君との距離

天雪桃那花(あまゆきもなか)

第1話 席が前な君

 君に触れてみたかった。

 触れてみたかった、ずっと。


 私の前の席の和宮君、近くて遠い。

 遠いんだよね、和宮君。

 席が前と後ろなのに、和宮君と私はほとんど話したことがない。

 君は無愛想で。

 クラスに馴染まない、なんだか一匹狼風で。

 ちょっと尖った不良なオーラをプンプンむんむんさせている。


 私、君が気になってしまうんだ。


 近寄ったら、いけないのかも。


 だけど――。

 そんな雰囲気にそぐわない、君のさらさらで艶々で綺麗で素直な髪の毛に、私は今日も目を奪われている。


 私は君に触れてみたいんだ。


 髪に。

 ううん、きっと心に……。


 誰もに閉ざしている、和宮君の心に触れてみたいの。


 前に私が筆箱を落とした時に、手早く拾い集めてくれた。

 テスト中で、私はプチパニックになって動けなかった。

 静かなテストの空気の中に響いた筆箱が落ちて中身が出ちゃった音――。

 和宮君は「ほらよ」って。


「こら、テスト中だぞー。和宮、席を立つな」

「……」


 先生が軽く注意しても動じた風は無かった。


「先生、私がいけないんです。筆箱、落としちゃって……。気をつけます!」

「そうか。気をつけろー」


 実は、かなり和宮君って優しいのではないのかって、そんな気がしてる。


「ありがとう、和宮君」

「べっつに」


 素っ気ない返事。

 すぐに前を向いた和宮君の耳が赤くなっていた気がした。


 ……和宮君、もしかして照れていたのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る