第15話 優勝賞品の行方
ヒツジが死んでいる?
さっき僕はヒツジと話していた。そのあと死んだってこと? 僕はやじうまを掻きわけるように中へ入ると、誰彼構わずに言った。
「ヒツジさんが……死んでる?」
その言葉に皆それぞれが「ええ」とか頷いたりした。
「どうして?」
ウサギが少し震えた声を出す。
僕はヒツジの遺体を人体診察で調べて見た。〈背中に針=傷と毒〉と表示されていた。
同じだ。同じ死に方をしている。
「誰が最初に発見したんですか?」
僕はうかがうようにみんなを見回した。
「おいらだよ」
イヌが手をあげて言った。
「おいら、広いところでボール遊びがしたかったから、外に出たんだ。そしたら、ヒツジのお姉ちゃんが寝てて、死んでると思ったから、急いでネズミの部屋のドアを叩いたんだ」
僕がネズミに視線を向けるとネズミはその続きを話した。
「そうよ、イヌに呼び出されて外に出たの。で、ヒツジが本当に死んでいるか、あたしが確かめているあいだに、イヌにはほかの人たちも呼んでって言ったのよ」
そこで言葉を切ってネズミはほかの者を見た。リスがそれに続く。
「そ、それで、わたしはイヌさんに起こされて、部屋を出ました。それでわたしは、ネズミさんに『ヒツジが死んでるわ』って言われて、それで、イヌさんはトラさんを呼びに、わたしはライオンさんたちを呼びに行ったんです」
リスがたどたどしく言うと、続けてトラが言った。
「そう、それで俺はイヌに呼ばれて出てきたわけだ。でえ、まだネコとウサギがいなかったから、呼びに行ったら、あんたらふたりが部屋にいたってわけさ」
「そうだったんですか」
僕は続けて言った。
「あの、皆さん聞いてください」
全員が僕に顔を向ける。
「これは殺人だと思います。僕はそう決めたいわけじゃないんですが、あまりにも不自然すぎるので」
「ああ、分かるぜ……」
トラが僕の意見に賛成して続けた。
「これは明らかに誰かが仕組んだに違いない。しかも、この中の誰かがな」
トラは僕以外を疑うように顔を向けていた。
僕はライオンの方を向いて言った。
「ライオンさん、もういいですよね。誰が優勝者か言っても」
ライオンは下を向いて少し考えたあと、顔を上げて答えた。
「ええ、優勝者は……ここで死んでいる、ヒツジさんでしたわ」
皆がそれぞれ驚いているのだろう。そわそわしたり、落ち着かなかったりしている。
「ヒツジが優勝だったのか。クソッ!」
トラが悔しそうに言った。
「と言うことは、もう渡しちゃったってこと?」
ネズミがライオンに尋ねた。
「ええ、さきほどお渡ししましたの」
ライオンは申しわけなさそうに声をこぼした。
「そう、じゃあ、もしこれが殺人だとしたら、犯人はその優勝賞品を奪った。あるいは狙っていたことになるわね。それでヒツジを殺した」
ネズミはそのままライオンに質問を続けた。
「で、優勝賞品は何だったの。ライオンさん」
「それは……」
ライオンはそれを言うか言わないか迷っているようだった。
ほかの人ならともかく、優勝者を狙ったということは、その賞品が目的で殺人を犯したと考えた方が納得がいく。
ヒツジが持っている優勝賞品がなくなっていた場合。犯人の目的は達成されているから、これ以上殺人は起きないはず。でも、もしそれ以外にも目的があった場合は、まだこの殺人劇は続く。
「言えないの?」
ネズミはライオンを促した。
「そうですわね。こんなことになってしまっていますし、お話してもいいのですが……でも、どうして知りたいのです?」
「盗まれたか知るためよ。もしあなたが渡した賞品がヒツジの部屋か着ぐるみの下かどこかにしまってあったら、盗まれていないってことになるわ」
「そうですわね」
「それで、殺人ではなくなる可能性が半分くらいになるわ」
「半分ですの?」
ライオンは首を傾げてネズミを見た。
「まだ、殺人犯がいるかいないか分からない状況だから。不自然さがあったとしても、たまたま、そうのような状態になった、と言っても通じるわ。ムリはあるけどね」
いるかいないか分からないか。本当は誰かに殺されているという事実は僕だけが知っている。それとルビーと犯人も。
「分かりました。お話いたします」
ライオンは重い口を開けるように話し出した。
「ヒツジさんにお渡ししたのは、ある小さな鈴です」
「鈴!?」
その場の何人かからその言葉が飛び出した。
「はい、その鈴は特殊なものでして。時間を操ることができる、そう言った代物ですの。詳細は伏せますが……」
半信半疑のため息がそれぞれからもれた。
「わたくしは、その鈴を優勝賞品にしまして、ヒツジさんのところに持って行きました。それで、そのような説明をして、お渡ししましたの」
僕の隣にいたウサギがそわそわしている。鈴と聞いてポレミラーヌの鈴と思っているのだろう。
「じゃあ、その鈴を探し出そうぜ」
トラがみんなに提案を出してきた。ウサギがそれに続いた。
「そうよ。探し出しましょ」
リスがそれを止めるように手を出して言った。
「で、でも、ヒツジさんの着ぐるみを脱がしたりするんですか? お部屋の方は見ても良いと思うんですが」
その問いにみんなが自然とライオンに注目する。
「そうですわね。本来は遺体を動かしてはいけないのですが。仕方ありません。お部屋の方を全員で見てから、そのあと、鈴が見つからなかったら、ヒツジさんの身体検査をします……ですが、ヒツジさんは女性ですので、わたくしたち女性陣がするということで」
「ああ、構わないぜ。よろしく頼む」
トラがそう言うと、みんなはヒツジの部屋に向かった。
代表としてライオンがヒツジの部屋のドアを開けることになった。
「あ! カードキーが」
僕はライオンに言った。ライオンは僕の方を見ると自分のポケットからカードキーを取りだした。
「わたくしのはマスターキーですの」
「そうなんですか」
カードキーを通すと、ライオンはこちらを一度うががい、そして、ノブを回した。
ライオンは中に入り、ほかの者も続けて入って行く。
さっき来ていた部屋だったが、僕が飲んでいたコーヒーのマグカップは片付けられていた。
みんなは各自でそこかしこと探し回った。
「鈴って、どんな感じのやつだ?」
トラはベッドの裏とかを探しながらライオンに尋ねた。
「小さい鈴ですの。透明な鈴ですわ」
「ふーん、透明で小さい鈴ね」
僕も探してみた。ここで鈴が見つかれば、その誰かが持っているときに情報分析を使って、情報を取ることができる。
洗面所やヒツジの所持品であるバッグだとかは女性陣が探している。特にウサギは必死に探していた。
僕もテーブルの下や椅子の下、棚の上とかを調べたが鈴は見つからなかった。
そして、一通り調べ終わると全員が部屋の中央に集まった。
「見つかりませんですわね」
疑わしそうにライオンは言った。
「それじゃあ、ヒツジの着ぐるみの中にしまってあるのか?」
トラはそう言うとフロアの方を向いた。ライオンはひとつため息をして言った。
「そうですわね。調べて見ましょう」
そうして、僕たち男性陣はヒツジの部屋に残り、女性陣だけでヒツジの着ぐるみを剥がしに行った。
しばらくして、ライオンがドアを開けた。僕たちはフロアに出て状況を聞いた。
「どうでしたか?」
僕が言うと、女性たちは一様に首を横に振った。それからライオンは言った。
「見つかりませんでしたわ」
「見つからない?」
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