第5話 招待状の内容

 リスはガタガタと震えていて反応がなかった。ウサギは立ち上がり僕に言った。


「ネコさん、携帯電話はここに持ち込めない決まりなの。誰も」

「えっ!?」

「このパーティーの条件が、着ぐるみを着て来ること、通信機器は絶対持ち込まないことなの」

「じゃあ、誰も外部との連絡が取れないってこと?」

「ええ」

「じゃあ、早くここから出て携帯電話で連絡してきてください。僕はちょっと、持ってないので……」


 借金1兆円で携帯電話の契約は切れて、それで家に置いてきたのを思い出した。


 ウサギとリスはまったく動こうとはしなかった。ウサギはため息交じりに言った。


「ダメなのよ、この島へ来る前に、すべて置いてきているのよ」

「どいうこと?」


 ウサギは僕に顔を向けて首を傾げながら言った。


「……ネコさんて、どうやってここに来たの? 招待状の中身ちゃんと読んだの?」

「あ、いえ。読んでないです。ここへは知人に目隠しをされて連れてこられて」

「めかくし? ……じゃあ仕方ないよね、分からなくても。ここはね、孤島なの。この島にはこの洋館しか建ってないの。それで外部と接触できるのは3日後よ」


「3日後?」


「うん、3日後に飛行機や船がこの島に来ることになっているの。わたしは飛行機でこの島に来たけど、ほかの人たちは分からないわ。飛行機か船か……」


 ルビーの車でここに来たけど、車ごと空か海を渡って来たのかなぁ?


「じゃあ、僕たちは3日間ここに閉じ込められるってこと?」

「そうね。ちなみにこの洋館にも通信機器は一切ないわ。電話とかパソコンとか」


 あっ! そうだ、僕はルビーと通信できる。彼女が通信してくれれば、何とかなるかも……いや、たぶんルビーはこの会話を聞いているはずだ、僕を通して、じゃあ何で連絡してこないんだ。そう思った瞬間。


『まったく、やっかいなことになったわねぇ』


 ルビーからの通信が来た。


『あ! ルビーさん、大変です、人が死んでるんです!』

『知ってるわよ、全部聞いてたから』

『じゃあ、ルビーさん救急車を呼んでくれたんですよね』

『残念ね、呼べないわよ』

『えっ!? どうして?』

『言ったでしょう、これは極秘事項だって、あなたの体内に入っている物がバレちゃいけないのよ』

『ええっ!? でも、それとこれとは関係ないんじゃ……』

『ダメよ、ぜったい。連絡はしないわ、できたとしてもね』

『死んでいるんですよ、人が!』


 ルビーのため息が遠くで聞こえる。


『連絡したくても、できないのよ。あたしもこの島に入るときに、すべて置いてきたから』

『どうして?』

『さっき、ウサギの話を聞いていたでしょ。この島に入るには通信機器は持って来れないって』

『島? え!? 洋館内部だけの話じゃ……』

『違うわよ、この島全体のことを言っているの』

『ぜんたい?』

『そういうことだから、外部との連絡は取れないわ』

『僕の体内に入っているのって通信機器ですよね、これで外部と接触できないんですか?』

『そうね、一応備わっているわ。そういったこともできるように。でも、意味ないわよ、ここがどこだか分からないでしょ、あたしも分からないもの』

『え? どうやって?』


 理解が追いつかず。僕はルビーに疑問を投げた。


『ここへどうやって来たか、招待状に場所案内が記されていたのよ。地名や場所名は書いてなくて、大きな山を右とか、太陽の昇る方とか、そんな曖昧な表現たよりに探し出したの。期限までに』


