魔女の小言~少年と魔女~
平 遊
第1話 ガキはガキらしく
真っ黒なワンピースを着て、長い髪をなびかせて。
その姿は、絵本でよく見かける、魔女そのもの。
ワタルは確かに、その姿を見たのに。
誰もワタルの言うことなど、信じなかった。
だからある日、ワタルはその魔女を追いかけて、家をつきとめた。
そこは、ワタルが一度も来たことの無い知らない場所。
見渡す限り、建物はおろか、木の一本も立っていない。
寂しい寂しい場所に、ポツンと立っている一軒の家。
空を飛ぶ箒を追いかけることに夢中になっていて、どこをどう通って来たのか、ワタルにはわからなかった。
「ガキのクセにストーカーなんて、感心しないねぇ」
突然後ろから声が聞こえて、ワタルは飛び上がった。
振り返るとそこには、真っ黒なワンピースを着て、先の曲がった三角帽を被った、髪の長い細身の女が、箒を手に立っていた。
「ボクはガキじゃないし、ストーカーでもない!」
「あたしから見りゃ、お前は立派にガキだし、立派なストーカーだよ」
言いながら、女はワタルを押しのけるようにして家へと歩いて行く。
「ガキでいられる時間なんざ、瞬きするほど短いんだ。だから、ガキでいられるうちは、思い切りガキでいりゃいいんだよ」
「・・・・え?」
「あー、理解力が乏しいねぇ!だからガキは嫌いなんだよ。さ、帰った帰った」
言うが早いか、女は宙でピンッとワタルを弾く仕草をした。
すると。
ワタルの目の前には、ワタルの家が。
「ワタルっ?!」
振り返ると、泣きそうな顔の母親が立っていた。
「こんな時間までどこにいたのっ!」
母親はワタルに駆け寄り、その体を強く抱きしめる。
空にはもう、太陽は無く。
代わりに月が浮かんでいる。
「ワタルっ!」
ワタル探して駆け回っていたのだろうか。
いつもはビシッと整えている髪を振り乱した父親まで駆け付けてきて、母親ごとワタルを抱きしめた。
「良かった・・・・無事で」
普段は仕事で忙しくしている両親のこんな姿を、ワタルは初めて見たような気がした。
いつもワタルはいい子であろうとしていたから。
忙しい両親に、余計な心配をかけないように。
早く大人になりたいと願いながら。
「うわああぁぁん!」
両親に抱きしめられながら、ワタルは幼子のように泣いた。
自分でも、何故泣いているのか分からないままに。
ワタルがこんなに泣いたのは、久しぶりのことだった。
『ガキでいられるうちは、思い切りガキでいりゃいいんだよ』
寝る間際。
ワタルはあの女の言葉を思い出していた。
そして。
また会いたいと願いながら、目を閉じた。
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