第24話 時間操作されない方法

「トリさん、それがどう安全なの?」


 ネズミがトリに聞いた。


「は、はあ……皆さまが集まっていれば犯人は手出しができないと思うんですが。皆さまが見張っていますし」

「停電させられたら? 犯人が強行に及んだらどうするの?」

「それは……」


 ネズミの質問に自信をなくしたのかトリは下を向いた。


「あたしに考えがあるんだけど」


 ネズミはみんなを見回してから続けた。


「犯人に鈴を使わせなければいいのよね。だったら……」


 ネズミは一度言葉を切って、自分の両手をみんなに見せながら言った。


「こうして、みんながお互いの手のひらをずっと見せていれば鈴を使われないわ」

「えー、おいらやだよー疲れちゃうもん」


 イヌは首を振り駄々っ子のように嫌がる。それに続いてライオンが言う。


「あの、ずっとですの? 用を足しに行くときとか眠るときはどうするのです?」


 ネズミは両手を下ろして言った。


「そうね、女性は女性同士。男性は男性同士でトイレに行けばいいわ。寝るときも同じで、女性たちが寝ていれば男性たちは起きている。逆も同じ。それでどう?」


 僕はネズミに言った。


「ネズミさんが言いたいのは、何をするにしても、監視的な意味で誰かがそこに向かうとすれば、誰かが一緒について行くということですね。それで、それ以外の人はここでお互いの手のひらを見せながら過ごす、と」

「そう」

「うーん、犯人がトイレに入って鈴を鳴らさない対策は?」

「入る前に身体検査をするの、ひとりずつ」

「トイレの中にあらかじめ隠してあるかもしれませんよ」

「じゃあ、今から入るトイレをここにいる全員で調べればいいわ」


「全員で?」


「それなら抜け目ないでしょ。誰かの部屋のトイレを借りればいいわ。その部屋だけ使わせてもらうの……抵抗があるかもしれないから、女性は女性たちの誰かの部屋のトイレを使って、男性は男性たちの誰かの部屋のトイレを使うようにする。本当はひとつの部屋のトイレを使ったほうが安全なんだけど、嫌でしょ」


 ネズミは女性たちを見回した。それに反応してリス、ライオン、ウサギが首を縦に動かす。

 ネズミは僕の方を向いて言葉を待った。僕は言った。


「では、皆さんがそれでいいならそうしますが、ほかに誰か意見のある人はいますか?」

「はーい」


 イヌがまっすぐ手を上げたまま、ピョンピョンと跳ねながら僕の方を見ている。


「はい、イヌくん」

「腹減ったらどうするの?」

「そうですね。食事するときは……皆さんで厨房に向かい、そこで食事をとる事にしましょう。それでどうですか?」


 僕はイヌとほかの人たちに向けても問いかけた。

 するとリスが手を上げて言った。


「あ、あの」

「はい、何ですかリスさん」

「このフロアでお互いの手のひらを見せながら過ごすんですか?」

「ええ、そうですが」

「私、毛布で隠してあるとはいえ……」


 リスはフロアで横になっているクマたちをちらりと見てから続けた。


「遺体と一緒にいるのは、ちょっと……」

「遺体の傍にいるのは嫌ということですか」

「はい」


 リスはそのまま下を向いた。僕はそのまま聞き返した。


「では、どこだったらいいんですか?」

「そ、そうですね……パーティーしたところとか遊戯室でもいいんですが」


 リスは僕の方を向いて強く訴えていた。僕はほかの人たちを見ながら聞いた。


「皆さんはどうですか? それでいいですか?」


 皆それぞれが目配せするようにお互いを見ていた。それから、ライオンが言った。


「わたくしは下にあるお部屋でも構いません」


 続けてイヌが答えた。


「おいらも」

「あたしも構わないわ」


 とネズミが言って、そのほかの人たちはみんな頷いたりしていた。

 すると今度はトリが手を上げた。


「あのー、それだと、トイレは下にあるトイレを使ったほうがいいのでは」

「した?」

「ええ、下にあるので、ライオンさまやわたくしめの部屋にあるトイレを使うのもいいのですが。男女別の共用トイレがありますので。そこなら気を使わないでいいと思いますし。さっき決めたようにしてトイレに行けばどこのトイレでも問題ないと思いまして」


