第3話 期待しちゃいけない【和宮視点】
期待しちゃいけない人生だと思ってる。
自分の生まれ持ったヤンキー顔が嫌いだ。目つきが悪くて怖い雰囲気させてるのが分かる。
俺は、自覚してる。
他人に愛想よく出来ねえし。
――近寄りがたい奴、愛想がなく人と群れない、誰とも打ち解けない尖った奴。
それが俺に向けられる言葉であり、周りの世間の評価だ。
仲良い奴はいなくって、友達もいない。
――だけど。
なんかコイツだけは違う。
後ろの席の天然ドジな女子、鷹岡だけは違うんだ。
俺を怖いと思っていない?
どっか抜けてる感じ。
この間は弁当のおかずを忘れて白米だけを食べてっから、俺は朝自分で焼いた卵焼きと夕飯の残りでわりいけどコロッケを差し出した。
鷹岡、俺なんかのおかずとか受け取んねえかもって思ったけど。
まあ、正直いらないって断ってくるかもってさ、でもそれでもいいやって。
けど。
「ありがとうっ! いいの? もらっても本当にいいの、和宮君?」
あっ、えっ?
ニコオッて笑った……!
鷹岡が笑ったら、太陽みたいに眩しくって。
咲いたばかりのきれいな花みてえでさ。
「ああ」
「わーい、ありがとう! 助かる〜。御飯しかリュックに入ってなくって焦った」
「急いでたのか?」
「えへへっ、私ってなんかのんびり屋なもので、朝の時間が過ぎるのが早すぎて世界についていけてないみたいなんだよね」
「えっ、そっか。はあ……。お前ってなんか面白えヤツだな」
「えっ、そう? 和宮君は優しい良い人だね」
「はあっ!? お、俺が?」
「うん。だって……私がおかず忘れてるのって誰も気づいてないし。この間はあのっ……ありがとう! テスト中は立ち上がり禁止なのに私の筆箱を拾ってくれて……」
「べ、べつに大したことじゃねえよ」
面と向かって、家族以外からありがとうだなんて言われんの、久しぶりだなー。
最近は『人』と積極的には関わってこなかったことに気づいた。
どうせ誰も俺のことなんか、本質なんか見てくれやしない。
そう、諦めていたから。
見た目が九割どころか、十割な世界だと思ってた。
勝手に諦めて失望して、閉ざしてきた。
誤解を解くことも仲間や友達を求めることも、とっくに無理だと諦めていた。
俺は他人との付き合いで、がっかりばかり繰り返してきたから。
友達だと思っていたのに、向こうはそうは思っていなかった。
そんなことはザラにあった。
俺と関わると、先生達や保護者に不良扱いされるんだってさ。
中学三年生になって受験期に入ると、俺の周りからいっせいに友達だと思って信頼していたヤツらが去っていった。
――誰もそばに残らなかった。
ショックはでかくて。
俺は同中から誰も行かない、ちょっと遠くの高校を受験しようと思った。
俺を知らない人間ばかりなら、一人ぐらい俺を受け入れてくれる友達が出来る、俺の容姿を怖がらない奇特なヤツがいるんじゃねえかと、ちょっとばかり期待して高校に入学した。
だけど、現実は甘くはなかった。
けっきょく、みんな一緒じゃん。
俺は今まで、誰も親しい友達が出来なかった。
部活はバイトが忙しくって、帰宅部一直線だったし。
それでも、もしかしたら仲良く出来るクラスメイトがいるかもしんねえなんて。
話しかけるタイミングも話題も思いつかなかった。
認めたくないが、部活仲間で盛り上がるグループが羨ましかったこともたぶんあった。
家族のために、バイトは絶対にやめらんねえ。
自分の心の奥底では友達が出来るかもだなんておこがましい願望抱えて、少しは楽しみにしていたかもだけど、ああ、もういいやと思った。
鷹岡だけ、俺に普通にしてくれた。
俺に向かって笑いかけてくる。
顔が強張らない。
いつからか俺に対して『普通』に話しかけてきて。
後ろの席からツンツン指でつついてきて、お喋りしようとか言う。
……可愛いな、鷹岡って。
お前って可愛いよ。
――俺は鷹岡を好きになってた。
笑った、微笑んだ。
拗ねた顔、からかったらちょっと怒った顔。
輝いてた。
素直で曲がってなくて、明るくって。
俺に悪意も怯えも抱かない女子なんて初めてだった。
俺は鷹岡が好きだ――!
天使みたいに俺には見えていた。
屈託なく笑う鷹岡の、表情も仕草も全部が可愛くって、好きになってた。
俺は君に、君の心に触れてみたい。
生まれて初めて、他人に、そう想った。
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