第8話 主催者の部屋に
ハッと目が覚めた。どのくらい眠っていたのだろう。僕は手のひらを3秒押してスノーダストを起動させた。目に映っているデジタル時計は22:43を表示していた。
「ふぁあー」とあくびが出る。もうひと眠りしようかと思ったときルビーから連絡が来た。
『ないちくん。情報はどうなの?』
『ん? えっと、厨房とか遊戯室を見たけど、めぼしいものは何も無かったですよ』
『そう、ウサギは何か言ってた?』
『うーん』
起きたばかりで頭がうまく回らない。
『えーっと、ルビーさんは僕たちの会話を聞いてたんでしょ、だから言わなくても』
『残念ね、ずっと聞いていたわけじゃないの。あたしもやることあるから。で、どうなの?』
『えーウサギはこの催しの優勝賞品がポレミラーヌの鈴じゃないかとか、主催者の部屋の中があやしいとか』
『そうなの。じゃあ、今から主催者の部屋に行って、ポレミラーヌの情報を見つけてきて』
『ええ、今から?』
『そうよ、欲しいんでしょ、1兆円が』
そう言われると、やらざるおえない。
『分かりました、行きますけど。ポレミラーヌの情報って言いますけど、情報って鈴を鳴らすと周りは半分の時間になるとか、2回までしか効果が無いとか。それは情報なんじゃ』
ルビーの反応が一瞬止まる。
『あたしの言っている情報っていうのは、構造のことよ、その鈴の』
『こうぞう?』
『そう、あたしたちの組織はその構造を調べることで、スノーダストの性能を向上させることなの』
『えっと、よく分からないんですけど。このスノーダストの性能ってどのくらのことができるんですか?』
『企業秘密だから言えないけど……そうね、あなたが今まで使っていた機能が、赤ん坊の能力レベルってことかしら』
赤ん坊?
『あの、どういうことですか?』
『まだ成長段階ってこと。これから、どんどん向上していくの。機能がね』
『どんな機能ですか?』
『さあ、分からないわ』
『ルビーさんたちが作った物ですよね。分からないんですか?』
『ええ、まだ試作の段階だからね。すべては把握してないわ』
僕は一体、何を体内に入れられたんだ。
『さあ、分かったら、主催者の部屋に行きなさい』
ルビーからの通信が消えた。
僕はネコの頭を被って部屋の外に出た。1兆円のためだ仕方ない。
フロアはしーんと静まり返っている。みんな寝ているのだろうか。僕は階段を下り切ってあることに気がついた。
それは、主催者の部屋が分からないということ。僕はウサギにその場所を聞こうと振り向いた。
「そこで、何してんだ」
階段の上から声が聞こえてきた。僕は階段を1段づつ見ていくと、ある動物の足が目に留まった。この足はトラの足だった。
思い切って見上げると、トラが腕を組んで僕を見下ろしていた。
「あ、いや、あなたは?」
僕が返すと、トラは軽快に階段を下りて来て言った。
「俺は腹が減ったから厨房へ行こうとしてたところだ。で、あんたは?」
「ぼ、僕は、僕もちょっと小腹が空いて、厨房へ」
「何だ、そうか。じゃあ、一緒に行こうぜ」
トラは軽快に厨房へと向かった。僕はそのあとを追った。
厨房に来ると、トラは勢いよく冷蔵庫を開けに行った。
「よーし」
トラは冷蔵庫をあさった。僕は草食動物のようにその光景を眺めていた。
「あの、そこに入っている物って、食べていいんですか?」
「あん?」
トラは一瞬、手を止めてからまたあさり始めた。
「ははは、バカだなぁ、いいんだよ。盗みじゃねえんだ。あんた、まじめだな」
「ほらっ」
トラは僕の方へ、加工肉をひとつ投げ渡してきた。僕はそれを両手でつかむ。
「あんた、どう思うよ。クマが死んでいること」
トラはあさりながら僕に聞いてきた。
「さあ、何なんでしょうね」
「俺なぁ、殺しだと思ってんだ」
「え?」
