第二十四話 捜索
「すごいね、もう原因突き止めたんだ。君たち、なかなかいいコンビなんじゃない?」
八塚神社の境内。圭一郎と華絵は、
「……泉穂さんは、どう思います?」
一通り説明し終えて、華絵が泉穂に意見を求めた。褒められて嬉しいが、いいコンビといわれたことには納得できず、複雑な表情をしている。
「ん―……つまり捨てられた猫が、飼い主を追いかけて化けて出たってことになるよね? だとしたらその猫、ずいぶん颯太君に執着してるみたいだね」
圭一郎もそれが気になっていた。飼い猫を捨てる形になったことで化けて出るなら、世の中は化け猫だらけになりそうである。
「何か他に、理由があるのかもしれませんね。本人はクロ丸に会うのが怖くて、引きこもりがちになってたそうなんですが、”ずっと家にいないで気分転換に外に出なさい”ってお母さんに言われて、渋々出たとこで私たちと会ったみたいです」
社務所を閉める準備をしながら話を聞いていた泉穂は、少しの間手を止めて考えてから、こう切り出した。
「2人は
突然何を言い出すのかと思いながらも、2人とも
「生きている人間が枕元に立ったりするあれか?」
「浮気された女が男のとこに出たりするあれですか?」
「……特定の誰かに強い想いを持った人が、無意識のうちに思念をとばしちゃうっていうあれね。広く捉えると呪いの一種なんだけど」
2人の息の合った反応が面白かったのか、若干声が震えている。
「あれって、大抵誰にも目撃されることなく終わるんだって。逆に見えてしまう時っていうのは、見る側にも負い目があるときらしい」
「……クロ丸が生きてる可能性もあるってことか?」
「あくまで可能性ね」
「え……でも不特定多数に見られているのは? 動物の生霊ってあるんですか?」
華絵が信じられない、という顔で質問を重ねる。
「不特定でもないよね。小学生って限定されてる。それに、思いの強さに人も動物も関係無いよ」
3人の間に沈黙が流れる。それぞれ何か考えているようだった。
「……颯太とクロ丸が会えば、全部解決しそうな気がすんのは俺だけか?」
「僕も同感だよ。たぶん、こっちが探す気になればすぐに見つかると思う。颯太君を助けると思って、最後まで見届けておいで」
・
・
次の日の放課後。圭一郎は颯太と、華絵は術式を使って広範囲を探るため単独で、クロ丸を探し回った。圭一郎と颯太は、目撃情報があった場所を中心に、学校周辺を歩き回っていた。
(泉穂はああ言ってたけど、見つかんねぇな……)
徒歩で回れる範囲は全部回ったが、今のところそれらしき気配は感じられない。辺りはもう暗くなりかけていて、小学生を連れて歩くには限界がある。
学校方面へ戻りながら、颯太は圭一郎にクロ丸と出会った時のことや、転校することになった理由を語った。
「僕、いじめられてたんです。この顔のアザのせいで、パンダとか馬鹿にされて。それだけなら我慢できたんだけど、そのうちなぐられたり蹴られたりするようになって。それを後から知ったお父さんが怒って、すぐにでも転校させるって」
いじめがひどくなってきた頃に出会った、傷だらけの黒猫。クロ丸を飼っていた期間は、ほんの2週間程度だったこと。
圭一郎は半歩先を歩く颯太の話を黙って聞いていた。もうすぐ華絵との合流場所である、学校裏の公園が見えてくるころだ。
「お兄ちゃんは、いじめられなかった?」
不意に、颯太が振り返って聞いた。圭一郎の左頬のアザのことを言っているのだろう。
「そんなわけないか、お兄ちゃん、強そうだもん」
「……俺はできるだけ人と関わらないようにしてたからな。お前は関わろうとしてるだけ偉いんじゃねぇの」
圭一郎はぶっきらぼうにそう言うと、颯太を追い越して公園に入っていった。
華絵は既にそこにいて、2人の姿をみとめると、首を横に振った。
「範囲を最初の目撃情報があった北小の方まで広げて探してみたんだけど、駄目だった」
華絵は
「颯太君、クロ丸がいそうな場所とか心当たりないの?」
「うーん、狭い場所とかは好きだったけど……」
「それは猫だからな……」
颯太はうつむき、完全に考え込んでしまった。その様子を見かねて、華絵が励ますように声をかける。
「もう遅いし、また明日探してみましょ」
公園を出て行こうとしたその時、颯太がバッと顔をあげた。
「————あ。」
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