第25話 遊戯室での詮索

 15:08と僕のデジタル時計は表示されていた。窓の外は明るく海が見渡せた。


「わー」


 イヌは室内を走り回ってうれしそうにしていた。


「こ、ここで、あと1日半ほど生活するんですか?」


 リスがおどおどしながら言った。


「はい、そうです。フロアで決めたことをできるだけ守って生活しましょう」


 僕がそう答えると、ネズミが僕を見て言った。


「で、どうするの? もうお互いに手を見せ合うの?」

「そうですね。今から始めましょうか」


 僕はうれしそうにはしゃいでいるイヌを呼んだ。


「イヌくん、手を広げるやつ始めるからこっちに来てください」


 イヌはあっちこっちと首を動かして来ようとはしなかった。それからしばらくして、しぶしぶといったように僕たちの方へ来た。


「では、今からお互いの手を見せ合うことにしましょう」


 そう言って僕は手のひらをみんなに見せた。

 それに釣られてみんなも手のひらを見せる。


 カチカチと掛け時計の音が聞こえる。時間は15:31を差していた。それぞれからは疲れやため息のもれる声が聞こえてきた。


(疲れた)

(何でこんなことに)

(いつ終わるんだ)


 などの誰のだか分からない、ここにる人たちの思考が字幕で流れていた。


「なあ、こうしててもつまらないから。誰か何か話してくれよ」


 トラはそう言ってみんなを見回した。それからトラは僕の方を見た。


「別に話すくらいはいいんだよな?」


 僕は返答した。


「そうですね。手を見せてればいいと思います」

「よろしいかしら」


 ライオンが僕の方を向いて言った。


「その前にこうして立っていては疲れますので、椅子を持って来て座ってもよろしいかしら」


 僕はそのほかの人を見回した。みんな体をだるそうに動かしていた。


「そうですね。椅子を持って来て座りましょう」


 そうして僕たちはテーブルにあった椅子を持って来て円を描くように座った。


 僕から時計回りにトラ、イヌ、トリ、ライオン、リス、ネズミ、ウサギの順で囲った。


 手を前に出している者。手を太ももに置いて手のひらを上にしている者など、手のひらを見せていればいいという条件で好きな行動をとってもらった。


 それから誰も話す人がいなかったので僕がお題を出した。


「あの皆さん、時間操作ってどう思いますか?」


 そう言うとウサギは下を向いた。ほかのみんなも上を向いたり横を向いたりして考えていた。


(あまり触れないでほしいな)

(どう思うっていってもなぁ)

(ほ、本当に時間を操作できるのかな)


 というそれぞれの思考が僕の目に流れ込んで来る。


「はーい、おいらはそれができたら。友達と鬼ごっこしているとき、つかまりそうになったら鬼を止めて逃げるなぁ」


 そう言って、イヌがキョロキョロと周りの反応を見ていた。ライオンが続いて言う。


「わたくしはいまだに理解していませんわ。たしかに鈴は持って来ましたが、それが本当に時間を操作できるものだと思っていなかったものですから」


 トラがそれに反応して言った。


「俺は時間は操作されていると思うぜ。だって上の奴らの死に方が変だろ。それに時間を操作すれば背中に針を刺すくらい簡単だろ。大体ライオンさんよ。何でそんな鈴を持ってるんだ? あんたが開発したの?」


 ぶっきらぼうにトラが言うと、ライオンは首を振って答えた。


「いいえ、あれはある人から買いましたの。20兆円ほどで」

「に、20兆!」


 トラが驚くと、その値段に反応してほかの人もライオンの方に顔を向けた。


「ええ、そのお値段で買い取らせていただきましたわ」


 ウサギが唐突にライオンに聞いた。


「その買い取ったお相手って誰だか言えますか?」


 ライオンは一瞬黙ると首を横に振った。


「すみません。取り引きのときにそのようなことは一切公言しないようにとおっしゃっていたので、そのお方との約束を破るわけにはいきませんわ」

「そうですか」


 ウサギはうなだれたように下を向いた。


「あの」


 リスが怖がりながら話だした。


「ネコさんが言っていた犯人の行動なんですけど。時間を操作したとか……」


 それからリスはライオンの方を向いて聞いた。


「ライオンさんは時間を操作されたことに気づかなかったんですか? 何かおかしいとか」


 リスの質問にライオンは首を傾げて考えていた。


「……いいえ、わたくしはそのようなことは感じませんでしたわ。いつものように時間は流れているとかって普段は思いませんので、時間が流れるのは当たり前ですし」


「誰か部屋に入ってきたとかは、覚えてませんか?」


「さあ、分かりません。ドアには鍵を掛けてありますので……あ! いつもドアチェーンを掛けているのですが、外れているときがありましたわ。それに、鈴はいつも肌身離さず持ち歩いていたんですが、いつの間にか床の上にあったりして……どちらも気のせいかと思ったんですが」


「間違いないわね」


 唐突にネズミはライオンの方を向いて言った。


「犯人は鈴を使って時間を操作しているわ。犯人はライオンさんの部屋に入り鈴を見せてもらう。そのとき鈴を渡されるか奪われるかして、犯人の手に渡る。その瞬間鈴を使い時間を止めるかする。犯人は鈴を持ったまま部屋を出てライオンさんを巻き戻しさせる。それからドアを閉める寸前で時間を通常に戻す。ライオンさんは誰かに会ったことも覚えていないというか、起きてもいない状態に戻る」


 そこで言葉を切って、ネズミはため息をひとつ吐いた。


「まあ、どんな風にその鈴を使えば時間を止めるとか巻き戻しをさせるかは知らないけど」


 ウサギを見ると、ウサギはキョロキョロと辺りをうかがっていた。


(どうしよう、言ったほうがいいかな) 

(鈴の使い方を言っておいた方が、犯人は見つかりやすくなるかなぁ)


 というウサギの思考と思われる字幕が僕の目に流れた。


 僕はウサギに言った。


「あの、ウサギさんそろそろ話してもいいんじゃないですか? 鈴のこと」


 そう言うとウサギはビクッと顔をこちらに向けてから、みんなをゆっくり見回した。みんなは黙ってウサギを見ていた。ウサギは深呼吸すると話し出した。


「すみません。わたし、鈴を開発した者なんです」


「えっ!」「うそ!」などの声がそれぞれから上がった。再びウサギは深呼吸をしてゆっくりと話し出した。


「本当なんです。わたしはある研究所に勤めている者なんです。その研究所の名前は言えないのですが、そこで時間を操作できる鈴を開発していたんです。……ある日、鈴を何者かに盗まれてしまって。その鈴はポレミラーヌという物で……」


 ウサギはそこで話を止めて深いため息をついた。それを聞いたライオンが驚きながら言った。


「では、その盗まれた物をわたくしが買い取ったと言うことですの?」


 ウサギは力なく答えた。


「……はい、たぶんそうだと……」


 僕はライオンに聞いた。


「ライオンさん、その鈴の取り引き相手は本当に言えないんですか?」


 ライオンは少しためらってから首を横に振った。


「申しわけありませんわ。どうしても言えませんの……」

「なぜですか? ただ名前を言うだけじゃないですか? 個人情報保護ですか」


 静寂が辺りを包み込みライオンの答えを、僕を含めてみんなが待っていた。それから重々しく彼女は答えた。


「そのお方のお名前を言ってしまうと、わたくしが殺されますの」


 その答えに周りのみんなが驚いたりお互いに見合ったりしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る