第4話 ウサギへの聞き込み
しばらくするとドアが開きウサギが顔を出した。
「あ、ネコさん。何か用なの?」
「あのう、ポレミラーヌの鈴について聞きたいんだけど」
ウサギはきょとんとしたように一瞬止まり、それから言った。
「え? なんで知ってるの? そのこと」
「あ、いやー、ここへ来る前に知人が何かそんなようなことを言っていたのを思い出して、それで、何かこの洋館に置いてあるとか言ってたような」
着ぐるみを着たままの彼女はドアを大きく開けて僕を招き入れた。彼女は外に誰も居ないか確認するように左右に顔を向けて、それからドアを閉めた。
「そこに座って」
テーブルのところにある椅子に僕を座らせると、ウサギはベッドの方に腰かけた。
部屋の内装は僕の部屋とほぼ一緒の造りになっている。
ウサギは一呼吸すると話し出した。
「わたしもね、探しているのよ。ポレミラーヌの鈴を」
「え? ウサギさんも」
「ええ、そうよ。その鈴には時間をコントロールするチカラがあるの」
「時間をコントロールする?」
「そうなの。鈴を1回鳴らすと、自分の周りにいる人は半分の時間になるの」
「はんぶん?」
「そうねえ、たとえば1時間が30分に短縮されるの。1時間だと思っている時間が30分しかなくなるの」
「は?」
「分かりにくいかもしれないけど、実際に30分過ぎると周りは1時間過ぎたことになっているわけ」
「うーん、時計が30分経ったと思ったら、実は1時間過ぎていたってこと?」
「う、うん、そんな感じかな」
時間をコントロールできる鈴かぁ。それがこの洋館の中にあるのか。
「ウサギさん。もしかして2回鳴らしたら……」
「うん、そう。2回鳴らしたら、さらに半分になる。30分が15分にね」
「じゃあ、もっと鳴らせば」
ウサギは首を左右に動かして言った。
「2回までしか縮まないの」
「2回までですか?」
「その代わり、鳴らした本人は逆になるわ」
「ぎゃく?」
「うん、1回鳴らせば、倍になる。1時間が2時間。2回鳴らせば、1時間が4時間に」
「ということは1時間経っても、まだ1時間あったり3時間あるってこと」
「ややこしいかもしんないけど、たとえばネコさんが鈴を1回振ったら、あたしの1時間が30分短縮されるの、反対にネコさんは2倍の時間を過ごすことができるってわけ」
「ふうん、どうしてそんなに詳しいんですか?」
「……わたしの勤めている研究所で作ったものだからよ。まだ研究段階で盗まれて、それで、この洋館の中に隠されていることを突き止めたの」
このウサギは時間をコントロールできる鈴を開発した研究所の職員らしい。そして、その鈴は研究の途中で盗まれて、この洋館にあるという。
『ないちくん。間違いないわね』
ルビーが通信をしてきた。
『あのう、ウサギはそう言っていますけど、色々と本当のことなんですか?』
『あなた疑うの? じゃあ今体内に入っている装置。スノーダストについても嘘って言いたいの?』
『あ、いえーそんなことは』
『じゃあ、そのウサギを信用しなさい』
『は、はい、分かりました』
『ともかく、ポレミラーヌの鈴を見つけ出して、いいわね』
そう言ってルビーからの通信は終了した。
僕はウサギに言った。
「あの、ウサギさん。その鈴がこの洋館の中のどこに置いてあるか、めぼしはついたりしているんですか?」
「いいえ分からないわ。もしかしたら催しの優勝賞品がそれだったりして」
「優勝賞品がポレミラーヌ?」
「ライオンさんとポレミラーヌの鈴が繋がっていればね」
「あのーライオンさんはこの洋館に住んでいるんですか?」
「うーん、それがねえ、この洋館は誰の所有物ってわけでもないのよ。だから完全な空き家になっているの。そこで、このパーティーの主催者であるライオンさんがこの洋館を見つけて、情報共有システムを使って、着ぐるみパーティーしたい人を集めたの。参加者を募集して。それで」
そう言えばライオンっていったい何者なんだ? なんで着ぐるみパーティーを主催したんだ?
