第29話 時間操作されない瞬間
ふう……落ち着け。
みんなを見ると食事を終えて退屈そうにしてた。それぞれ両手をお互いに見せ合っている。
「あー暇だ。なあ、誰か何か話してくれよ。何でもいいからさ」
トラが疲れたようにみんなに言った。それを聞いたみんなはそわそわと首を動かしてほかの人を見たり下を向いたりしていた。
(なにを話せば……)
(あー疲れたなぁ)
(話題ねぇ)
というそれぞれからの疲労がうかがえる思考が僕の目に映った。
「あたしの推理だけどいい?」
ネズミはぐるりとその場の全員を見回して確認を取った。
「ああ、いいぜ」
トラが言うと、そのほかの人も頷いたりした。ネズミはそれを見ると話し出した。
「犯人はまず、興味本位でこの洋館に来たの。パーティーが終って、優勝賞品がなんなのか気になった、それで犯人はライオンさんの部屋を訪れた。そこでライオンさんは犯人に優勝賞品であるポレミラーヌの鈴を見せてしまう」
そこで一度言葉を止めてみんなを見回した。それから話を続けた。
「あたしたちがライオンさんに優勝賞品が何なのかを聞いたとき、言い渋っていたわ。話したくないってことは、危険な物か優勝者以外に知られてはいけないものになる。じゃあなぜ、その鈴を犯人に見せてしまったのか。ライオンさんの弱みを握っているかあるいは知り合いか。どちらにしても、犯人に鈴を見せてしまった」
ネズミはところどころで話を切ってはみんなを確認している。この中にいる犯人がボロを出さないかを探るように。
「犯人は鈴を奪い取りその拍子に振ってしまった。そのとき、時間が止まっていたか巻き戻しをしたのか分からないけど。それで、鈴を振れば時間を操作できると分かった。そのあとは毒針によって殺人を犯していった。その辺はネコさんが推理した通りだと思うわ」
みんなは食い入るようにネズミの話を聞いている。答えを知りたいと飢えているように。
「なぜ犯人は殺人を犯したのか? 鈴を手に入れてから犯人はいろいろと試していた。時間が巻き戻るなら人を殺しても生き返ると思った。それで、実際に殺してみたら生き返らなかった。それか、あたしたちを殺さなきゃならない理由があるか」
ネズミの言葉に対してウサギが少しうつむいているように見える。
「殺人には毒針が使われた。毒針はどこから持ってきたのか……たぶん、他人には見つかりにくい場所に隠してあるはず。そこがどこだか分からないけど、それは身近なところね、いつでも取り出せるように。毒針を部屋に隠しても、そこにわざわざ取りに行くのは手間と考えるはずだわ」
ネズミは一呼吸おいてから続けた。
「それで犯人はバレそうになったら鈴を使い、時間を止めたり巻き戻しをしたりして逃れた。人生を何度も体験するように」
どんな隙も逃さないようなネズミの注意力が周りに緊張を与えている。
「遊戯室にみんなが集まっていたとき。爆発が起きた。犯人はあらかじめトイレに爆発する物を取りつけたか。それか、あそこにいるあいだに時間を止めて取り付けに行った。あたしたちは遊戯室にいるあいだ、ずっとこうやってお互いの手のひらを見ていた。でも、犯人が強引に鈴を使い時間を止めて、爆発物を取り付けたあと時間の巻き戻しをすれば気づかないわ」
ネズミの口から小さなため息がもれる。
「どんな爆発物かは分からないけど、トイレで爆発は起きた。それに気を取られたあたしたちは、鈴を鳴らされてトリさんがやられた」
ネズミは一人ひとりを注意深く見ていった。
「誰も爆弾らしきものを持っていないかもしれないけど、時間を止める鈴が存在するなら、もっと手軽な威力のある爆弾めいたものをあたしたちにバレないように持ち運べるはずだわ。バレたとしても、いざとなったら時間を操作すればいいわけだし」
トラが恐る恐るネズミに聞いた。
「じゃ、じゃあ、まだこのまま終わるってわけじゃねーのか。犯人はまだ俺たちを殺しに来るってことか?」
「そうかもね。でも犯人がそうしたいなら、あたしたちはもうとっくに死んでいるわ。犯人をのぞいて」
「クソッ! 犯人は遊んでやがんだ。俺たちを恐怖させてじわりじわりと追い詰めるように殺していく、まるで野生動物を狩るように」
トラは何かにすがるようにネズミに聞いた。
「なあ、次に犯人はどんな行動を取ると思う」
「……そうね。あたしたちをまたバク……」
そのとき、遠くの方で爆発音がした。ドーン、ドーンと次第に大きくなりそれは近づいて来る。そのたびにパーティー部屋が徐々に揺れを大きくしていった。
「な、なんだ!?」
トラが勢いよく椅子から立ち、ほかのみんなもそれに続いて立ち上がった。
「爆発だわ」
ネズミは冷静に言った。
僕は驚いているふりをしながら自分の目に映る時刻を確認した。
17:53:05。
17:53:06。
17:53:07。
あと7秒。
1秒ごとに何かが爆発していく。
爆発が段々と近づいて来る。そのたびにこのパーティー部屋の揺れが激しくなっていった。それぞれがバランスを取りながら倒れないようにしていた。
あと3秒、2秒、1秒。僕は大声でみんなに言った。
「皆さんっ! イヌくんを見て!!」
イヌ以外のみんなが一斉にイヌの方を向いた。
そこに立っていたのは鈴を摘まんでいるイヌだった。イヌは微動だにせず、息もしていないくらいに静かだった。
爆発はそこで止まり揺れは収まった。
「お、お前が!?」
トラが驚きながら言った。
「嘘っ!?」
リスは手を口に当てて驚いていた。
みんなはイヌから離れるように少し後ずさった。
ピッピッピッと物探しの音が鳴っている。ぼくはそれを消した。
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