第22話 時間操作を使った犯行の可能性

 最初に起きた殺人は――。


 クマを殺害する場合、まず、クマが何らかの理由でフロアに来る。そこで犯人は鈴を鳴らして時間を止める。犯人はクマの後ろに近づいて背中に毒針を刺す。


 それかクマの部屋を訪ねて、クマが顔をのぞかせたあと鈴を使ってクマの時間を止める。それで毒針を刺すか。


 そうしたあと、犯人は自分の部屋に戻りドアを少し開けながら、相手に聞こえるようにして時間を通常に戻す。時間を通常に戻すとき自室に戻るのは、ほかの誰かに見られないようにするためとか毒針で相手が死ななかった場合に備えて。


 うまく行かなかったら、すぐにドアを閉められるように。


 でも、犯人がフロアの真ん中にクマを運んでいるところを誰かが目撃したとしても。鈴を鳴らされてその目撃した人は時間を止められたり、巻き戻しをさせられてしまうだろう。黙って犯人の行動をどこかに隠れてのぞいていれば分からないけど。


 犯人がドア越しからのぞいていると、マネキンみたいに立っているクマが倒れていくのが見える。そしてフロアの真ん中に遺体を移動させて仰向けで寝かせた。それから部屋に戻ってドアが叩かれるまで待機する。あるいは適当な時間を見計らって出てくるか。


 クマが死んだとき、リスとイヌはドアを叩かれずに部屋を出ていた。理由はそれぞれあるが嘘をついているかもしれない。


 それにその場に全員が集まったことから、犯人は鈴を使って誰も止めなかったことになる。


 2番目の殺人は――。


 シカはクマが死んでいることに違和感を覚えて2階のフロアに上がって来る。シカはクマの遺体を調べ始めた。それを見た犯人が鈴を使って時間を止める。


 もしくはシカの部屋を訪れてシカの時間を止める。そこで毒針を刺すか刺さないかは分からないけど、そうやって2階のフロアまでシカを運ぶことも考えられるが。誰かに見られる可能性がある。


 でも、シカを2階まで運んでいる最中で誰かに見つかったとしても、鈴を使えば回避できるだろう。


 そういったことをやり、クマと同じように背中に毒針を刺す。そのあと部屋に戻り時間を通常に戻して、シカが倒れるのを待った。シカが倒れたのを見てから、クマの隣に仰向けで寝かせた。


 それが起こったのは、僕がトラと一緒に厨房に行ったときだ。トラにライオンの部屋を教えてもらい、僕がそのドアの前でたたずんでいると、トラが階段から僕を呼んだ。


 彼は動揺しながら、シカが死んでいると言い階段を駆け上がった。


 フロアへ行ってみるとシカがクマと同じように横たわっていた。僕の目に映るものはクマのときと同様に〈背中に針=傷と毒〉と表示されていた。


 あんなにトラが騒いでいたのに、フロアには誰も姿を見せなかった。トリが言っていたが、プライバシーを大事にするためドアは防音になっている。だから外から部屋、部屋から外にかけての声や物音は聞こえない。ドアを叩いたときにだけ聞こえる。


 ここでも全員が集まり、犯人は鈴を使って誰も止めなかったことになる。


 3番目の殺人は――。


 トラの提案でライオンが優勝賞品を優勝者の部屋に持って行くことになったため、犯人は一度鈴をライオンの部屋に返しに行った。


 鈴を持っていた犯人はライオンの部屋の前に立ち、ドアを叩いた。ライオンはドアを開けて犯人を招き入れる。それから、すぐに巻き戻しをさせて……犯人が見えない位置までライオンを移動させる。


 移動しなかったら、巻き戻っている最中に犯人はその部屋のドアとライオンが死角となる場所まで移動して、時間を通常に戻す。そこでわざと音を立てるかしてライオンを呼び寄せる。


 ライオンがこちらに来たのを見計らって、ライオンの時間を止める。


 それから犯人はドア辺りまで移動して、時間を通常に戻す。ライオンはそのまま音を立てたところまで確認しに行く。このとき犯人とライオンはお互いが死角になっている。


 死角の状態で再び時間を止めて、オートロック式のドアを開けカードキーをケースに戻して部屋を出る。廊下に出て、ドアを開けたまま鈴を振り時間を通常に戻して、部屋に鈴を投げ入れる。


 そのあと素早くドアを閉めて、犯人はライオンの部屋をあとにする。


 優勝者に優勝賞品を渡す時間になると、ライオンは鈴を持ってヒツジの部屋に向かう。それからヒツジがライオンを招き入れる。


 しばらくして、ライオンはヒツジの部屋を出て自分の部屋に戻る。


 そのあと僕がヒツジの部屋に入り、鈴を見せてもらえるように頼むけど見せてはくれなかった。


 しぶしぶ僕は鈴のことを聞くためウサギの部屋に入った。

 犯人は自室のドア越しかどこかに隠れたりしてフロアの様子を見ていた。僕が部屋に入るのを確認すると犯人はヒツジの部屋のドアを叩きに行く。


 ヒツジは犯人を部屋に入れ鈴を見せてしまう。なぜか? 知り合いだったのか、あるいは。


 見せてきた鈴を犯人は奪い鈴を鳴らす。時間は巻き戻しされて、僕がウサギの部屋に入る直前まで戻される。


 犯人は再びどこかに隠れて、僕がウサギの部屋に入るのを見たあと鈴を持ったままヒツジの部屋のドアを叩く。ヒツジはドアを開ける。そのとき犯人は鈴を鳴らして時間を止める。


