第26話 把握しきれない監視
「え? どうして?」
僕はライオンに聞き返した。ライオンはうつむいて答えた。
「そうですわね。お名前をわたくしが言った瞬間に体内に仕込まれた爆弾が破裂するようになっておりますの、ですから」
「爆弾?」
それぞれからは驚きの声をもらす者やライオンから少し離れるように椅子を動かす者もいた。
「ええ、ごめんさい、以前ネコさんがお部屋に訪ねてこられたときに、持病があるかとおっしゃっていたので、そのときはとっさにありませんとお答えしたのですが、本当は心臓にわたくしの声の言葉に反応する爆弾が仕込まれていますの……」
ライオンは自分の胸もとを一度見てから再びみんなに話し出した。
「ですが爆弾といいましても、わたくしの体が破裂するのではなくて、心臓麻痺みたいにただ心臓の機能を停止させるモノらしいですが」
「……そうですか」
しばらくの沈黙のあとトラがライオンに聞いた。
「ライオンさんよ、何でそんな危険なことまでして鈴を手に入れたんだ? そこまでする意味あるのかよ」
ライオンはため息をこぼしてから答えた。
「分かりません。ただお値段のかかる物がどのくらいすごいものなのかと興味がありましたので、お金には糸目を付けずに何でも買ってしまうといいましょうか」
「買い物依存?」
ネズミがライオンに言うと、ライオンはゆっくりと頷いた。
カチカチと遊戯室内にあるデジタル式掛け時計は16:14を差していた。僕のデジタル時計も同じ時間を表示している。
それからしばらくのあいだ沈黙が続いて、トラがその沈黙を切るように言った。
「あー、退屈だ。なあネコ」
「はい、何ですかトラさん」
「そこにあるビリヤードとかやっちゃダメか?」
「そうですね。こうしてみんなの手のひらをみんなが監視しているので、目を離すわけには……」
トラは諦めたように肩の力を落としてため息をつくと、みんなに向かって言った。
「なあ、この中に犯人がいるんなら出て来てくれよ。何もしねーからさー」
みんなは下を向いたり横を向いたり、お互いを疑いながら顔をあちこちに向けていた。
(誰だ犯人は)
(本当にこの中に犯人がいるの)
(疲れた)
(出るわけないだろ、絶対に言わない)
え? 出るわけないだろ、絶対に言わない。この中の誰かの思考がそう言っている?
犯人は間違いなくこの中にいる。
僕は冷静になってよく周りの人を見てみた。みんなは黙って着ぐるみの顔の中にある本当の顔を探るようにお互いを見ていた。
トラ、イヌ、トリ、ライオン、リス、ネズミ、ウサギ、この中に殺人鬼が。
犯人はいったい誰だ。
そのとき、ドーンと何かが爆破されたような大きな音がした。それと同時に僕たちのいる遊戯室も地震が起きたみたいに揺れ動いた。
「な! なんだ!?」
そう言ってトラが立ち上がり辺りをキョロキョロと見回した。それに釣られてみんなも立ち上がる。
「何が起きたの!?」
ウサギがあちこちを見ながら言った。
ドーンと再び廊下の方から音が鳴ると、さっきと同様に遊戯室が揺れた。
僕は言った。
「落ち着いてください! 皆さん!」
その声を聞く前にトラが走り出して廊下に出て行った。そのほかの人も続いて廊下に出て行く。
「ちょっと待って下さい!」
僕は出て行った人を呼び止めようとして廊下の方へ駆け出した。
「キャー!!」
僕の後ろから誰かの悲鳴が聞こえた。僕は振り返るとリスが口もとを両手で押さえて震えていた。
「どうしたんですか!? リスさん!」
「……と、トリさんが……」
見るとトリがリスの足もとに仰向けて倒れていた。僕は駆け寄って「トリさん!」と叫んだ。だがトリの反応はなかった。
「み、見たら倒れていて」
僕はトリを人体診察で見てみた。〈背中に針=傷と毒〉と表示されていた。
僕はそのままトリの手袋を外して念のため脈を打っているか確認した。
……ダメだ、だんだん弱くなっていく。
どうして? さっきの爆破みたいな音がした瞬間に犯人が鈴を使って時間操作をした?