「ウサギさん、ライオンさんて何者ですか?」
「んー、噂では超大物だとか権力者だとか……まあ、よく分からないわ。気まぐれ者みたいだからね」
「気まぐれ者?」
「だってそうでしょ。こんなパーティを主催するんだから。まあ、おかげでこの洋館に侵入できたわけだけど」
ここまで話を聞いたけど。何だかよく分からない。いったい何が起こっているのかも。
「ネコさんはわたしにチカラを貸してくれるの? ポレミラーヌの鈴を一緒に探してくれるの?」
ウサギと協力。ルビーにはポレミラーヌの鈴を探し出すように言われているから、ウサギと協力するしかない。
正直、何だか胡散臭すぎるように感じる。このパーティーとかポレミラーヌの鈴とか。その感じを頭の隅に置いて僕は言った。
「うん、もちろん協力するよ」
「ありがとう」
ウサギはベッドから立ち上がり言った。
「ネコさんが誰なのか分からないけど。信用するわ」
僕は慌てて椅子から立ち上がり言った。
「僕も信用します」
ふふふ、とウサギは笑って、部屋の外に出ようとした。僕はウサギを呼び止めた。
「あの、どこへ行くんですか?」
ウサギはドアの錠を外しノブに手を掛けて振り向いた。
「あ、今から。この洋館を探索しようと思って」
「探索?」
「そう、だから、ついてきて」
そのとき、ドンドンドンと目の前のドアが急に音を立て始めた。
ドンドンドンと向こう側から誰かがドアを叩いている。それは鬼気迫ったような激しい叩き方だった。
ウサギは僕の方を見て驚いている素振りを見せる。
誰がいるか覗いて確かめてとウサギに言おうとしたけど、そのドアには覗き穴らしきものは見当たらなかった。
ウサギと僕のあいだに少しの静寂が訪れる。僕がウサギにドアを開けるように顎をしゃくった。
ウサギはゆっくりとドアを開ける。そこに居たのはリスだった。
「ああ、リスさん。どうしたの?」
ウサギが声を掛けるとリスはガタガタと震えていて、弱々しい声を発した。
「あ、あそこで死んでいるんです」
「え?」
僕がウサギの後ろから声を上げた。
「クマさんが、あそこで」
リスはその方向へ人差し指を向けた。
そこに広がっていた光景は、フロアの真ん中にクマが仰向けに倒れている姿だった。
僕たちはそこへ駆け寄った。
「な、なんで?」
僕がそう言うと、リスは震えながら僕たちに返した。
「わ、分かりません」
クマはただ寝ているように、まっすぐ横たわっていた。
「わ、私が洋館内を見学しようと部屋を出たんです。そしたらクマさんが倒れていて、それで寝ているのかなと思って、起こしに行ったんです。最初、呼んでも反応がなくて、それで体を揺すってみたんですけど。それでも起きなかったので、手袋を取って脈を診てみたら……」
リスはそれ以上続けなかった。クマは右手の手袋を取られていて、ぐったりしていた。
僕は思った。これも催しの一環なんじゃないかとか、嘘なんじゃないかとか。だから僕は自分の手袋を取って、それからクマの手を持ち脈を診てみた。
……え!? 死んでる! なんで?
ウサギは勢いよく屈んで、クマの体を揺すりながら大声で叫んだ。
「クマさん! クマさん!」
揺すっても起きず、返事もない。ウサギの呼び掛けにクマはピクリとも体を動かすことなく、物のようにそこに置かれていた。ウサギは助けを求めるように僕の方を見た。
そこには一瞬だけの沈黙が訪れて、招かれざるモノを受け入れなければならなかった。それは、クマは本当に死んでいるということ。
僕は立ち上がり言った。
「救急車を呼びましょう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます