第23話 鈴への対策
13:44と時計は表示されていた。
3人の遺体がフロアの真ん中に寝かされている。それ以外は変わったところはなかった。
僕にできることは、物探しの機能を使って鈴を見つけること。
はあ……ルビーが送ったこの機能。ほかの人だったらもっと有効に使えるんだろうなぁ。僕の知能じゃ……。
さて、どうしよう。
ネズミが言っていた『死体をあたしたちが知っている時点で、犯人はあたしたちを狙っているかもしれないわ。口封じのために』ということは、鈴を持っていても、僕たちを全員殺しに来る。
鈴を持っているから殺人は容易なわけで。
そうなると、やはり犯人を捜さないといけない。
僕はフロアをぐるりと見回した。誰も出てくる気配はない。みんな疲れて寝ているのだろうか。
すると、ガチャとどこかのドアが開いた。見ると【6】番のドアだった。
トラは出てくると、僕の方を見て一瞬止まった。そのあと疲れたように肩を落として近寄って来た。
「おい、何か見つかったか? あのあと探してたんだろ?」
トラは唐突に聞いてきた。僕は首を振って答えた。
「いや……何も」
すると右上に文字が表示された。
(なんだ、そうか。腹減った)
「ふーん、そうか。それは残念。腹減ったからさ、一緒にまた食い物探しにいかね、下にさ」
(まだ残ってっかな、厨房に)
「食い物ですか。いいですよ、行きましょう」
「そうか、じゃあ行こうぜ」
僕たちは厨房に向かった。
厨房に向かっている途中でも、トラの思考だと思う言葉が右上に表示されていく。
(前はソーセージやハムだったからな。デザートがあればいいな)
厨房に来ると、いつものようにトラは屈みながら冷蔵庫をあさり始めた。
(お、ケーキがあるじゃん。ほかには)
僕は右上に表示される言葉をなるべく気にしないようにした。
「ほら」
トラは僕の方にプリンや板チョコを投げ渡してきた。
「あ、どうも」
トラは探しながら僕に聞いてきた。
「犯人に結びつきそうなものは、何も見つかんなかったのか?」
「そうですね」
「そっかぁ」
「あ! でも少し分かったことがあるんです」
「分かったこと?」
「はい、犯人は鈴を使って時間を操作しているんじゃないのかってことが」
トラは動きをピタリと止めて、僕の方へ耳を傾けた。
「時間を操作? ははは、ホントかよー」
トラは再び冷蔵庫の中をあさり始めた。僕はトラの背中に向かって言った。
「でも、それなら可能なんです。鈴があれば時間を操って殺人を犯せる。ミスらずに」
(時間を操作って何だよ。そういえば、ライオンがそんなこと言ってたな)
「ふうん、で、どうやってクマやシカは殺されたと思うんだ」
「僕の考えですが……」
僕は自分の部屋で考えた犯人の行動をトラに話した。ただ、ウサギから聞いた、鈴の使い方までは話さなかった。
「……ふーん、確かにそれなら可能だな。だが、そうなると犯人を捕まえても捕まえることができないな。鈴を鳴らすから」
「ええ、そうなんです」
トラは冷蔵庫を閉めて、食糧を持ったまま立ち上がった。
「じゃあ、そのことをみんなに話すか」
「え?」
「お前が今言ったことを、みんなに話して置けば対策が立てられるかもしれない、どうだ」
僕が考えた犯人の行動をみんなに説明しても信じてもらえるかどうか、それに。その中に犯人がいたら、その対策を対策されてしまう。
「うーん、そうですね。それはいいと思うんですが。僕たちの中に犯人がいた場合、その対策を聞かれるわけで」
「だからいいんじゃねーか。みんなはそれの対策をあーだこーだ言って来るわけだ。だが犯人にしらた、その対策が殺人を簡単じゃなくしていく。もしかしたら、それはやめた方がいいとか何も言わないとか、みんなに任せるとか、そんなようなことを言って来るかも知れねー。まあ、そういう奴が犯人だとは言えないが、少なくとも疑いは掛けやすい」
