第13話 ライオンの護衛

 ポレミラーヌの鈴の情報は何も手に入らなかった。ライオンに直接そのことを聞けば良かったのかと思ったけど、聞いたところで、はぐらかされるだろう。それが優勝賞品だった場合はなおさら。


 2階に来てあることに気がついた。シカに毛布を掛けてやるのを忘れていたことだ。みんなも忘れていたのだろう。僕は自室から毛布を持ってきてシカに掛けてやった。


 掛けるときに、シカの着ぐるみの頭を取って本当の顔を見ようと思ったけど、その瞬間に僕は失格してしまう。まだ優勝者が決まっていない、だからそんなことはできない。


 はあ、とため息をひとつ吐いて僕は自室に戻った。


 僕は着ぐるみを脱ぎ捨ててシャワーを浴びたあと、備え付けてある浴衣に着替えて、ベッドでくつろいだ。


 この洋館はホテルみたいになってる。こういったこともシカやトリが用意してくれたのだろう。僕は着ている浴衣を見ながらそんなことを思った。


 すると、ルビーから連絡が来た。


『進展はあったの?』


 ルビーは髪をかき上げながら聞いてきた。


『あーいえ、何も無かったです』

『そう』

『あ、明日ライオンの護衛をすることになったのですが』

『ライオンの護衛?』

『はい……えっとルビーさんは見てはいなかったんですか?』


 ルビーの口からため息がもれる。


『知らないわ。スノーダストのアップデートの準備をしていたから』

『あっぷでーと?』

『そうよ、あなたにそれを送信しようと連絡したんだけど、護衛ってなに?』

『クマに続いてシカが死んでいたんです。しかも同じ死に方で、それで、皆さんがもしかしたら、殺人なんじゃないかと疑い始めて。危険かもしれないから、主催者のライオンが優勝賞品を優勝者の部屋に持って行くということになって』


 ルビーは何度も頷くようにうんうんと聞いている。


『僕がライオンに直接そのことを言ったら、護衛してほしいと言われたので』

『なるほど、ふたたび死者が出た。それは同じ死に方をしていた。なぜ殺したのか? それは、優勝賞品を奪うため。だから、ライオンが危険かもしれないというわけね』


 何となくの内容はルビーに分かってもらえた。彼女は斜め上を見上げて何がを考えていた。


 ルビーがさっきアップデートをするとかって言っていた。このスノーダストの性能でも上げてくれるのかな? もしかしたら、見るだけで犯人が分かったりできる機能だとか。


『いいわ、ライオンの護衛をしてちょうだい。あたしも見ているから。それで明日なの?』

『あ、はい、明日の10時ごろ渡しに行くといっていました』

『明日の10時ごろね。分かったわ……』


 ルビーは画面のむこうで下を向き何かをしていた。


『じゃあ、今からアップデートするから』

『は、はい』


 僕の画面の中で波紋が広がるように波打った。すると左下の方に立ての2本線が現れた。


『……これでいいわ。今そこに送ったのは、一時停止装置よ』

『いちじていしそうち?』

『そうよ、それを押せば人を一時停止できるわ』

『え? ホントに?』

『嘘言ってどうするの。その装置はあなたの周囲の人を一時停止させることができるわ』


 そんなことが本当にできるのか? 僕は早く試したくなった。


『ただし10秒間だけよ、機能するのは』

『10秒間だけ?』

『ええ、そうよ』

『ああ! でも、10秒経ってまた押せば』

『と、考えるでしょうけど、今の性能ではそれはできないわ。1日1回だけよ、使えるのは』

『1日1回』

『そう、だからよく見極めで使ってちょうだい』


 10秒間だけ人を止めることができる。しかも使ったら1日経たないと使えない。僕は正直この機能が使えるのか使えないのか分からなかった。


『じゃあ、そういうわけだから、明日お願いね』

『は、はい』


 ルビーからの通信は消えた。


 明日はライオンの護衛か。僕はとりあえず明日のことに備えて眠ることにした。




 2日目の朝。


 ふと目を覚ましスノーダストを起動させると、時計は9:13を表示していた。

 僕はベッドから起き上がり洗面台に向かった。顔を洗って鏡をみると僕の眠そうな顔が鏡に映った。


 これから、ライオンが優勝者の部屋に行って、優勝賞品を渡す。僕はそのライオンの護衛をするわけだが。


 ネコがライオンを護衛するとは……。


 僕は着ぐるみに着替えて部屋から出た。そしてライオンが上がってくる階段とは反対側の階段に身を潜めた。


 のぞき込むように、顔だけを出してフロアをうかがった。

 しばらくすると、ライオンが上がってきた。両手で何かを挟み込むようにして階段を上がってくる。


 フロアを見ると誰も出てきていない。真ん中にクマとシカが毛布を掛けられているだけで。怪しい人物が出てくる気配はなかった。


 僕は一時停止ボタンをいつでも押せるように、位置を合わせていた。

 ライオンは誰かのドアの前で立ち止まった。そこは【7】のドアだった。


 7番はヒツジの部屋だったはず。優勝したのはヒツジなんだ。


 ライオンはドアを叩いた。しばらくすると、ドアが開きヒツジが顔をのぞかせる。ライオンと少し話したあと部屋に招き入れた。


 ヒツジが優勝か……どんな芸をしたんだっけ? 覚えていない。僕は自分がどんな芸を披露するか考えていたから見てなかった。


 今ヒツジの部屋の中で取り引きが行われているのだろう。

 優勝賞品はポレミラーヌの鈴なのか? それとも現金。現金だった場合、手に持っていたのは小切手か?


 【7】のドアが開いた。


 ライオンが出て来て、ヒツジに向かって頭を下げた。それから、上がってきた階段を下りて行った。

 僕はヒツジがドアを閉めたのを確認してから、ライオンが無事に自室に戻ったかを見に行った。

 ライオンは階段を下りて、何事もなく自室に戻った。


 僕はほっと胸をなでおろし引き返した。部屋に戻ってベッドに腰を下ろす。


 これからどうする? もしかしたらヒツジがポレミラーヌの鈴を持っているかもしれない。


 ちょうどそのとき、ルビーから連絡が入った。


『ライオンは無事で、ヒツジが優勝者のようね』

『そうですね』

『じゃあヒツジに会って、何を受け取ったか聞いてきてくれる』

『ヒツジに聞くんですか? 教えてくれないんじゃ』

『言ってみなきゃ分からないでしょ』

『うーん、もし、それで教えてもらって、それがポレミラーヌの鈴だった場合、僕はどうすればいいんですか?』

『ああ、それね。画面左下の欄に情報分析って書いてあるでしょ』

『じょうほうぶんせき?』


 僕は左下の欄をスクロールしていった。見ていくと途中に【情報分析】の文字が記されてあった。


『あっありました』

『じゃあ、そこを押してみて』


 僕は情報分析を押した。すると【物】という文字が表示された。


『物って表示が出てきましたけど』

『うん、使えるみたいね。それを使ってポレミラーヌの鈴を調べるのよ』

『しらべる、ですか?』


 僕の理解力のなさに呆れたのか、ルビーの口からため息がもれる。


『それを押して、ポレミラーヌの鈴を見れば詳細が表示されるわ。その情報を取って来るの、いいわね』

『は、はい……』

『……何してるの、早くヒツジのところに行って確認して来て』


 プツリとルビーからの通信は消えた。


 やれやれ、飼い主には逆らえないか……仕方ない行くか。

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