雑な寄付

「という訳でギルドが今買い取れるのは25本分ですね」


「なるほど」


 置かれた30本の牙の扱いについて受付から説明を受ける。流石にここまで高額のやり取りとなると、現金が用意できない事もあるだろうとは予想していた。買うための13本に届かない可能性も考えていたので、25本なら御の字だろう。


「では25本を売ろう。金貨何枚になるかな」


「全て状態も良いですし、金貨8500枚分ですね」


 よし! 具体的な数字を提示されて、またもう一つ胸を撫でおろす事ができた。とにかくこれでワイアームの牙を買いしめる事ができる。


「ではこちら、代金の白金貨85枚となります」


「うむうむ……え、なにそれ?」


 大袋を抱えて出ていくつもりだった僕は、差し出された小袋に目を丸くする。中を覗くと白く輝く硬貨が詰まっていた。


「白金貨はプラチナと呼ばれる希少な金属を使った硬貨ですね。主に取引額が高額で金貨が嵩張る時に使用されます」


 プラチナ……白金……ああ、そういえば聞いたことがある。やたらめったら希少な美しく高価な金属であると。金と違って上品な色合いがあるからアクセサリーに良さそうだとマリアが言っていた。傍で聞いていた僕は銀でいいだろと思ったが。


「というか高額報酬のクエストではよく使われるのですが……あなた本当にSランクですよね?」


「む、無論だ! ほらこのSランクヒール! ほらほら!」


 ここに来て変にボロを出してしまい、焦って派手に光ってしまう。そしてそれがかえって人目を集めてしまい、居心地の悪さも加速していく。


「それに私には白金貨なんていらないからな! どれだけ嵩張る金貨も魔法で運ぶ事ができるし、気を遣わなくていいぞ!」


「いや私共が報酬を用意する時に重いので」


「そ、そうか、強く生きてくれ! じゃあな!」


 雑に話を切り上げ、踵を返して出口を目指す。もう報酬はもらったのだ。スバライトの怪しさはここに置き去りにして、とっととポヌフールに戻ろう。


「あ、ちょっと待ってください! 残りの5本はどうするんですか!」


「ん!? えーと……寄付する! かわいそうな孤児にでも使ってくれ!」


 最後に勝手な事を言い捨てて、返事を聞く前に建物を出る。Sランクと言えど流石に強引過ぎたか? とも思うが、でも孤児に金が行くのは良い事だし……まあいいか。


「じゃあまあ……さよなら」


 なんだか疲れたのでもう人目も気にせずに風魔法で空に浮く。「さらばだ!」が正解だったと後で気付いたが、まあもう来ない町だから大丈夫だろう。



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