僕が何も言わないでいるとトラは続けて言った。
「もし、俺が犯人だったら。お前はもう話してるんだぜ犯人に今のことを。どうする」
「……そうですね。分かりました。みんなを集めて言いましょう」
「そうだぜ、こうやって犯人に怯えていても仕方がない。残り1日と半分じゃねーか、なあ」
トラは僕の肩を叩いた。
それから僕たちは一度別れてから、再び僕とトラはフロアに集まった。
「じゃあいいな、今から全員をこのフロアに集めるんだ」
「はい」
僕たちは手分けをして全員をフロアに呼んだ。
フロアに全員が集まると、ため息や疲れたと言ったような声がそれぞれから聞こえた。
(なにがあったんだ)
(あーねむいのにー)
(疲れてるのに)
などの誰かからの思考が僕の目に映し出される。
僕は集まった人たちを見回した。鈴の反応は誰からも確認できなかった。たぶん、本当は誰かが持っている鈴を確認していて、僕がその犯人の手をつかんでいるけど。そのときに巻き戻しをさせられて、どこかに隠して来た。そして、再びこのフロアに集まった。
僕とトラは少し離れたところに並んでいた。
「何ごとですの?」
ライオンは僕たちに聞いた。僕は言った。
「皆さんに集まってもらったのは、今後犯人が殺人を犯さないようにするため、対策を練ってもらいたいと思いまして」
続いてトラが言う。
「そう、鈴を使ってどうやって犯人が殺人を犯したのかをネコが説明するから、みんな聞いてほしい」
そうして、僕はトラにした説明を同じようにみんなにした。
説明し終わると。フロアはしーんと静まり返った。
(ほんとうに?)
(たしかに、それならなっとくだわ)
(はー、信じられない)
(すげー超常現象じゃん!)
というようなことを考えているように、下を向いたり上を向いたりしている。それを破るようにトラが言った。
「と、いうわけだ。それについてみんなの意見や対策を聞きたいんだ」
リスが恐る恐るゆっくりと手を上げて言った。
「わ、私たちが知らないあいだに、巻き戻しをさせられているって言うんですか?」
僕はその質問をリスに返した。
「はい、当たっているかは分かりませんが、そういった殺人方法をとっている可能性はあります」
リスは信じられないといったように下を向いて首を振った。
それに続いてライオンが質問をしてくる。
「わたくしが知らないあいだに鈴を盗まれていたと言いたいのですか?」
「ええ、鈴を使って殺人を犯していた場合は」
ライオンは手を前で組んで落ち込むように下を向いた。
トリが手を上げて言った。
「あの、対策か分かりませんが。やはり皆さまがずっと一緒にいた方が安全なのでは」
ここにいる全員がひとつの部屋に集まってやり過ごす。
そうなるとどうなる? そのとき誰かが鈴を持っていると僕の目に反応が出るのだろうか? 反応が出て、そこで犯人を捕まえたとしても鈴を振って逃れてしまう。
じゃあ捕まえる瞬間、一時停止を使って10秒間時間を止める。そのあと犯人を捕まえて鈴を取り上げたとしても、時間が流れた瞬間に僕に犯人の疑いが掛かってしまう。
そうなると、犯人が鈴を持っていて、僕が犯人の手首を捕まえる。犯人はとっさに鈴を鳴らそうとする。そのときに一時停止を使い鈴を鳴らさせないようにする。それで時間が流れ始めたら、犯人の手のひらに鈴が乗っている状態にする……ダメだ。
そのとき犯人はとっさに鈴を握り鈴を鳴らすだろう。僕が素早く鈴を取り上げたとしても、僕に疑いが掛かるようになってしまわないか。犯人が僕を犯人呼ばわりしたら終わりだ。
うーん、僕が鈴を犯人から取り上げた場合。一時停止が終って時間が流れたときに、僕が鈴を使って巻き戻しをする。
当然犯人は鈴を持っていないから、僕がその犯人を捕まえたとしても意味がない。
どうすれば……。
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