第28話 犯人を犯人にさせる方法

「あたしたちは閉じ込められたみたいね」


 冷静にネズミが言った。皆それぞれが唖然としている。


「と、とにかく、皆さん早くトイレを済ませましょう」


 僕が言うと、正気を取り戻したようにみんなは階段を上がって行った。

 そうして何事もなく、僕たちはトイレを終えると1階に下りて厨房室に来ていた。

 

 早速、みんなが冷蔵庫をあさり始めた。僕たちはあまり出歩かないようにするため、缶ジュースや非常食の乾パンなどを持ち、それに長いストローとプラスチック製の長いフォークを付け加えた。


 食糧などを取って、厨房を出たところでリスが下を向いて話しかけてきた。


「あ、あの……」

「どうしたました? リスさん」


 僕が訪ねるとリスは僕の方を向いて言った。


「遊戯室には戻りたくないんですが」


 リス以外の人たちはお互いの顔を見合わせていた。


「戻りたくない、ですか」

「はい、だってトリさんやライオンさんの遺体があるので……」

「そうですね。では、パーティー部屋の方に向かいましょうか。皆さんはどうですか?」


 僕はほかの人たちに聞いた。皆それぞれから「いいわ」や「構わない」といった返答が来た。


 こうして僕たちはパーティー部屋に入り、遊戯室のときと同じようにテーブルをどかして椅子だけを囲って座った。


 いつ最後の食事になるのか分からない。みんなは誰かを疑いつつ探るように食事をしていた。


 両手を見せているため手を使えないので、僕は目だけでスノーダストを操作していた。


 瞳を下に向ければ下にスクロールされていく。上に向ければ上にスクロールされていく。文字のところを見るとその文字に反応があって、そこを2回連続で瞬きすると文字の事柄が作動する。作動している文字に瞬きを1回するとその作動が止まる。そういう仕組みになっていた。


『どう、犯人は誰だか分かった?』


 唐突にルビーから連絡が入った。


『あ、いえ、まだ分かりませんし、鈴も見つかりません。それとトリとライオンがやられまして』


 残念だと言わんばかりに、ルビーの口から深いため息がもれた。気だるそうに髪をかき上げると下を向いて何かを操作し始めた。


『なるほどね。仕方ないわね。で、今は何やってるの?』

『今はみんなで輪になって座り食事をしています。それ以外はお互いのため、鈴を使われないようにお互いの手のひらを見せながら過ごすということをしています。迎えが来るまで』

『そう……』


 画面の向こうでルビーが何かをパチンと押した音が聞こえた。


『あたしはね、スノーダストの性能をあげるため、その作業に今まで取り掛かっていたの。それでその機能を今アップデートをしているから』


 すると、僕の目に【先読み行動】の文字が浮かび上がった。


『あ!』

『どう、出たかしら?』

『はい、さきよみこうどうっていうのが表示されました。これは?』

『そう、先読み行動。人がこれからどんな行動を起こすのかを見ることができるやつよ』

『先のことが分かるってことですか?』

『そう、ただし30分先までよ。見れるのは。映像を見たときから30分まで、また見たかったら、その映像が過ぎるまで新たに見れないわ』


『30分?』

『今の段階でそれが性能の限界なのよ。理解して』

『は、はい』

『それで犯人の行動は分かるはずよ。あ、そうそう、映るのは自分の目線じゃないわ。少し離れた位置で様子を見ることができるの。まあ、防犯カメラみたいなものね』

『はあ、防犯カメラですか。それで使い方は……』


 ルビーは疲れたように煙草を取り出してふかし始めた。白い煙が辺りを覆う。それから面倒くさそうに説明してきた。


『使い方は、先読み行動を押すとバーが映像画面の下に表示されるわ。バーの中が左から右へ勝手に流れるから、止めたかったら画面を一度押すかして。バーを押しながら左から右へ強制的に流すこともできる。だから途中の映像を見たかったり止めたければそうして。現実の時間と映像の時間は同時進行しているから、映像を見るときはバー下にある三角ボタンを押すのよ。それで早送りをすれば先の行動がわかるわ』


