やっぱワイアーム殴るのやめよう

「やっぱりワイアームを殴るのはやめよう」


 やっぱりワイアームを殴るのはやめる事にした。こちらに害を加えない存在に率先して殴りかかるのは正直気が引けるし、冷静になって考えるとどれだけでかくとも世界に数匹のワイアームを見つけるのはなかなか骨の折れる作業である。


 それに、これは言うなれば人類とワイアームの不可侵条約を破る行為だ。別に彼らとの間に正式に何かの約定が交わされている訳ではないが、それでも一匹のワイアームが人間に牙をカツアゲされたとなれば向こうの出方も変わりかねない。僕の軽はずみな行動のせいで人類がワイアームに滅ぼされるような事態に陥ったら、それこそもう何処にも足を向けて眠れないだろう。


 一度作戦を決める所まで辿り着いたからか、そこからは冷えた頭で改めて全体を眺める事ができた。そして見直すとボロボロ出てくる作戦の粗。ワイアームを殴ってはいけない。一人のワイアームを殴れる存在としてそこは覚えておく必要があるだろう。


 しかしワイアームを殴るのが駄目だとして、ワイアームの牙を集めて売る作戦自体も駄目かといえばそうとも限らない。


 バリオンからノウィンに向かう途中で登った山の上の事を思い出していた。ああいう険しい山の上にはダンジョンとモンスターがうようよ蔓延っている。人が寄り付かないああいう場所はダンジョンが増え放題になり、だからまた余計に人が寄り付かなくなる。


 それこそ、あんな場所に立ち寄れるのはユニーク冒険者である僕と……ワイアーム・・・・・くらいのものだろう。


 つまり世界各地には危険すぎて僕とワイアームしか入れないような場所がそれなりに存在している訳だ。だからなんでもいい、世界を駆け回って目に付いた適当な高い山の上に登ってみるのだ。そこには何百年という時の中で落とされたワイアームの牙が一本や二本くらい転がっているかもしれない。


「あるかもしれないな……一攫千金」


 採取の方針は固まった。僕は人のまばらな公園から高く垂直に飛び上がり、そのまま風魔法の力により彼方へと飛び去っていった。

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