オラ! ワイアームの牙長者のお通りだ!
栄えた町には種々の店が立ち並ぶものであり、店に集まる客達は集まった数に相応しい熱気や賑やかさを生み出してくれる。だが今日のその町のどよめきはその全ての店の熱気を合わせたよりも更に大きい騒がしさがあった。
煌びやかな建物が並ぶ活気のある大通りの中で、どんな店や大道芸人よりも人々の注目を集める男が一人。そう、超Sランク冒険者のスバライトである。
「うーん……流石にここまで目立つとちょっとなあ」
人々が寄ってたかって僕に視線をぶつけてくる理由は、どう考えてもその嵩張る見た目であろう。せかせかと歩くその姿に追従するように何本ものバカでかい牙が周囲に直立して浮いているのである。
少しでも知識をかじった者なら、大きさだけでもうそれがワイアームの牙だと気付く事だろう。もちろん知らない人間から見ても、その見た目の異様さは極まっている。
「あのーすいません、この町の名前を教えてください」
「こ、ここはヨムクーンの町だよ!」
とりあえず親切そうな人に話し掛けて町の名前をゲットする。目に付いた大きそうな町に適当に入ったのでその名称すらわからない。建物の装飾がどこか渦を巻くような形で色もカラフルに塗られており、バリオンやノウィンしか知らなかった僕には異様なものに感じられた。
「なんか……遠くに来ちゃったな……」
こんな遠い見知らぬ街まで来たのは初めてだからハッキリ言って少し心細い。ずっと吸っているとホームシックになりかねないこの空気。何もかもがアウェー。正直帰りたい。ずっとずっと帰りたい気持ちでいっぱいだった。
「あのー、中の職員さんを呼んできてほしいんですけど」
「え!? は、はいわかりました!」
ちょうどギルドの入り口から出てきた駆け出しっぽい冒険者に声を掛け、呼び出しを頼む。僕の周りで浮いているバカでかい牙を無理に建物に入れようとすれば、襲撃と勘違いされかねないだろう。
「う、うお!? あ、あの……本日はどういった御用件で……?」
入り口から出てきたギルド職員がおそるおそると言った様子で尋ねて来る。
「あー、運よくワイアームの牙が落ちてたんで売りに来たんです」
「へ、へえ……こんなに……どうしましょうねこれ……」
困惑したギルド職員に対して後ろめたい気持ちになる。こんなに牙を持って来てはやはり迷惑だっただろうか。僕はただ僕の都合のためだけに周囲の人間を振り回している。ワイアームの牙をただ売って買って場所を動かすような無意味を冒険者ギルドに押し付けて、それで誰が得するかといえばたった一人の人殺しだけだ。それ以外の普通に生きている人たちには軒並み徒労だけが残る。
いや……ぶんぶんと頭を振り回して弱気な心を追い出す。今の僕が誰か忘れたのか? そうだ、Sランク冒険者のスバライトだ! Sランク冒険者は相手が迷惑かどうかなんて考えない! いつも自信満々に自分の出した成果にただ相手を合わせさせる、それがSランク冒険者の進む道じゃないか!
「こんなに素材が手に入るなんて、流石は超絶Sランク冒険者のスバライトといった所か! ギルド職員君も喜びたまえ! こんなこと100年に一度も無いかもしれないぞ!」
「そ、そうですね……全部買い取れるかな……」
ギルド職員は若干引きながらも、後に続いて出てきた職員も交えて扱い方を模索している。その間僕は特にやることが無いので、とりあえずSランク特有の高笑いをしておいた。
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