 そこでいったん言葉を切って煙草をふかした。


『今の時間から30分先までのことが映像として出されるわ。混乱するから、一応ワイプみたいに小さい画面で見せるから、たぶん視界の左上に出るはずよ』

『そうですか。あの、これってもしかして、自分のこの先の行動も自分が見ることになるんですか?』

『そうよ、自分が自分を見るの。その行動が正しいか判断することも事前に可能になるわ』


 自分で自分の行動やその場の動きも見れる。


『でも勘違いしないでね。30分先が見えるからといって、必ずしもそうなるとは限らないから』

『え?』

『30分先の映像を見たあと、その映像にいる自分の行動に対して、今のあなたが違う行動をとった場合は違くなるわ。当然だけどね』


『では、その映像通りの行動を取らないといけないわけですか』


『いいえ、映像の中で何かが起こった場合。たとえば、犯人が自分たちの目を盗んで鈴を鳴らした場合。あなたはそれを見ているしそれで犯人は誰だか分かることになる。その寸前まで映像の自分と同じ行動を取る。犯人が鈴を使う瞬間になって一時停止装置で時間を10秒止める。その10秒間のうちに鈴を犯人から奪う……ことはできる』


 ルビーは短くなった煙草を消して、新しい煙草に再び火を点けた。


『でも鈴を奪ったところで、犯人を犯人に仕立てることはできない。それはそこのみんなが見ていないから。目撃していないから。鈴を奪ったとしても、その鈴を使って時間を止めて犯人をどこかに縛ったとしても、犯人にできないわ。返ってあなたが疑われてしまう』


 ルビーは煙草を吸っては吐いて吸っては吐いてを何回か繰り返したあと続けた。


『たとえ、犯人を縛ったあと時間を戻してから素早く犯人の手に鈴を握らせたとしても、犯人はこう言うわ。犯人にやられたんだって、しかもその瞬間に鈴を振るかも。どのみち、その人が犯人である疑いはなくなる』


 犯人を犯人にするためには、犯人が鈴を持ってそれを使う瞬間をほかのみんなが目撃するようにさせるしかない。でもその瞬間に鈴を振って鳴らしてしまうかもしれない。犯人は捕まえられないのか?


『犯人を捕まえることはできないんですか?』

『ふーん、そうねぇ……って何であたしが考えなきゃならないの? あんたが考えなさいよ。1兆円欲しいんでしょ。犯人を捕まえて鈴の情報を取ってきて』


 プツリとそこでルビーからの連絡は消えた。


 犯人を犯人にさせる方法。


 とにかく犯人が鈴を持っている状態になったところを、ほかのみんながそれを目撃すればいいわけだ。


 まず僕が30分先の映像を見る。そのときに犯人が誰だか分かるとしよう。犯人は何分何秒に鈴をどこからか取り出して鈴を使う。その行動を起こす時間帯を覚えておいて、その瞬間になったらみんなを犯人に向けさせる。犯人の名前を呼ぶか何かして。


 みんなは犯人をそこで知ることになる。鈴を持って鳴らそうとしている犯人を。


 そのときが問題だ。犯人は鈴をすぐ鳴らすのか鳴らさないのかは分からない。できるだけみんなに犯人の印象を与えてから一時停止装置を使って犯人から鈴を奪うようにすれば。


 それで行けるかな?


 僕はとりあえず先読み行動を押した。

 すると、左上に小さな四角い枠が出て、そこに映像が流れた。

 下にある透明なバーが映像の動きと共に左から右へと塗り絵みたいに白く埋められていく。


 早送りを押してみた。とたんに映像の動きが早くなった。


 みんなは何かを話している。こちらには画面の声は聞こえないみたいだ。


 ん? みんながキョロキョロし始めた。揺れている。部屋全体が。それは次第に大きくなっていく。


 あっ! この人が犯人!? 13分14秒のところで犯人は行動を起こす。犯人は鈴を持ってゆっくりとみんなを見ているみたいだ。


 その直後みんはな一瞬にして横たわっていた。犯人をのぞいて。僕も横たわっている。映像は続く。犯人はそのあとジュースを飲みながら僕たちを見下ろしていた。


 僕はそこで映像を止めた。


 このあと犯人は13分14秒あたりで行動するとなると。現在の時間は17:40だから、17時53分14秒あたりでみんなを犯人に向かせるしかない。

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