2.どうでもいい特集ほど、しんどいものはない
バラエティー番組のMCが威勢の良いタイトルコールをしながら次のカンペを一瞥するために一瞬視線を下げる。もはや最近ではできる限りカンペは見ない方が良いなんていう「くそ真面目」な発想はないんじゃないか。紹介があった瞬間に察する番宣枠のゲストでずっと顔を上げている人はそうそう見かけない。自分の出る劇やドラマや映画の詳細くらい見ずに言えよ、とも思うが多忙な上にきっと決められた台詞があるんだろうと思うと仕方がないよなとも思う。
「さぁ始まりました、今日は~」と定型文から始まった特集は「ちょっとおっちょこちょいな動物SP」だ。外れた。
口直しにと思い番組表を画面に表示させるが、残念なことに今日はめぼしい特集は組まれていない。他の特集は「こんな所にあった!美味すぎる名店」「クイズ60s《セカンズ》!」そしてトリは「今大注目!現役高校生の天才歌手のヒットの理由!」だ。もう一度言う、残念だ。隠れた名店なんて紹介された所でどうせ都心か他県だし、そもそもお値段はバイトもしてない大学生には優しくないことも多い。動物の可愛い映像なんて飽和してるし一人で見てたってただ飼いたくても飼えない虚無感とにらめっこする羽目になるだけだし、クイズは幼い頃に比べて興味の炎が消えかかっている。周囲にはクイズ好きな友人が割といるが、ぶっちゃけその熱量は尊敬する。雑学への愛が凄い。そしてクイズ回答者(例えば某国内ナンバーワン偏差値の大学の方々)に対する敬愛も凄い。T京大学の学生って画期的なシステムだけじゃなくてオタクをも製造できるんですね、感服です。そして最も視聴率を集めそうだと個人的に思う最後のやつに関しては、若い世代の華々しい活躍なんざ劣等感の巨塊のひねくれた
「今日の楽しみ消滅しとる~」
嘆きと共にデスクチェアの背もたれに負荷を掛けてやる。時々思いの外ぐん、と傾いて、死ぬかと思った……、なんて現象も起こる。他の人も体験しているだろうか。この現象のせいで、私は背もたれを百パーセント信用すると怪我をすると常に気にとめている。診察室で「ちょっと調子に乗ったら椅子に裏切られまして」なんて恥ずかしくて言えない。
話は戻るが興味のない特集はただただ辛いだけである。自分の好物の時は永遠に終わるなと願いも空しく秒で終わってしまうのに、そうでない特集はさながら高校の数学Ⅱ・Bの授業である。苦痛、の一言、睡魔との格闘、ゴングが唸りを上げる準備をしているのがわかる。あくびを噛み殺してまで二、三時間に付き合う義務は視聴者にはないので早々にテレビから撤退することにする。
仕方がないので録画一覧を起動させるが胸が高鳴るような赤の「NEW」表示は見当たらない。結局リアタイ(リアルタイムで視聴すること)してしまい無意味と化した録画や今は気分じゃないアニメの録画、そしてもう正直見る気が失せてしまっているものなど、録画の残骸しか手札にはなかった。某動画投稿サイトも、登録済みチャルネルの動画は全て見終わってしまっている。最終手段のアマゾンのプライムなビデオを漁ることにする。提出すべき大学の課題は全て片をつけている。単位を取れるほどの品質であったかはまた別問題だがとりあえず出すものは出したのだからいいのである。早めに始め過ぎてしまった、交通費が異常にかかるインターンの日報はまだ数日分残っているが、まあそれは後に回すこととする。大丈夫、なんとかなることとならないことの区別はつく。
紺地の背景に白文字がハッキリ写り、やがて点描がぐるぐる輪を作るロード画面に切り替わる。更に変わってアカウント選択画面を乗り越えると自由の身となる。ここから先は課金に気を付けさえすれば映像を漁り放題だ。
漁り放題なのだがとりあえずいつも通り「マイアイテム」に速攻で飛び、もう何周したかわからない「いつもの」映画を再生する。お察しの通り、もはや録画をリピートすることと何ら変わりのない行為なのだが、見たいものは見たいのだから正直にしたがったって何も問題はない。よって今日もこの「マイアイテム」「ウォッチリスト」という名の「ブックマーク」に頼るのだ。
人は、学んだ側からぽろぽろ、ぽろぽろ忘れていく生き物なのだから、「プロフェッショナル」を何回見返したっていいのだ。
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