見つかった見つかった
僕はついにドロシーに会えた。あれほど探したドロシーが今は手の届く場所にいる。早く色んな事が聞きたい。彼女の口からどんな真相がわかるのかもうずっとワクワクが止まらないんだ。
「では人探しは終了という事でよろしいでしょうか」
「はい」
ドロシーが見つかった町で僕は捜索を打ち切った。ドロシーを見つけるという目的が達成できた以上、尋ね人の依頼を打ち切る事は特に何の不思議もない当たり前の事だった。そして既にドロシーが見つかったんだからもうここに用は無い。開いた地図のこの町にバッテンを打ち、明日からはもう降り立つ必要が無い事を改めて確認する。
「早くドロシーを探さなきゃ」
今もこの世界の何処かにドロシーがいるはずだ。僕より少し背丈の小さい同い年くらいの魔法使い。何かの秘密を携えたユニーク能力者を自称する少女。この広い世界の中から一人の人間を見つけるのはきっと難しいだろうが、いつか必ず僕が見つけ出して世界の真相を問い詰めなければならないだろう。
僕は決意を新たに、また世界のギルドを回ってドロシーの目撃情報を確認する旅へと飛び立った。
『@@@@@@@@XXXXXXXXXXXTTTTTTTTTMMMMMMMPPPPPPPPP』
「えっと……」
ドロシーが見つかった。
大通りから離れた目立たぬ路地に面した建物のドアを開けると、そこにはドロシーがいた。顔の1/3を占める巨大さの左目と注意深く観察しないと見逃してしまう23個の極小の右目。口と鼻の穴の境界があいまいな常に開きっぱなしの顎。ここに住んでいるという目撃者の情報は完璧に正しく、僕はついにドロシーに会えたのだ。依頼の貼り紙と何度見比べてみてもドロシーに間違いなかった。念のためもう一度だけ見比べてみても間違いなく完璧にドロシーだった。
「では依頼は完了という事ですね。おめでとうございます」
「いえ……」
親切そうな受付さんがねぎらいの言葉を掛けてくれる。やはり先人の知恵がふんだんに盛り込まれたこの捜索方法は正しかったようだ。この作戦を初めてから、僕はついにドロシーを見つける事ができた。しかも二回も見つける事ができたのだ。世界の真相に近付いている確かな手応えを感じつつ、僕は地図を開きバッテンを打った。もう二度とこの町には近付かないようにと決めた。
『@@@@@@@@XXXXXXXXXXXTTTTTTTTTMMMMMMMPPPPPPPPP』
「やっと会えたなドロシー」
三体目のドロシーは少し高級な住宅に現れた。何を目指して伸びたのかわからない放射状に広がる髪、その髪に貼り付いたようなデタラメな位置に配置された目鼻口。ガリガリに細まった役に立たなさそうな三本目の腕がぷらぷらと所在無げに揺れており、僕はほんの一度だけ貼り紙との合致を確認してから地図にバッテンを打った。受付がまたおめでとうとか言ってくるだろうなとぼーっと考えていた。
『@@@@@@@@XXXXXXXXXXXTTTTTTTTTMMMMMMMPPPPPPPPP』
「お前は何者なんだ?」
『@@@@@@@@XXXXXXXXXXXTTTTTTTTTMMMMMMMPPPPPPPPP』
「世界の真実はどうなっているんだ?」
『@@@@@@@@XXXXXXXXXXXTTTTTTTTTMMMMMMMPPPPPPPPP』
「趣味とかある?」
『@@@@@@@@XXXXXXXXXXXTTTTTTTTTMMMMMMMPPPPPPPPP』
何体かのドロシーに会ってきて解った事がいくつかある。ドロシーはこちらが何を尋ねても意味のある回答を返さない事。どれだけ顔がぶれても魔法帽のような頭部だけは共通している事。そしてドロシーが留守であるという事は無いという事だ。どれだけ変な時間帯でも出向けば必ず会う事ができたし、同じ町で目撃情報が二つあった時はそのどちらの場所でもドロシーに会う事ができた。
