第二十三話 転校生
小学校の裏側は、どこにでもありそうな住宅街だった。学校の敷地を囲う塀の向こうには、体育館が見えている。校庭にいた女の子によると、例の転校生は4年生の男子で、
「その猫のお化けって、他の小学校でも目撃されてるのよね?」
「
圭一郎と華絵は、周囲の様子に注意を払いながら住宅街を歩いていく。目撃者は小学生のみ、今のところ実害もないようだが、念のためである。
「ふーん。その転校生が本当に関係してるかどうかはともかく、学校のことも聞き出したいし、その子と会って話がしたいわね」
「……どうやって?」
「そうなのよねー。表札見たら家くらいは分かりそうだけど、押しかけるわけにもいかないし……」
そこまで言いかけて、華絵はふと足を止めた。
「ねぇちょっと、あれ。あそこに誰かいるよね?」
華絵が指を指したのは、3軒ほど先のアパートだ。その駐車場の真ん中にある、植え込みの陰に人影が見えた。近づいていくと、四年生くらいの、細身の男の子が頭を抱えて座っている。
「君、大丈夫?」
「うわあああっ!!?」
華絵が声をかけた瞬間、男の子はおびえた様子で飛び退いた。そのまま走って逃げようとする、その腕を圭一郎が掴む。
4年生くらいの男子。転校生。アパート。2人の中で、何かがつながった。
「おまえが
男の子は、その目を大きく見開いた。薄青の半袖のパーカーに、黒っぽい半ズボン。彼の右の目元には、おそらく生まれつきのものであろう、
「え……なんで」
「……私たち、実はちょっとすごい力を持ってるのよ。だから、そうね、君が困ってることを解決できると思う」
戸惑った様子のその子に、華絵が言葉を選んで語りかける。
「何か困っていること、あるんじゃない?」
・
・
遊具が鉄棒とブランコ、他は木のベンチだけという、住宅街の小さな公園。ベンチに華絵と颯太、そして少し離れた鉄棒に圭一郎が寄りかかって立っている。
「……クロ丸の、呪いなんです」
颯太が、ぽつりぽつりと話し出した。
「僕、最近引っ越してきたんです。前は、北小学校にいました」
「市内で引っ越したってこと?」
颯太がうなずく。
「前住んでたところはおばあちゃんの家で、父さんたちが新しく家を建てるまでの間住ませてもらってたんです」
颯太は、その家でこっそりと飼っていた猫が「クロ丸」であり、例の化け猫の正体はそのクロ丸だ思う、ということを言った。
「僕のことを恨んで、ここまで追いかけてきたんだと思います」
「……なんで、恨まれてると思うの?」
「急に引っ越すことになって、クロ丸を追い出すような形になっちゃったから。片付けの時、庭の小屋に隠してたクロ丸が見つかっちゃったんです。僕、怒られたくなかったからクロ丸の前で「知らないよ」って言っちゃって……。それでお父さんが無理矢理追い払っちゃって、それっきり……」
なんとなく話が見えてきた。颯太はそのことで、クロ丸が自分を恨んでいると感じているのだ。
「クロ丸、もともと弱っちかったから、もしかしてあの後に死んじゃったのかな。ユーレイになってるってことは、そういうことでしょう?」
華絵はちらりと圭一郎の目を見てから、颯太に聞いた。
「……その化け猫がクロ丸だったとして、君はどうしたい?」
「……ユーレイになってるのなら、きちんと成仏させてあげたい。会いたい気持ちもあるけど、僕を恨んでると思うと、怖い。せっかく新しい環境でやり直せると思ったのに、こんなことになるなんて……」
それを聞いた華絵は、颯太の背中をぽんと叩いてから、すっと立ち上がった。
「——分ったわ。ともかく、明日からクロ丸を探しましょう。会わなきゃ始まらないわ」
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