第2話 理科室で二人きり
白いカーテンが揺れている。
夏休みが近い、暑い午後の理科室。
海にほど近い場所に建つ学校――。
耳をすませば、潮騒の音も聴こえる。
むせかえるほどの熱気を時々さらう海風。
目の前に、寝転ぶ和宮君がいる。
私の目の前に君がいる。
信じられない。
二人っきりだよ。どきどきが加速する。
和宮君は、理科室の四角い小さな椅子をいくつか並べた上に、器用に仰向けで寝ていた。
寝てるんだよね?
息、ちゃんとしてる?
和宮君は無愛想で、一匹狼で近寄りがたくて……、そして髪の毛さらさらだ。
憧れちゃうぐらい、髪の毛さらさらが羨ましくて。
風に揺れてる。
さわさわって。
私は親譲りのくせっ毛天然パーマだから、良いなあっていつも和宮君の髪の毛を心のなかで絶賛してた。
今、目の前に、和宮君だけがいる。
理科室にノートを忘れて、取りに来て良かった。
和宮君と二人きりが嬉しい。
寝てるだけだよね? 熱中症とかで具合悪くないよね?
ちょっと心配になってきた。
私は少し近づいてみる。
一歩一歩と二人の距離が近づく。
そっと近寄ってみたら、和宮君の白いシャツに私の影が落ちた。
和宮君の女の子みたいなぷるぷるの唇。
ずるいぐらい、可愛い寝顔。
上下する胸。
良かった。
死んでない。呼吸してる。
私は数秒、見惚れてた。
「……う〜ん。んっ? 鷹岡? なっ何、俺のこと見てた? キスでもするつもりなわけ?」
身じろぎした後、目を開けた和宮君と私の視線が交差する。
寝ぼけ眼で。
今さっき寝ぼけたことを言っていたのに、次にはキ、キスだなんて言って……、からかってきてるのが分かる。
だって悪戯な笑みを浮かべてる。
和宮君は、意地悪だ。
半身を起こした和宮君から、ふわぁっといい匂いがした。
髪の匂い? 柔軟剤かな?
私はそんないい匂いがするシャンプーなら、同じの使いたいとか思った。
口に出来ない言葉はあれこれと、光の速さで頭の中に駆けめぐる。
もっと和宮君と普通にお喋りしたい。
胸の高鳴りがうるさすぎて、言葉がすぐには声にならない。
和宮君はそんな私の返事をじっと待っている。
「……キスっ? あっ、あっ、あの、えーっと。……和宮君が息してるのかな〜って確認してただけです。熱中症とかじゃないかなあって心配してただけです。……それだけです」
「俺なんかの心配をしてくれたんだ。うーん、ちょっと眠かっただけ。バイトが忙しくてさ。鷹岡、サンキュー」
見かけよりも全然気さくに感じた。
軽口とかたたいたりしてみたい。
もっと和宮君と仲良くしたい。
たくさんお喋りして、もっと和宮君のこと知りたい。私のことも知って欲しいの。
今、君との距離は何センチだろう?
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