 あとはクマやシカと同じような手順で行動した。


 そして、僕がウサギと話し合っていたときにトラが部屋を叩いてきた。

 開けてみると、全員がフロアに集まっていて、その足元にはヒツジが死んでいた。クマやシカと同様の死に方をしている。


 ヒツジの遺体を最初に見たのがイヌ。そのあとイヌはネズミを呼び、リスと続く。


 リスはライオンたちを呼びに行き、イヌはトラの部屋のドアを叩いた。トラはまだ僕とウサギがいないのに気づいて、ウサギの部屋のドアを叩いた。


 鈴を使えば誰でも犯行が可能になる。


 僕が考えているとルビーから連絡が来た。


『どう、進展はあった?』


 ルビーは気だるそうに髪をかき上げた。


『いえ、まだ鈴は見つかりません。考えたんですが、鈴は犯人が持っていて、鈴の時間を操作できる機能を使って殺人を行っているじゃないかと……』


 不甲斐ない僕に呆れたのかルビーは深いため息を吐いた。


『仕方ないわね。本当に鈴は見つからないの?』

『はい、犯人が持っていたとしても、時間を操作されて見つからないようにしているのかもしれません』

『時間操作、厄介だわね……いいわ、奥の手を使いましょ』

『奥の手ですか』

『犯人が分かればいいのよね。犯人が鈴を持っているから』

『はい、そうだ思いますが』


 ルビーは下を向いて何かを操作し始めた。


『送ったわ、どう、何か出た?』


 僕は目をキョロキョロと動かして確認した。何も変わったところはなく……。


 読思考術どくしこうじゅつ


『あ、何か出ました』

『ええ、そうみたいね』

『これは?』

『読思考術、人の考えを読むことができる機能よ』

『どくしこうじゅつ? 人の考えが、読める!?』

『ただし、それでも嘘は見抜けないわ。人が考えているなかで嘘が混じっていることもあるから』

『でも、分かるんですよね』

『ええ、一応ね。あまり言いたくないけど機能的にはゴミなの』

『ゴミ、ですか』

『あまり使えないのよ、まあ、でもそれに賭けるしかないわね。残念だけど』

『ああ、そうですか。で、どうやって使うんですか?』


 ルビーは僕から顔をそらし、一呼吸置いてから話し始めた。


『読思考術を押せば、勝手に人の考えが分かるわ。考えていることは字幕で表示されるから、ちゃんと読んでね。ちなみに大勢の人に囲まれたら、誰が何を言っているのか分からないのと一緒で、考えていることも字幕で埋め尽くされるから』

『え?』

『だから、あまり使えないって言ったでしょ。まあ、とりあえず、あたしで試してみて』

『はい』


 僕は読思考術を押した。そのままルビーを見た。ルビーはツンとした表情でこちらを見ている。


 すると僕が見ている右斜め上の方に字幕が出てきた。


(まったく、早くしなさいよ。のろまなんだから)


『あ! 出ました。のろまだって』

『うん、一応機能はしてるわね。じゃあそれで犯人を見つけて』


 プツリと一方的にルビーは通信を切った。


 読思考術か、人の考えを読んでそれで犯人が分かったとしても、どうやって犯人だってみんなに言えばいいんだ。


 証拠は犯人が隠し持っている鈴。みんながいる前で犯人が鈴をつかんでいる状態を見せないと、捕まえることができない。下手すると僕が疑われてしまう。


 もっと言うと、鈴を持った犯人をみんなの前で捕まえたとしても、その鈴を犯人が握っていた場合、犯人はそこで手を振って鈴を鳴らす。握っているから巻き戻しになり捕まらないことになる。


 当然その犯人を捕まえる前まで戻るわけだから、犯人が誰かも鈴は誰が持っているのかも知らないことになる。


 そうなると、犯人の時間は進んでいるけど、僕たちは鈴の力によって何度も何度も巻き戻しさせられていることになる。


 僕はこうして普通に生活をしているように感じるけど、本当は犯人が分かっていて、犯人を捕まえたけど、その都度、巻き戻しをされているから捕まらないし犯人を特定できない。


 犯人を捕まえたとき、どうにかして手に持っている鈴を鳴らさせないようにしなければならない。


 ルビーが送った、この『読思考術』と『人体診察』と『一時停止』と『物探し』と『情報分析』を使って犯人を追い詰めて見せる。


 犯人はネズミ、イヌ、リス、ウサギ、トラ、トリ、ライオンの中にいるのか?

 もしかして、誰かと誰かが手を組んているのかもしれない。


 はあ、分からない。ここで考えても仕方ないと思い、僕は着ぐるみに着替えて部屋を出た。

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