さながらの真横と化す。ちなみに最終形態は枕を抱く形に腕を万歳したうつ伏せ寝である。これが案外はまるときがあって助かっている。最終手段がはまらないときはもう寝付くことを半ば諦めざる得ないときだ。
春、一人暮らしを始めたての頃は抱き枕があった。小学生の頃だっただろうか、もはやいつから夜を共にしていたのか忘れるほどの長い年月下僕と化した、使い込まれたネコちゃんがいたのだ。しかし彼?彼女はもう隣にいない。その子は、今私の頭に敷かれているのだから。そう、枕の質が実家に比べて劣っているから寝付きも悪いのではないかと帰省から帰った際気付いた私は、相棒を枕の上に重ねてかさ増しすることを思いついたのだ。
実家に帰ってすぐは、枕の高さと堅さに「え、高、固」と思ったのだが、どうやら私はそれで安眠できるらしかった。長期間それで安眠してしまった暁には、もう自室の薄っぺらいへにょへにょ枕では物足りなくなってしまっていたようだ。人間とはなんて不便な生き物なのだろうか。意図的な進化も退化もできないのは生物の悲しき性質だなんて嘆いてみたことを覚えている。
ほどよくへたった灰色のサバネコは、案外良い寝心地だった。ぬいぐるみ、それも抱き枕だとはいえ、当初は申し訳ない気持ちにもなっていたが、今ではすっかり「抱き」要素を喪失している。他のぬいぐるみでは枕代わりにならないのだから仕方ないだろう?と腹の部分が凹んだネコを説くのが常だ。心なしか眉尻が下がっているようにも見えるが人形なのだから錯覚に決まっているのだ。
昼間、ふとベッドの方を見ると枕の上で万歳しているネコが横たわっている。この光景はなんだか複雑で神妙な気持ちにもなるのだが、ごめん、正直結構面白い。
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