『私はお前の前から姿を消した訳ではない。お前が私の前に現れるという意志をまた別の意志が超越し、それによりこの結果へと辿り着いているのだ』
「はあ……」
くぐもった声で意味の解らない事を喋る目の前の異形に、気の無い返事しか返せない。街で見つかるドロシーは異音を発するものばかりではなく、言葉を操るものもいた。あとは言葉が通じればどれだけ良かっただろうと思うが、何度会話を試みても途方も無さが募るばかりだ。相対する意味不明に人間を見出そうとして幾度も失敗を繰り返す日々。バツ印が目の前に無限に広がり始めた。
「ドロシーの見つかる頻度が上がっている……」
地図にバツを打ちながら、脳に湧いた感情が声と共に漏れる。
最初は次のドロシーが見つかるまでには日を跨いでいたが、今では同日に複数の町でドロシーが見つかるのが当たり前になっていた。ドロシーが見つかったその次の町でまたドロシーが見つかるなんて事も珍しくなく、もちろん同じ町で同時に二体以上のドロシーに遭遇する事もあった。
僕は来る日も来る日もドロシーを探すために世界中のギルドへと足を運んだ。あれほど見つかってくれと祈っていたドロシーだったのに、今では何も情報が来ていないと告げられるとほっとするようになっていた。ドロシーが一度でも出た町では依頼を打ち切り、そこにはもう二度と近づかない。世界中を駆け巡ってドロシーを探していたはずなのに、ドロシーが見つかったらそこから遠ざかるようになっていた。
「この町も駄目だ……あの町にも、ドロシーが……」
ドロシーの出現範囲は明らかに拡大していた。該当の町から離れても、すぐに別の町にドロシーが出る。別の大陸に行ってもドロシーが出る。中にはまだドロシーが発見されていない大陸もあったが、だからといってそれで安心する事はまったくできなかった。
「ひい!」
町で魔法帽の少女を見かけて、悲鳴を上げる。相手は僕の悲鳴にびっくりして声をあげて振り向く。ごく普通の冒険者。怪訝な顔をして去っていく。
「なんでだ……なんで、こんな……」
まるで逆じゃないか。僕がドロシーを追いかけているはずなのに、まるで僕がドロシーから逃げているようになっている。僕が何処にいてもすぐにドロシーが追って来る。今ではこの辺一帯は既にドロシーに染まっているじゃないか。
地図を開く。世界の大陸と共に目に入るおびただしい数のバツ印。距離も障害も関係ない、僕のユニーク能力でも追いつけないほどのスピードで彼女は世界中で増殖を繰り返し続けていた。
「僕が……僕が捜索依頼を出したからか? 僕が世界にドロシーを教えてしまったからなのか?」
僕は世界にドロシーを教える事で世界がドロシーを見つけられると考えていた。だがそれは罠だったのだ。世界はドロシーに気付かない事でこそ正常を保っていたのだ。おそらく、僕を通じて世界にドロシーを広める事こそがドロシーの真の狙いだったのだろう。ノウィンで意味ありげに僕に接触してきた行動の意味が今なら全て理解できる。
「ど、どうしよう……僕のせいでドロシーの封印が……! カタストロフィがすぐそこまで迫っているんだ……!」
まさかこのまま世界全てがドロシーになってしまうのか。僕のせいで世界が崩壊してしまうのか。体の芯から来る震えがいつまで経っても止まらず、視界に入る草も石も床も全てがドロシーの顔をしているような気がしてしまう。
「違う、これはあいつの
拳をぐっと握りしめて、なんとか体を起こして前を向く。歯を食いしばって限界まで目を見開き、意志の強さを
だが威勢よく切ったはずの啖呵も一瞬だけのもので、その声は頼りなく震えていた。世界は滅亡しない。そんな紙のように薄っぺらい言葉を信じられる人間はおそらくこの世界に誰一人として残ってはいなかっただろう。
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