第21話 鈴の隠されたチカラ

 2階のフロアへ向かう途中でも、僕は廊下や天井などを見回しながら歩いた。だが、何も光ったり音が鳴ったりはしなかった。


 フロアに来てみると、どこも変わったところはなくフロアの真ん中に3人並んで寝かされていた。

 僕は3人を見てみたが、鈴の反応はなかった。少しため息を吐きみんなに言った。


「では、調べてみましょうか」


 僕たちはその場でクマとシカの着ぐるみを脱がせた。当然、顔はつけたままで調べる。

 

 男性と女性で手分けして調べた。男性は僕とトリ。女性はライオン、ウサギ、ネズミ、リス。


 僕たちはクマを女性たちはシカを調べた。死人をこうやって調べるのは仕方ないとしても、当たり前だが気分の良くないものだと感じた。


 クマの背中には針が刺さっている。その刺さっているところから血がジワリと広がっていた。


 しばらくして、ネズミが落胆した声を出す。


「無いわね」

「こっちも見つかりません」


 僕がわざとらしく言う。

 そのあと、仕方ないと言ったようにクマとシカの着ぐるみを着せて寝かせた。

 みんなは一様に下を向いたり、ため息を吐いたりしている。


 僕は言った。


「見つかりませんでしたね」

「そうですわね」


 ライオンが元気なく答えた。

 ウサギは僕の方を向いて何かを伝えていた。


「じゃあ、その、皆さん。僕が仕切るのもなんですが、そろそろ休みましょうか。皆さん疲れていらっしゃるように感じるので」

「……そうね、そうさせてもらうわ」


 ネズミが肩の力を抜いたように言った。


「それがよろしいですわね。皆さま、鈴は見つかりませんでしたが、犯人は洋館内をうろついているかもしれません。ですから、なるべく出歩かないようにして、お部屋でお休みになって下さいね」


 ライオンがみんなを諭すように言うと。みんなはそれぞれの部屋へと帰って行った。


 僕とウサギだけがフロアに残った。


「ネコさんちょっと来て」


 ウサギは僕を誘うと自分の部屋を開けた。

 「入って」と言ってウサギは僕を中に入れる。

 ウサギはベッドに腰をかけ僕は椅子に座った。


「あの、話って」


 僕が切り出すとウサギは言った。


「鈴の話なんだけど」

「うん」

「さっきネズミさんが言っていたでしょう、時間を操るとかって」

「はい」

「あれね。少し当たっているの」

「えっ!?」


 僕の驚きにウサギは下を向いた。


「1回鳴らせば相手の時間を縮めたり自分の時間を伸ばしたりできるって言ったけど。試作段階では、そこまでは可能なの。でも、それとは別に時間を動かせる機能を埋め込んであるの」


「時間を動かせる?」


「うん、鈴についているホルダーを摘まんでリンリンと連続で鳴らすと時間の歪が生じるの。そうなると時間が止まるわ。そして、音を鳴らさないように手で包んで鈴を振れば巻き戻しができるの。周りのね」


 僕はあることに気がついて聞いた。


「あの、その鈴の可動範囲と言いますか。そのー例えば、犯人がライオンさんの時間を止めたとします、そのあと部屋を出ると時間は動き出すんですか?」

「ううん、止めたらずっとその人は止まったままになるわ」


「なるほど、時間を通常に戻すのはどうやるんですか?」

「その止まっている人に音が聞こえる範囲で鈴を鳴らすの。要するに止める方の逆をやればいいわけなんだけど。そうすれば何事もなかったかのように動き出すわ」


「じゃあ、巻き戻しってどのくらい巻き戻せるものなんですか?」

「うーん、試作品だからね、1時間前後くらいかなぁ。完成品はきっとまる1日とかになるはずよ」


「それは鈴をずっと握って振り続けなければならないんですか?」

「いいえ、握って2回連続で振れば時間は巻き戻るわ。その巻き戻りを止めたかったらまた振ればいいわ、1回だけね。止めたかったら1回だけ振るの」


「それじゃあ、そのー巻き戻しの範囲はどのくらいですか? 部屋ひとつ分とか」

「うーんそれはまちまちね。握っている状態で強く振るか弱く振るかで範囲は異なるわ」


「そうなると、鍵のかかっているドアを開けようとして鈴を振れば鍵は開くってことですか?」

「……いいえ、物には影響しないわ。人間だけよ、今は」

「今は、とは?」

「完成品はほかの物も巻き戻しができるようになるはずだけど」

「はあ、そうですか」


 僕はその話を理解するため黙った。ウサギはそんな僕を見て言った。


「ネコさんには分からないことかもしれないけど、本当に時間は操作できるの、その鈴を使えば。試作品だからいろいろと不具合はあるんだけど、もし、ネズミさんの話で犯人がそれを利用していたら、時間を操って殺人を犯していることになるわ」


 ウサギは立ち上がり僕の方に来て僕の両手をつかんだ。


「だからお願い、これ以上犯人が鈴を使って殺人を犯さないように犯人を捕まえてほしいの」


 ウサギはその着ぐるみのにこやかな顔を僕に向ける。


「わたしひとりじゃ犯人は捜し出せそうにないの、誰かの協力がないと、だから」


 僕の借金を返すにはルビーに協力するしかない。その協力は犯人が持っているであろうポレミラーヌの鈴の情報を手に入れること、それには、犯人を捕まえて鈴を取り上げるしかない。


「分かりました。犯人を見つけます」

「ほんと!」

「ええ、ですが、もし犯人を捕まえたら僕にその鈴を見せてください。見せるだけでいいので」

「うん、いいわ。約束する」


 僕は立ち上がり言った。


「じゃあ、何かあったら、またここに来ます」

「ええ、わたしもできるだけ調べるわ」


 こうして僕はウサギの部屋をあとにした。

 僕はこれからの行動を考えるため、いったん自分の部屋に戻った。


 僕は着ぐるみを抜いで洗面台で顔を洗った。

 一息ついてベッドで犯人の行動を考えて見た。


 時間を操る鈴。ポレミラーヌ鈴。ネズミやウサギが言ったように、犯人が鈴の時間操作を使って殺人を行っているのだとしたら、すべての辻褄は合う。


 犯人は鈴の使い方を知っているということで進めていこう。


 犯人はライオンの部屋に行き鈴を見せてもらう。理由は分からないが何か強いコネがあったりして、犯人に鈴を見せてしまう。犯人はその鈴を奪い使う。その場の時間を止めるか巻き戻しをする。


 例えばライオンを止めて鈴を持ったまま部屋を出る。出るとき、その部屋のカードキーは元に戻す。


 廊下に出て、ドアを開けたまま巻き戻しをする。ある程度巻き戻しをして時間を止める。そのあと鈴を鳴らして、時間を通常に戻した瞬間にドアを閉める。


 すると、ドアは閉まって鍵が掛かる。ライオンは犯人が来る前まで巻き戻しをさせられるわけだから、犯人が部屋に来る前まで記憶が戻されていることになる。


 つまり、この時点でライオンは犯人と会っているけど会っていないことになる。


 ライオンは巻き戻しをさせられているけど、それ以外の人は巻き戻しをさせられていないわけだから、ライオンと僕たちの時間のズレが生じるわけだけど。きっとそれを感じたとしても誤差なのかもしれない。


 それらを踏まえて、僕は最初の殺人から考えてみることにした。

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