「だって、おかしいだろ。何でフロアの真ん中で死んでんだよ。あれが何らかの病気だった場合、もがき苦しむはずさ。だけど、仰向けで棺にでも入れたように眠っていやがるんだぜ」
「それは……」
僕は事実を知っている分、なるべくそのことを話さないように会話をしなければならない。
「それは?」
「それは、そういう病気なんじゃないかな。クマは何か用事があって部屋の外に出た。そこで、急に持病か何かの病に侵されて、フロアの真ん中で横になった。そして、仰向けになった方が楽だから仰向けになって、そのまま」
静寂が厨房内を覆った。トラは僕の言ったことを理解しているのだろうか、黙ったまま冷蔵庫をあさり、それからそのドアを閉めた。
「なるほどな。一理あると思うぜ」
トラは僕の方へ振り返った。加工肉や飲み物などを両腕で抱えるようにしていた。
「まあ、あんたも気をつけることだな、じゃあな」
僕は思い出したことがあり、トラを呼び止めた。
「あ! ちょっと待って下さい」
トラは立ち止まり振り返った。
「何だ」
「あの、主催者の部屋ってどこだか分かりますか?」
「主催者? ああライオンの部屋ね」
「はい」
「さっきの階段を下りてきたところをまっすぐ行って、左の壁沿いにドアがある。そこだ」
「ああ、そうですか。分かりました」
トラは僕をあやしがるように一瞬黙った。
「……何でそんなこと聞く?」
「ああ、いやあ……ちょっと用があって」
「よう? あんた遅れて来たのか?」
「はい、そうですが」
「ふーん、まあいいや。案内してやるから俺についてこいよ」
「ええ」
僕はトラのあとについて行った。ちょっとした疑問を思い出して僕はトラの背中を見ながら聞いてみた。
「何で主催者の部屋が分かるんですか? 厨房とかも」
「ああ、最初に来たとき、この洋館内をシカが案内してくれたんだ。あんたは遅れて来たから知らないだろうけど」
「へえ、シカが案内を」
「そういうこと」
トラはあるドアの前で止まった。
「ここだ、ここがライオンの部屋だ」
「あ、ありがとう」
「ああ、じゃあな」
そう言うと、トラは階段を駆け上がって行った。ライオンの部屋の右側にもドアがいくつかあった。ドアには何も書かれていない。僕たちの部屋みたいに番号らしき物は表示されていなかった。
その時。
「おいっ!」
階段の方で誰かが僕を大声で呼んだ。僕はビクッと体を震わせてその方向に目をやった。
見ると、トラが階段の半分ほど下りたところで、僕の方を見ていた。
「どうしたんですか?」
「し、死んでる!」
「えっ!?」
「シカが死んでる!」
トラが慌てながら言った。鬼気迫ったような感じで僕を怖がらせるような言い方だった。
僕は急いでその場を離れてトラのいる方へ走り出した。
トラは僕が来たのを見て残りの階段を駆け上がって行った。
2階のフロアについてみると、クマの隣にシカの着ぐるみを着た人が横たわっていた。
トラは持っていた食べ物を放り出し、シカのところで屈んだ。それから自分の手袋とシカの手袋を取って、手首の脈を確認していた。
「……やっぱり、ダメだな。死んでるぜ」
僕も自分の手袋を取ってシカの手首の脈を触った、冷たい手首が僕の指に伝わる。マネキンのようにだらりとその手は動かなかった。
「死んでますね」
「だろ」
僕はシカに手袋を戻して、トラに言った。
「皆さんを呼びましょう」
「お、おう」
トラは少しあたふたしていたが、みんなを呼びにドアを叩きに行った。僕もドアを叩き回った。
ドアが開き「なにごと?」とか「どうしたの?」などの声を出すと。みんながそれぞれの部屋から出てきた。
そうして、全員が集まった。
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