 下にトイレってあったんだ。じゃあ、なおさらそこのトイレを調べないと。


「では、皆さんは下のどこかの部屋で過ごして下の共用トイレに行くでいいんですね」


 僕がそう言うと「ええ」や「はい」といった言葉がそれぞれから聞こえた。


「そうですか。それじゃあ、どの部屋で過ごすことにしますか? パーティーした部屋か遊戯室かそれとも厨房か」


 最初に手を上げたのはイヌだった。


「はい、イヌくん」

「おいら絶対に遊戯室がいいな」

「遊戯室ですか。ほかに意見のある人は……」

「はい」


 手を上げたのはリスだった。


「私はパーティーした部屋がいいと思います」

「パーティーした部屋ですか」

「はい、遊戯室よりも広い場所ですし、遊戯室には凶器となる物も置いてあるでしょ。だから……」

「なるほど、ほかに意見のある人はいますか?」


 ほかの人はどこでもいいと言ったように僕の方を見ていた。


「では、遊戯室かパーティーした部屋のどちらかに決めたいんですが。皆さんはどちらがいいですか?」

「俺は遊戯室がいいな。凶器があるんならかえって好都合だ。犯人が襲ってきたときそいつで応戦できる」


 と、トラが言った。続けてネズミが答えた。


「あたしはどちらでもいいわ」

「わたくしめもどちらでも結構です」


 トリがそう言うと、ライオンが続けた。


「わたくしはパーティーしたお部屋の方がよろしいかと思いますわ。何かあった場合に逃げ安いと思いますので。パーティー部屋の出入り口は三か所ありますが、遊戯室の方は一か所しかありませんので。玄関に行くにしても遊戯室よりは近いですし」


 ウサギは少し考えたあと言った。


「わたしは遊戯室がいいわ。だって、パーティーした部屋には窓が無いから」

「窓ですか」

「うん、迎えが来るまでずっと部屋にこもるとなると、窓のない部屋は気が滅入るっているか窮屈に感じてしまうんじゃないかって思うんだよね。だから」


 そして、僕にみんなの視線が集まる。僕は咳ばらいをひとつして言った。


「そうなると遊戯室を希望するのはイヌくん、トラさん、ウサギさん。パーティー部屋を希望するのはリスさんとライオンさんで、どちらでもいいのはネズミさんとトリさんになります」


 そわそわとみんながし始めた。

 僕はみんなを落ち着かせるため、直ぐに採決方法を言った。


「では多数決ということで、遊戯室で過ごすことにしましょう。それでいいですか?」


 遊戯室以外を選んだ者は、皆しぶしぶといったように頷いた。


「やったー!」


 イヌはピョンピョンと跳ねてうれしそうにしていた。


「じゃあ、皆さん今から遊戯室に向かんですが、何か持って行きたい物を自分の部屋から持って来ておいてください。貴重品やら何やらを。それでも、何か自分の部屋に用がありましたら、その他全員がその人について行くということにしたいのですが。意見のある方はいますか?」


 僕の意見に反対する者はいなかった。


 そうして、女性たちが部屋に行ってバッグなどを持ってきた。そのほかには男性ではイヌだけがボールを取りに行っただけだった。


 僕は取りに行ってきた人たちを確認した。しかし鈴の反応は誰からもなかった。


 壊れてるんじゃないか? たしかルビーは『試作品中の試作品だけどね』と言っていたから。


 この物探しの機能は正常に働いているのか少し疑問に感じた。


 こうして僕たちは遊戯室へと向かった。


 遊戯室方面の階段を下りながら僕はトリに聞いた。


「あの、トリさん」

「はい」

「下のどこにトイレがあるんですか?」

「……ああ、そうでしたね。えっと遊戯室の先にトイレのドアが男性用女性用と設置されていますので」


「へえ、そんなところにあったんですか」

「ええ、最初に皆さまをご案内したとき、ネコさまはいらっしゃりませんでしたから」


「そうですね、ちょっと遅れてしまって、すみません」

「いえいえ、わたくしめもネコさまが訪れたとき、ちゃんとご案内をしていればと思います。パーティーが始まりそうだったから少し焦っていたのかもしれません」


 トリはそう言うと一礼して先を進んで行った。

 遊戯室前のドアに着くと僕はみんなに言った。


「あの皆さん。遊戯室に入る前にトイレを確認しておきましょう。念のために」


 それぞれが頷いてから行動した。男性たちは男性トイレ。女性たちは女性トイレを確認した。


 男性トイレは意外に広くなっており、男性用のやつは10基ほどあって、それと同じに個室の方も10室設置されていた。そのほかには洗面台。掃除用具入れのロッカーが置いてある。


 僕たちは手分けしてトイレを調べていった。


 物探しの音が鳴らないから無いのだろうと思ったけど、念には念を入れてていねいに調べた。物探しの機能にはあまり頼れない。


 僕はほかの人たちに言った。


「そっちは何かありました?」


 トラやトリが僕の方を向いて言った。


「いや、なにも」

「何もありません」

「そうですか、イヌくんの方はどうです?」


 イヌは僕の方を見て首を横に振った。


「そうですか。じゃあ、何もなさそうですし出ましょうか」


 そうして僕たちは廊下に出た。

 すると女性たちはもう廊下に出ていて待っていた。


 僕は言った。


「何か見つかりました?」


 ライオンはため息を吐いて僕に返した。


「何も見つかりませんわ」


 力なくライオンは首を振った。それに続くようにほかの女性たちも首を横に振る。


「そうですか、こちらもです。仕方ありません。遊戯室に入りましょう」


 僕は遊戯室のドアを開けた。

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