第2話 自分の力で

空に、ほうきまたがった魔女は飛んでいないか。

ワタルは毎日探し続けた。

そしてやっと見つけると、迷うことなく追いかけた。

辿り着いたのは、この間と同じ場所。

家の煙突からは、白い煙が立ち上っていた。


ワタルが恐る恐る家に近づき、扉をノックしようと手を上げた時。


「あたしゃ居ないよ!」


中から女の声が聞こえてきた。

だからワタルはそのまま、扉を開けた。


「はぁ・・・・りないガキだねぇ・・・・」


うんざりした顔の女が、箒を持ったまま、顔だけをワタルに向ける。

どうやら、掃除をしつつ、なにやら鍋で煮ているらしい。


「おばさん、魔女だよね?」

「・・・・オバサン?そりゃ、誰のことだい?」


ワタルの母親とそう変わらない年齢に見える女は、不機嫌を全面に押し出すと、まるでホコリでも掃き出すかのように、手にした箒でワタルを掃く。


「おっ、おねえさん!」

「最近のガキは大人の機嫌を取るのが上手くなったもんだねぇ」


そう言いながらも女は箒を掃く手を止め、ニヤリと笑った。


「ああそうさ。あたしは魔女だ。それがなんだい?」

「本当にっ?!」

「魔女以外に箒で空を飛ぶ奴がいるってんなら、教えて貰いたいもんだねぇ」


女の言葉に、ワタルは目を輝かせて女を見つめたが。

自分を魔女だと認めた女は、そのままワタルから離れてグツグツと煮立った鍋を覗き込み、大きな木のヘラで中身を掻き回し始める。


「ボク、ワタル。おねえさんは?」

「ガキの名前になんざ興味ないね。あたしの名前をガキなんぞに教えてやる気もない」

「えっ?じゃあ、何て呼べば」

「あたしはガキの相手をしている暇なんざ無いんだよ。さっさと」

「おねえさん、これ、もしかして魔法の薬っ?!」

「お前っ、あたしの話を・・・・はぁ、これだからガキは嫌いだよ」


女の態度にめげる事なく、鍋に近づき興味津々に中身を覗き込むワタルに、女もとうとう観念したように天を仰ぎ、溜め息を吐きながら言った。


「惚れ薬さ。よくある薬だろ」

「ええっ?!惚れ薬ってあの、飲ませたら必ず相手に好きになって貰えるやつ?!」

「それ以外に何があるんだい?」


その時、ワタルの頭には、気になっている同じクラスの女の子の顔が浮かんでいた。

それを見透かしたように、女が口を開く。


「欲しいのかい」

「えっ・・・・うん」

「随分マセたガキだねぇ」


薄っすらと顔を赤くするワタルに、女は更に言葉を掛ける。


「もう二度と来ないってんなら、やってもいいよ」

「えっ?ほんとっ?!」

「ああ、ほんとうさ」


女の言葉に、ワタルは舞い上がった。

頭の中は、淡い恋心を抱いている女の子の事で一杯になっていた。

だが。


「そんなもんで惚れさせて満足なら、ね」


女はニヤニヤと笑って、ワタルを見ている。


「本気なら、自力てめえで惚れさせなきゃ意味なんか無いだろうにねぇ?薬の力こんなもんで惚れさせたって、それはお前自身が惚れられた訳じゃあない。そんなもん、偽物にせものさ。それでもいいってんなら」

「いらないっ、ボク!」


強く頭を振って、にこやかに笑いかける女の子の姿を頭の中から追い出し、ワタルはそう叫んだ。

気付いたら、叫んでいた。


女は変わらずニヤニヤと笑いながら、その手をワタルに向け。


「ああそうかい。じゃ、とっとと帰んな」


言いながら、宙でピンッとワタルを弾く仕草をした。


目の前には、前回と同じ、ワタルの家。


「ただいまー」


何事も無かったかのように家に帰り、部屋に戻ってワタルは考えた。


『本気なら、自力てめえで惚れさせなきゃ意味なんか無いだろうにねぇ?』


魔女の女の言葉が、頭から離れない。

ワタルは一生懸命考えた。

どうしたら、彼女に自分の事を好きになって貰えるかを。

そして、決めた。

駆けっこが早い男の子が好きだという彼女の為に、明日から一生懸命、駆けっこの練習をしようと。

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