そして、毒針をトリに刺して……。
僕は周りを見た。そこに残っていたのはウサギ、ネズミ、イヌ、それとリスだけだった。トラとライオンは廊下に出てまだ帰ってきていない。
「死んでるの?」
リスが僕に恐る恐る聞いてきた。僕は反応しなくなったトリの腕を置いて言った。
「……はい」
「おい! みんな来てくれ……」
(ピッ)とどこからか一瞬音がした。
今の音は?
トラが廊下からこちらに呼び掛ける。僕たちのようすがおかしいことに気づいたのか、彼はこちらに近寄ってきた。
「何かあったのか」
「はい」
トラがトリの横たわっているのを見るなり、震えだか疑問だか分からない小さな声を出した。
「な、なんで?」
「犯人の時間操作でやられたんだと……」
「クソッ!」
「それでどうしたんですか? 向こうで何かあったんですか?」
トラは大きくため息をひとつ吐いて言った。
「ああ、そうだ。トイレが爆破されている。しかも粉々に」
「爆破!? どうして」
「さあ」
「ライオンさんは?」
「ライオン? 一緒にその光景を眺めていたが、俺がみんなを呼んでくるって言ってここに来たから、まだそこにいるんじゃねーか」
まずい、ライオンさんが。
「トラさん! ライオンさんを今すぐに呼んで来てください。これはすべて犯人のしわざです!」
「ああ、分かった」
トラは大急ぎで廊下に出て行った。僕はここにいるみんなに言った。
「皆さん椅子に座って下さい。さっきのように手のひらを見せて座るんです!」
僕はトリをそのままにして、みんなを椅子に座らせた。
「おいっ!」
するとトラが慌てて廊下から声を掛けてきた。
「ライオンが死んでる!」
「え!?」
「呼びに行ったら、ライオンが倒れていたんだ。俺が声を掛けたり体を揺すったりしたけど反応がない!」
「ほんとに?」
「ああ、ホントだぜ疑うんなら見て来いよ」
ライオンが死んでいる? いつの間に犯人はライオンを殺したんだ? そう言えば、さっきトラが廊下で声を掛けて来たとき、音が鳴った。
それは、もしかしたら、物探しの反応があったことを意味するんじゃないのか? 犯人はそのときに時間を止めてライオンを殺しに行った。そしてここに戻って来て時間を戻した。
トラが犯人だった場合。トラとほぼ同時にライオンが出て行ったわけだから、その瞬間時間を止めてライオンを殺すことも可能だ。しかし音が鳴るなら、もうすでにこの瞬間もなっていてもいいはず。
物探しの音が(ピッ)と1回だけ鳴った。それは瞬間的な感じで。
じゃあトリさんが殺されたとき、なぜ音が鳴らなかったんだ? ルビーが言っていた試作品中の試作品だから、不具合があるのか?
「いえ、信じます。トラさんも座って下さい。さっきと同じように皆さんで手のひらを見せ合うんです」
「ああ」
トラは椅子に座って手のひらを開いて見せた。
(バカな人たち、次は誰をやろうか)
(なんで爆発したんだ?)
(もうやだ)
(何でこんなことに)
(こわいよぉ)
という言葉が僕の目に映る。犯人であろう言葉もそこに流れて来る。誰がどれを言っているか分からい。
犯人がこの中にいて鈴をさっき鳴らしたんだとすれば、犯人がどこかに所持しているはず。物探しの音が鳴ったってことはどこかに隠していると考えた方がいいだろう。
僕は辺りを見回したりみんなの手荷物などを見てみた。だが物探しは反応しない。
トラ、イヌ、リス、ネズミ、ウサギ、この中に鈴を持っている人物がいる。
さっき反応があったようなあの音。機能はしているわけだから不具合はない。だとすると、この中の誰かが常に所持していてすぐに使えるようにしてある。
今はみんなが手のひらを向けているから使えないのだろう。
どうする。このまま手を開いたまま迎えが来るまでこの状態でいられるのか?
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