第30話 捕まったケモノ

 イヌは僕たちをゆっくり見回した。それから肩の力を落として笑い始めた。


「ふっ、あはははははははは、あーあ残念、バレちゃった」

「テメーがっ!」


 トラは椅子に立てかけてあるキューをつかみイヌに襲い掛かろうとした。イヌは冷静にそれを止めた。


「動かない方がいいよ。でないと鈴を鳴らすよ。トラのお兄ちゃん」


 トラは金縛りにでもあったようにピタリと止まっていた。イヌはチラリとほかの人たちを見たあとトラに言った。


「そのつかんでいるものを放してよ。危ないからさ」


 トラは手からキューを放した。それから体を前のめりにさせてにらんでいるようだった。イヌは落ち着いた口調で話し出した。


「そう、犯人はおいらだよ。すごいねーネコのお兄ちゃん、爆発に気を取られてこっちも見てないのに、おいらの方にみんなの目を向けさせるなんてさ」


 愛嬌のあるイヌの着ぐるみから出てくる言葉は、無邪気な少年のじゃなく。冷たく。悪魔にでも取りつかれたような別人が言っているみたいに思えた。


「それにネズミさん。すごいね。ほとんど合ってたよ君の推理。でも違っていたところもあったよ」


 ネズミは黙ったままイヌを見ていた。


「まず、おいらがライオンさんの部屋に行ったとき、優勝賞品を見せてって言ったら見せてくれたことだよ。もちろん、ライオンさんとは知り合いでもないし、弱みも握ってないよ。じゃあ何でおいらに見せたのか? 答えは、おいらが子供だから。そう、子供だから油断した」


 イヌは悠々と話を続ける。


「鈴を手に入れてから色々試してたんだ。どういうことをすれば時間を止めたり巻き戻しできるかってことを。死人を巻き戻しすれば生き返るかなんて試してないよ。生き返ったとしても死んだままにさせといたよ。おいらにも事情があるからね」


 くくくとイヌは肩を動かして笑う。

 みんなは誰一人言葉を発せなかった。何か下手なことを言えばイヌに鈴を鳴らされてしまうかもしれないから。


「今さらどんなやり方で殺人を行ったか言う必要もないけど、ネコのお兄ちゃんが言ったように、時間を止めたりして殺人を行った」


 イヌは着ぐるみの頭の部分に手を持っていき、何かを引き抜いた。それは細く長い針。


「毒針だよ。こいつで刺していったのさ。この針は特殊で針の中に毒液が入っているんだ。刺せば直ぐにあの世に行けるものが」


 イヌは摘まんでいる針を注射器のように親指で押した。すると液体が針の先端から飛び出した。


「このようにね」


 それからイヌは針をその辺の投げて、ため息をひとつ吐いた。


「でももういいんだ。もう一度やり直すから。この鈴を使って、それで今度はミスらない絶対に」


 トラはイヌに恐る恐る聞いた。


「な、何で人殺しなんか」

「あーそれ、これはゲームなんだよ。おいらと君たちの。おいらがつかまるか、君たちが殺されるかの。くくく」


 何なんだこいつは。こんな子供がいるのか? 何でこんなに歪んてしまったんだこの子は?


「さーて、話は終わりだよ。おいらは今からこの鈴を鳴らして巻き戻しをする。当然、君たちはおいらが犯人だということも忘れる。というかそれ自体が起こってないことになるから……まあいいや」


 そこにいた犯人以外のみんなは身動きが取れないのか、誰も動こうとはしなかった。できなかった。動けば鈴を鳴らすと脅されているから。どのみち、僕たちは殺される。このままだと。


「楽しかったよ。じゃあね。バイバイ」


 僕はイヌが鈴を鳴らす前に一時停止装置を押した。


 時間が止まった。


 僕はイヌから鈴を奪い取り。素早くそれを2回鳴らした。風鈴のような音だった。


 これで、一時停止装置で10秒経ったとしても、時間は止まったままになるはず。


 それから僕はイヌを縛る物を探した。厨房にあるかもしれないと思い廊下に出た。しかし廊下の両側が瓦礫の山になっていて塞がっていた。


 僕はパーティー部屋を探してみた。何もない。仕方なく僕はテーブルクロスを折りたたみ、細長くしてイヌの両手を縛りそれから体を椅子に縛りつけた。


 僕はルビーに頼まれたことを思い出して、情報分析を使い鈴を見た。シルエットになっている鈴にその色や形が表示された。


 それから、ピピっと何かが反応してどこかに送られた。


 これでいいのか? あとは何かやることはないか。僕はぐるりと周りを見てみた。みんな止まっている。イヌに鈴を鳴らされる直前で。


 そう言えばイヌは自分の着ぐるみの頭から針を取り出していたな。そこにあるなら一応針は全部抜いておくか。


 僕はイヌの頭に刺さっている毒針を抜き始めた。


 確かに刺さっている。頭はとても柔らかくて、手で軽く押せばへこむようになっている。どのくらい頭に針が刺してあるか分からないから、物探しで針を選択して探した。


 僕の目にはイヌの頭にある針の位置が光と音で反応していた。僕はそれを頼りに針を抜いていった。


 針に反応している部分を全部抜き取った。ふと気になって僕は犯人の本当の顔を見てみることにした。


 一体どんな顔をしているんだ? 僕は慎重にイヌの頭を外した。


 え? この子が……殺人を?


 そこに隠してあったのは、あどけない少年の微笑みだった。それは、まるでゲームをして楽しんでいる少年のような。


 僕はイヌの頭を戻して、針を犯人の見えないところへ隠した。


 これでよし。あとは……。


 僕が鈴を振って止まっている時間を流す。イヌは椅子に縛られていて、みんなはそれを見て驚くかもしれないけど、それ以前にイヌは自分で鈴を持ち『犯人はおいらだよ』っていうのをみんなが見て聞いている状態だから。僕が鈴を持っていたとしても僕を疑わないはず。


 よし時間を流すぞ。僕は鈴を2回振って時間を流した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る