誰の宝の山か
そびえ立つワイアームの牙の山。一つ売っただけで金持ちになれる牙が山ほどあれば、それはもう大金持ちになれるという事だ。僕がユニーク能力者じゃなければ興奮で頭が煮えていた事であろう。だが今は興奮よりも先に疑問が前に出る。
誰がここまで集めたんだ?
これは明らかに自然に溜まったものではなく、何者かが意思を持って積み上げていったものだ。根本から見上げるその高さに、改めて訳の分からない気持ちでいっぱいになる。近付けば近づくほど逆に現実感が喪失していく奇妙な体験だった。
「誰かの悪戯と思ってしまいそうだが……どれ……」
観察すると下の牙ほど苔むして汚れており、上の牙ほど白く綺麗な事がわかった。何かの目的を持って集めたにしては、そのグラデーションの織り成す年月に途方も無いものを感じてしまう。使うために集めたというよりは、むしろ無造作に捨てていると言われた方がまだ納得が行きそうだ。無造作に捨てる……
「まさか……ワイアーム自身が?」
思考の果てにぱっとその発想が降りて来る。ワイアームが牙の抜ける度に放棄する場所……じゃあここはワイアームのゴミ捨て場? いや、というよりはむしろこの山自体が……。
「ワイアームの住処」
ワイアームが一つの巣を決めて住み着く習性があるという話は聞いたことが無かったが、あり得ない話でもないだろう。人間だって家を作って一つ所に定住するのだから、高い知能を持つとされるワイアームが同じことをしていてもおかしくはない。
そう思うと、今更になって一つの事実に気付く。この山の上にはダンジョンが一つも無かった。普通はこういう人類未踏の地にはダンジョンが蔓延っているものなのだが、それが一つも無い。誰かが掃除をしていなければこんなことはあり得ないだろう。
山の頂上が変になだらかで平らな部分が多かったのも納得が行く。そりゃ巨大なワイアームが上に乗って何十年も暮らしていたとすれば、だんだんそういう形にもなっていくだろう。なんて無茶苦茶な理由だとも思うが、同時にかなり腑に落ちる話でもある。
「なるほど、状況は理解できた。理解できたが……」
となると次に考えるべきは一つだ。
これは持って行ってもいいものなのだろうか?
抜けた牙をただ邪魔にならないように集めているだけなら、要するにただのゴミだ。いくら持って行っても痛くはないだろう。
ただ、そもそも僕がここにいる時点で他人の縄張りに不法侵入していると考える事もできる。ワイアームも留守中に家に入られると不快に思うのだろうか。敵対しないと決めた以上は一応配慮したい気持ちもあるが。
「うーん……」
まあ、これだけあるんだから少しなら気付かれないだろう。とりあえず上から下までバランスよく30本程度の牙を抜いてみる。それだけの本数を抜かれてなお牙の山は変わらず屹立していた。抜かれる前の見た目と大差無いように見えるだろう、多分。
「まあ、アナスタシアがちょっと髪切った時とかもわかんなかったしな。ワイアームもわからないだろきっと」
勝手に決めつけて山から離れる準備を始める。牙の一本が人間の背丈よりも余裕ででかいため、30本を運ぶには魔法の力が必要になりそうだった。
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