壱-3 麩屋町の小路にて(祓具購入編)
第十話 祓具
蘆屋家の和室に、圭一郎と目付役の
「――というわけで、この方角が
帰宅後の陰陽師修行。座卓の上には、古びた書物が何冊も積み重なっている。
今日は
圭一郎はコンビニでの一件以来、気になっていることがあった。
たくさんの妖を瞬時に祓うことができる、強大な力。
話に聞いたことがあったが、その力を実際に目の当たりにした圭一郎は、すっかりその力に魅了されていた。
――特級を前にしたときの無力さ。2度と同じ思いはしたくない。もしまた同じようなことが起こったとしても、自分の周りの人間くらいは守れるように。
自分にも同じ事ができれば―――
そう思って、小金井に聞いてみることにしたのだが。
「術式? ああ、圭一郎様は使えませんぞ」
きっぱりとそう言われてしまい、圭一郎は少なからずがっかりした。
「……なんで?」
「術式は術者に生まれつき備わった個性のようなもので、修行でどうにかなるものではないからです。ごく稀に、血族で代々同じ術式が受け継がれたり、後天的に使えるようになることもあるようですが、使えないのが当たり前です。あてにしない方がいいでしょう」
ただ、と小金井は続ける。
「術式を持っていないからといって、持っている術士に劣る訳ではありませんぞ。かの蘆屋道満は、八傑の陰陽師の中で唯一、術式を持たない術士。裏を返せば、術式を持たないにも関わらず八傑に名前を残すほど、優れた術士だったということです」
―――へえ。そいつは初耳だ。
「術式は使えないが、術式に近いことならできるようになるぞ」
いつの間にか、戸口に父・征志郎が立っていた。
「近いうちにと思っていたが、ちょうどいい。明日にでも
「フツグ……?」
聞きなじみのない言葉で、漢字変換が上手くできない。
「祓ったり浄めたりする力を増幅させる道具だ。術者の特性に合わせて、いろんな種類があるから、見て選んできなさい。泉穂君がよく行ってるはずだから、私から案内を頼んでおくよ」
「麩屋町ってわりと近くだろ? 場所さえ分かれば1人でも……」
「いや、あの店はちょっと言葉で説明しにくいというか、初めての人は簡単にたどり着けないようになってるから、連れて行ってもらいなさい」
(……そんなに分かりにくい場所にあるのか?)
征志郎の不思議な言い回しに、首をひねる圭一郎であった。
・
・
次の日、学校からの帰り。
圭一郎は
「ごめん圭ちゃん!」
境内に入るなり、泉穂が手を合わせながら走ってくる。
「これから急にお客さんが来ることになって、ここにいなきゃいけなくなった」
「んじゃ別の日に?」
「いや、代わりの人を呼んでおいたよ」
泉穂は自分の黒いスマートフォンを掲げて見せた。
「代わり?」
「うん。圭ちゃんと歳も近いし、仲良くなれると思うんだよね。圭ちゃんと同じ高校で、一つ上の先輩だよ」
同じ高校。一つ上。
嫌な予感がする。
石段を登ってくる足音が、だんだん近づいてくる。
「それってまさか―――」
「泉穂さん、お久しぶりです!」
「久しぶり、華絵ちゃん」
鳥居をくぐって現れたのは、肩にかかるかかからないかの茶髪に、セーラー服の女子生徒。”人にぶつかっても謝らない高飛車女”、”術式が使えるレアな奴”――それが圭一郎の、彼女に対する今のところの認識である。
「その節はお世話に―――ってなんであんたがいるのよ!」
圭一郎の存在に気がついた、
――嫌な予感が当ってしまった。
「それはこっちのセリフだ」
「え、何? 2人とも知り合いなの?」
泉穂は驚いた表情で、睨み合う2人を交互に見る。華絵はその問いに、
「ええ、まあちょっと……」
と言葉を濁すと、手を口にあてて「ふふふ」と上品に笑った。
――コイツ、明らかに猫被ってやがる。
一度会ってるからこそ分かる。藤宮華絵はこんなキャラではないはずだ。
「……お前らこそどういう関係なんだよ?」
華絵と泉穂の接点が全く見えない。
「華絵ちゃんが術士になりたての頃、ここに結界術を習いに来てたんだよ」
ね、と言って泉穂と華絵は顔を見合わせる。華絵は見たことのない程の満面の笑みである。
「それで泉穂さん、私に頼みたいことって何ですか?」
「ああ、それはね―――」
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