 ここで救急車やもしくは警察を呼んだとしても、場所はどこですかって聞かれて、大きな山を右とかって言っても、伝わらない。何かのイタズラだと思われてしまう。


『じゃあ、僕はこれからどうすれば……』


 ルビーは僕への返答に少し時間を取った。何かを考え込んでいるように、ため息が聞こえてくる。


『そうね、探索はいったん中止して、その死体を調べて見てくれる』

『あ、さっき脈を見ましたけど、死んでいましたよ、間違いないと思いますけど』

『そうじゃないわよ。あなたの画面に映っている【人体診察】を押してみて、下の方に表示されているでしょ』

『じんたいしんさつ?』


 僕は下の方に目を向けていった。すると左端に人体診察と表示されていた。


『あ、ありました』

『じゃあ、それを押してみて』


 僕は人体診察を押した。だが、僕の目には何の変化も無くいつも通りだった。


『あのう、何も変わってませんが』

『そのまま死体を見てみて。何か見えるはずだから』


 僕はクマの死体を見た。その死体から情報が流れ出てきた。クマの背中の真ん中辺りに〈背中に針=傷と毒〉と表示されていた。


『あ! 背中の真ん中に針、傷と毒って表示されています』

『そうみたいね。背中に針が刺さっているのね。しかも毒のついた』

『……え、じゃあ、毒で死んだってことですか?』

『さあね、でも、誰かがクマに毒針を刺したってことになるわね』

『え?』

『クマが自分で背中に毒針を刺すと思う? 何のために? 行動的に変だわ。分かるでしょ』

『ああ、そうですね……じゃあ、毒針が刺さっていることを、周りの人に伝えておいた方がいいですよね』

『ダメよ! それを話した途端、あなたが疑われるわよ。あなたが殺したんじゃないのって』

『ころし?』

『これは殺人事件としてみておいた方がいいわね』

『殺人事件!?』

『だから、あなたは下手に動かないこと。それと、あなた以外の人が犯人だと思った方がいいわよ』

『ウサギも』

『そう、その洋館にいる全員よ』


 死んだ原因が分かっても、何もできない。それに死体は動かしてはいけない。現場検証というものがあるのを刑事ドラマか何かで見たのを思い出した。


『じゃあ、僕はどうすれば』

『ひとまず犯人がボロを出すまで、周りに合わせて』

『まわりに?』

『そう、あたしはいつでも見ているから。あ、それから正常な人は何も表示されないから』

『はい、分かりました』


 そうしてルビーからの通信は消えた。


 僕はルビーの奴隷か? いわれるがままじゃないか。


「あれぇ、何やってるのー?」


 少年の声がフロアに響いた。


 見るとイヌが【2】のドアを開けて出てきていた。イヌの背丈は僕の背丈より頭ひとつ分小さい。その少年に対して、ウサギが事情を説明した。


「イヌくん、クマさんが死んでいるんだよ。だから、どうしようか考えていたんだよ」

「え! 死んでるの?」

「うん」


 イヌは下を向いて驚いているようだった。この着ぐるみのせいで、みんなの表情が見えないから、どう思っているのかも分からなかった。


 僕はイヌに言った。


「イヌくんは、どこかへ行こうとしたの?」


 イヌは僕の顔をみると、思い出したように首を振り慌てた。


「あ、そうだ、忘れてたー! おいら、ボールを下の会場に忘れて来たから、取りに行こうとしていたんだった」

「ボール?」

「うん、取ってきてもいいよね」


 僕はウサギとリスの方をうかがった。それぞれが頷いている。僕は再びイヌの方を向いた。


「いいよ」


 イヌは頷いて、駆けるように階段を下りて行った。


「じゃあ、とりあえず、このパーティーの主催者に連絡しておいた方が……」


 僕がそう言うとウサギがそれに続いた。


「そうね、わたし呼んでくるわ」


 誰の返答も待たずに、ウサギは階段を下りて行った。ここに居るのは僕とリスとクマの3人だけになった。


 僕はフロアをグルっと見回した。


 結構このフロアで騒いだりしているのに。ほかの人たちは部屋から出てくる気配がない。みんな眠っているのだろうか?


「こ、これから、どうすればいいんですかね」


 リスがたどたどしい感じで言う。


「そうですね……とりあえず、主催者のライオンさんの意見を聞いてからで良いと思います」

「そうですか」


 しばらくのあいだ、僕たちは黙ったまま主催者が来るのを待っていた。重苦しい空気を払うために、僕は適当な話題を取り上げてリスに聞いた。


「あの、リスさん」

「は、はい、何でしょう」

「主催者のライオンさんて何者だか分かりますか?」


 リスは硬直したように突っ立っていた。僕は彼女が発する言葉をゆっくりと待った。


「……さあ、分かりません。すごいお金持ちだとか、どっかの社長だとか、噂ではそのようなことを聞いたことがあるだけで、本当のことは……」

「そうですか」


 ポンッポンッと何かを弾ませている音が階段の方から聞こえてきた。イヌがボールを持って、上に投げながら階段を上がってきた。


 それからイヌは僕たちの方へ来くると、そのままボールを両手で挟んで立っていた。


 さらに過ぎて。バタバタと階段を上がってくる音が聞こえてきた。先にここへ来たのはウサギだった。


「連れて来たよー」


 ウサギはゼエゼエと肩を上下させていた。

 そのあと階段から上がって来たのは、ライオンとシカとトリだった。

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